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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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先輩と後輩

「いや、全く新しい知識を持った先駆者が目の前にいるのに、どっちが先輩だ後輩だなんてそんな些細な事に拘って、それを学ぶ機会を逃す方が愚かだろう? ここは、優秀な人に教わるのが正しい勉学のあり方だろうが」

「何故だろう。ものすごく良い事を言ってるはずなのに、このそこはかとなく漂う情けなさは」

 胸を張ったジョシュアの言葉を、隣で腕を組んだチャペリーが笑って混ぜっ返す。

 それを聞いて、また全員揃って吹き出して大笑いになった。

「あはは、だけどマークも以前同じような事を言ってたぞ」

「そうだったなあ。確かにそんな事言った覚えがあるよ。良いじゃないか。優秀な奴は誰が見ても優秀なんだからさ」

 マークとキムの言葉に、レイも一緒になって声を上げて笑っていた。



 それから後は、マークとキムが中心になってまずは合成魔法の基礎的な考え方を教え、時にレイも一緒になって横から説明を手伝ったりもした。

 もう全員が夢中になってマークやキムそしてレイの話を聞きたがり、三人も大喜びで、合成魔法の再現に苦労した事や失敗した時の事を夢中になって話し続けていたのだった。




「ううん成る程なあ。これだけ詳しい説明や体験談を聞いたら、なんだかもう自分が合成魔法が使える気になってきたぞ」

 配られた資料を見ながら、ジョシュアが嬉しそうにそんな事を言って笑っている。

「だけど、さすがにここで実践するのは危険だよなあ。まあ実技は次の機会だな」

 チャッペリーも、持っていた資料を置いて本で埋め尽くされた書斎の中を見回す。

「確かにここでやるのはまずいな。万一にも、ここにある本に被害が及ぶような事があってはいけないもんな」

 彼らは皆、それぞれ属性によっては得意や不得意はあるが、全員が非常に優秀な精霊魔法使いだ。

 なので、万一精霊魔法の発動に失敗して術が暴走すれば、どのような事態を引き起こすのかを嫌と言うほど心得ている。

 教授達からも散々聞かされているし、そう言った被害の文献や資料も数多く見せられている。

 それに、誰しも精霊魔法を習い始めて間もない頃には、一度や二度は術の発動に失敗して痛い目を見たりもしている。レイのように、大きな失敗も無く最初から安定して精霊魔法の発動を制御する事が出来る方が珍しいのだ。



「じゃあ、リンザスとヘルツァーがオルダムにいる間に、何とか時間を作るからさ。離宮で一度合成魔法の練習会をやってみようよ。せめて、発動の感覚とかコツくらいは覚えて欲しいよね」

「ああ、確かにリンザスとヘルツァーの二人には、絶対に基礎くらいは覚えて帰ってもらいたいものなあ」

 笑顔のレイの言葉にマークとキムも頷き、周りでは自分もやりたいと手を上げて皆揃って自己主張していた。

 その後はここまでの座学に関する質疑応答の時間を作り、レイ達三人は、全員からの質問責めにあったのだった。




「失礼いたします」

 全員がすっかり夢中になって、合成魔法の魔法陣の展開に関するそれぞれの考えを出し合い激論が交わされていた時、ノックの音がしてアルベルトが書斎に入って来た。

 当然、誰もそれには振り返らず議論に夢中だ。



 それを見て小さく深呼吸したアルベルトは、軽く咳払いをした。

 しかしその音は案外部屋中に響いて、一瞬議論の声が止まる。

「大変失礼をいたしました。皆様、非常に有意義なお時間をお過ごしのご様子ですが、そろそろ夕食の準備が出来上がっております。どうぞひとまず勉強はお休みいただき、まずはお食事をお召し上がりいただきますようお願い申し上げます」

「うん、僕お腹空いた!」

 無邪気なレイの答えにアルベルトは笑顔で一礼する。

「確かに腹は減ったな。じゃあひとまずここまでにして食事にするか」

 リンザスの言葉に、皆も苦笑いしながら立ち上がり、食事のために別室へ向かった。

「あ、ここはまだ片付けないでね。食事が終わったら戻って来て続きをするから」

 別の執事が廊下に待機していたのを見て、レイが慌ててそう伝える。

「かしこまりました。ではいってらっしゃいませ」

 一礼されて笑顔で頷いてから、慌てて皆の後を追いかけた。




「うわあ、良いなこれ」

「うん、こういう自由なのがいいね」

 部屋に入った一同は、壁際に用意された様々な料理の数々に嬉しそうな歓声を上げた。

「ああ、よかった〜〜」

「だよな。実を言うと、改まった席だったらどうしようかと内心ヒヤヒヤしてたんだよな」

 自分で好きに取って食べられるように用意されている料理を見て、マークとキムが大喜びでそう言って手を叩き合っている。

「ん? どうしたんだ?」

 ロルフが不思議そうに二人を見る。

「いや、一応これから先、貴族の方との付き合いが増えるだろうからって言われて、今、礼儀作法とかテーブルマナーの勉強の真っ最中なんだよ」

「辺境農家出身の一般人に、そんな高等技術を求めないでくれよってな」

「あれ、そうなんだ」

 リンザス達も驚いたようにその声に振り返ってマーク達を見る。

「一応、ルーク様やディレント公爵閣下のところから定期的に執事さんが来てくれて、最低限だって言われて色々勉強してるんだよ」

「もう絶対無理だって……」

 その、さっきまでとは違うあまりにも情けなさそうな様子に、貴族の子息達は苦笑いしている。

 彼らにとっては当たり前の日常の様々な礼儀作法やマナーも、市井の出身である彼らには随分と難しい事のようだ。

「ああ、それならせっかくだから俺達も協力してやるよ。例えば今みたいなこんな気楽な場でも、最低限の守るべきマナーはあるからな」

「そりゃあ良い。俺達にもマークとキムに教えてあげられる事があったじゃないか。よし、なんでも聞いてくれよな。張り切って教えるぞ」

 現役の、確かにこれ以上ない先生役である彼らの言葉に、顔を引き攣らせつつも揃ってお礼を言うマークとキムだった。

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