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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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三つ巴の枕戦争

「お待たせ〜〜!」

 大急ぎでレイが湯を使って戻って来たところで、マークとキムがこれまた大急ぎで湯を使う。

 彼らは普段からそれほどゆっくり湯を使う習慣はないので、本当にあっという間に戻って来てレイを驚かせていた。

「そっか、でも確かに僕もカウリのいる第六班に応援に行った時って、湯を使うって言ってもいつもみたいにゆっくりは出来なくて、汗を流す程度しか時間が無かったよね」

 懐かしい、初めての共同生活の時の事を思い出して、ベッドに転がったレイは枕に抱きついて笑顔になる。

「カウリのいた第二部隊の倉庫へ応援に行った時だな」

「うん、あの時は初めての事ばかりでとっても楽しかったよ」

「まあ、俺達の日常なんて確かにレイルズは知らなかっただろうからな」

 笑ったキムに頭を撫でられて、レイはまるで機嫌の良い時の竜みたいに目を細めて嬉しそうにしていた。


 シルフに風をもらって涼んでのんびり寛いでいると、ノックの音がして枕を抱えたジョシュアとチャッペリー、それからクッキーが入ってきた。

「あれ、俺達が一番乗りかよ。まあいいや。おお、なかなか良いベッドじゃないか」

 今レイの部屋に置かれているベッドは普段のサイズのベッドを二つ並べてくっつけてあるので、ゆっくり三人が並んで眠れる大きさになっている。

 ジョシュアとチャッペリーがベッドの飛び込むのを見て、笑ったクッキーも後に続いた。


「お待たせ〜〜〜!」

 同じく枕を抱えたリンザスとヘルツァー、それからリッティロッドとフレディ、ロルフとフォルカーも少し遅れてやって来て、これで全員集合だ。

 後ろから入って来た執事が、三台のワゴンを部屋の隅に並べて置く。そこにはすぐに摘める軽食だけでなく、貴腐ワインやブランデーなどのお酒も多数用意されていた。もちろん冷えたカナエ草のお茶も用意されている。



「さて、これだけの人数だからなあ」

 リンザスが持っていた枕を撫でながら部屋を見渡す。

 窓側に置かれた大きなベッドの横には幅の広い衝立が立てられていて、大きなファーが全部で四台、部屋のあちこちに置かれている。

 急遽追加したのだろう、ソファーの配置は若干不自然だが今からやろうとしている事にはこちらの方が好都合だ。

「じゃあ、部隊を分けよう。二つじゃあ面白くないから三つに分けるか。ええと、よし、これでいいな」

 お酒のワゴンに置かれた何本もの木製のマドラーを取り出す。マドラーの端にはさまざまな色のついた小さな石が取り付けられていて、蝋燭の炎を受けてキラキラと輝いている。

「じゃあこれで色分けするか。ええと好きなのを選んでくれ」

 三色のマドラーを四本ずつ引き抜き色のついた方を握って差し出す。

「これを引けばいいの?」

 不思議そうにしつつ、最初にレイが一本引き抜く。

「あ、青い色だね」

「俺は黄色だ」

「俺は赤だぞ」

 マークとキムもそれぞれ一本ずつ取って色を見る。

 全員が次々にマドラーを抜き取ったところで、リンザスが自分の持つ青い色のマドラーを高々と挙げた。

「色分け完了。青は俺とレイルズ、あとは誰だ?」

「はあい俺で〜す!」

 ジョシュアが青いマドラーを持って頭上に掲げる。

「俺も青だよ」

 クッキーも笑って青いマドラーを高々と掲げた。

「では、黄色は誰ですか!」

 マークの呼びかけに、チャッペリーとフレディ、それからロルフが手を挙げる。

「って事は……」

 赤いマドラーを掲げるキムの横にリッティロッドとフォルカーとヘルツァーが集まってきた。



「よし、これで部隊分けは完了だな。では、この部隊同士で戦うぞ。最後までベッドを占領した班が勝者だよ!」



 リンザスの大声に、レイとジョシュアが歓声を上げてすぐ側のベッドに飛び込む。その後にリンザスとクッキーも続く。

「そうは行くか!」

 マークとチャッペリーが持っていた枕を振りかぶって同じくベッドに飛び込む。

 出遅れたフレディとロルフは、すでに始まった枕を振り回す攻防戦を見て、揃って頷きソファーのクッションを両手に持って参戦した。

 キムとリッティロッドは洗面所へ走り、戸棚から予備のシーツをまとめて抱えて持って戻って来た。

「誰を捕まえる?」

 フォルカーの言葉にヘルツァーもにんまりと二人が笑う。

「そりゃあ主催者をまずは歓迎して差し上げないとな!」

 四人がかりで大きなシーツを広げてベッドまで走り、今まさに枕を振り回して殴り合っているレイとチャペリーを二人揃ってシーツでぐるぐる巻きにする。

 それを見たマーク達が揃って吹き出して大急ぎでベッドから離れる。



「捕虜はくすぐりの刑!」



 ロルフがそう叫んでシーツの上から思いっきりくすぐると、中からレイとチャッペリーの悲鳴が聞こえた。

 それを聞いて全員が吹き出し、歓声を上げてシーツに飛びかかっていった。

「待って待って! くすぐるのは駄目〜!」

 情けないレイの悲鳴の直後に、暴れたシーツがベッドから全員を巻き添えにして転がり落ちる。

「ふぎゃん!」

 大柄なリンザスとヘルツァーの二人が上から倒れ込んできて、シーツの中からくぐもった悲鳴が聞こえる。

「ああ、ごめんよ」

 起き上がった二人がそう言って、シーツの端を持って力一杯引っ張る。

「うひゃあ〜〜〜!」

 二人並んで勢いよくシーツから転がり出たレイとチャッペリーに、また何人かが襲いかかる。

「でも武器は離してないもんね!」

 転がり出てソファーに当たって止まったところで、レイが勢いよく起き上がって枕を振り回す。

「ベッド奪還!」

 飛びかかってきたフレディとロルフを撃退したレイはそう叫んで、ソファーからもう一つクッションを掴んで、両手に持った枕とクッションを振り回しながらキム達が占領したベッドに向かって突撃していく。

「させるか!」

 レイの後ろから走って来たチャッペリーに横から枕で吹っ飛ばされて、笑いながらレイが転がる。

 そのままベッドに飛び込んだチャッペリーは、待ち構えていたキムとヘルツァーに枕で迎撃され、その直後にまたシーツでぐるぐる巻きにされる。

 そこへ笑ったレイが飛び込んで来て、振り回した枕とクッションでキムとヘルツァーが吹っ飛ばされる。

 そこにマーク達が飛び込んで来る。



 声を上げて笑いながら枕で殴り合う彼らを、窓辺に並んで座ったブルーのシルフやニコスのシルフ達だけでなく、勝手に集まって来た何人ものシルフ達も大喜びで笑って手を叩きながら、愛しい主が激戦を繰り広げる枕戦争をのんびりと観戦していたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] レイくんが誰ともごっつんこ しない様に祈っておこう(誰に?) 三つ巴の枕戦争なんてごっつんこ不可避な 気がしてハラハラする。
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