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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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鋼の頭突き再び

「俺の一撃必殺の枕攻撃を受けてみろ〜〜!」

 両手に枕を掴んだヘルツァーの叫びにリンザスが吹き出して、慌てて占領していたベッドから飛んで逃げる。

「ええ、どうして逃げるんだよ!」

 一緒にベッドを占領していたレイが、驚いたように枕を抱えて逃げるリンザスを見る。

「こういう意味だよ!」

 いきなり目の前に飛び込んできたヘルツァーは、右手で持ったクッションでまずは顎の下からアッパーを叩きつけ、うっかりまともに受けて仰反るレイの頭を今度は上から両手で二個の枕を二重に重ねて押さえ込むようにして叩きつけた。



「ふぎゃん!」



 これもまともに食らったレイが、情けない悲鳴を上げてそのまま転がる。さらに蹴っ飛ばされてベッドから転がり落ちてしまった。

「略奪完了!」

 大喜びのヘルツァーとキム、それからフォルカーの三人がレイが座っていたベッドサイドを占領する。

「あはは、おい、生きてるか?」

「ちょっとまともに落ちたけど、大丈夫か?」

 リンザスとチャッペリーが、床に敷かれた絨毯の上でうつ伏せになったまま起き上がってこないレイのところへ駆け寄って来て、笑いながらそう言ってレイの顔を覗き込もうとする。



「あ、それは駄目だって!」

「あ、それはまずいって!」

 マークとキムが叫ぶのと、レイが勢いよく起き上がるのは同時だった。



 ガツン!

 ものすごい音がして、リンザスとチャッペリーが揃って額を押さえて声も出せずに後ろ向きに吹っ飛ぶ。

「痛い!」

 悲鳴を上げたレイが頭を押さえてまた床に転がる。



「ああ、これは死んだな」

「うん、今のは死んだな」

 マークとキムの呟きに、呆然と見ていた残りの者達が同時に吹き出す。

「竜騎士隊内部でも数多の被害者を出してるという、最強と名高いレイルズの鋼の頭突きをまともに食らうとは、リンザスとチャッペリーも運のない奴だ」

 キムが腕組みをしながらしみじみとそんな事を言うものだから、床に額を抑えたまま転がって悶絶していたリンザスとチャッペリーまでもが遅れて吹き出す。

「キム、酷いよ! 別に当てたくて当ててる訳じゃないんだからね! 皆が勝手に当たりに来るんだもん!」

「んなわけあるか〜〜〜!」

 腹筋だけで起き上がったリンザスの叫びに、今度は全員揃って吹き出してしまい、揃って大笑いになったのだった。




「また豪快にぶつけたものですねえ。まあ、大丈夫だとは思いますがもう今夜は大人しく寝てくださいね」

 何故か瑠璃の館に来ていたハン先生がリンザスとチャッペリーの額を見てくれ、丁寧に湿布を当ててくれる。

「ねえ、僕は? 僕は二人と当たってるんですけど!」

 ベッドに横になって手当てを受けている二人の横で、ベッドに腰掛けて座ったままレイがハン先生の背中を叩いて笑いながら自己主張している。

「まあ、一応後で見て差し上げますよ」

「一応! 一応って言われた!」

 また笑いながらそう叫ぶと、少し離れてソファーに座っていたマーク達がまた揃って吹き出した。

「皆、覚えておいてくれよな。あれがレイルズの鋼の頭突きだ。まともに食らったら、現役の盾の勇者であろうともああなるんだからな」

 リンザスは、閲兵式の際の腕くらべで最後まで勝ち抜き、陛下から特別製の祝福の盾とミスリルの槍を贈られている。

 毎年一人しか頂けないそれを持っている騎士の事を、兵士達は盾の勇者と呼んで尊敬の対象となるのだ。

「俺、武術はそれほど得意じゃあないんだけどなあ。ってか、本気で目の前に星が散ったのっていつ以来だろう……」

 額を押さえたチャッペリーの呟きに、彼の横に座ったジョシュアが大笑いしている。

 彼らは、貴族の子息ではあるが軍人ではない。

 今は二人とも見習い扱いで、それぞれ先輩の下で指導を受けながら城の事務官として勤めている。

 当然貴族の嗜みとして最低限の武術程度は習ったが、そもそも軍人になるのでない限り、それほど必死に鍛えたりはしない。せいぜいがラプトルに乗る訓練とごく簡単な護身術程度だ。

「じゃあ、ハン先生からもう駄目だって言われてしまったので、枕戦争はここまでだね」

 笑ったレイの言葉に、皆も笑いながら揃って頷く。



「って事は! 僕達の班が優勝だね!」

 いきなりそう叫んで、レイがベッドに倒れ込む。

 一瞬遅れて、座っていたジョシュアもレイの隣に大急ぎで寝転がった。

「ほら、クッキーも!」

 寝転がったままのレイの呼びかけにソファーに座っていたクッキーも笑顔になってクッションを抱えたままベッドに飛び込む。

「僕達の班が優勝〜〜!」

 四人が揃って寝転がったまま手を繋いで高々と掲げる。

「ああ、ずるいぞお前ら!」

 ようやく意味を理解したマークとキムがそう叫んでベッドに飛び込み、それを見た残りの者達も歓声を上げて枕を抱えたままベッドに飛び込んできた。



「ちょっと、無茶しないで!」

「無理だって!」

 レイとクッキーの悲鳴の直後にまたものすごい音がして、今度はクッキーとヘルツァーが悲鳴を上げて床に転がり落ちた。

「ああ、今度の犠牲者はこの二人か」

 またしてもしみじみと呟いたキムの声に、ベッドに転がっていたリンザス達だけでなく、部屋を出て行こうとしていたハン先生までもが吹き出してまたしても部屋中大爆笑になったのだった。



『相変わらず、レイの鋼の頭突きは健在のようだな』

 ずっと笑っているブルーのシルフの呟きに、同じく先程からずっと笑っているニコスのシルフ達も揃って何度も頷き、また揃って笑い出したのだった。

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