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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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講義の前に

「さてと、じゃあまずはやっぱりここからかな」

 アルベルトが下がっていくのを横目に見送ったジョシュアは、にんまりと笑ってマークとキムの肩を叩いた。

「それじゃあ読書は夜のお楽しみにして、まずは合成魔法の基礎講義をお願い出来るか」

「了解だよ。まさかここまで来て合成魔法の講義をするとは思わなかったけどなあ」

「確かにそうだよな。簡単な説明程度はするかと思っていたけどさ。だけど、これに関しては、彼らにだって覚えてもらって決して損はないと思うからな」

「まあ、実戦で使うような事は、まだ無いだろうけどな」

 その言葉に、リンザスとヘルツァーが揃って驚いて彼らを見る。

 かれらは、万一出動した際にはどのように実戦で使えそうかまで聞くつもりだったのだ。

「まだ安定度が低いから、正直言って現在ではコケ脅し程度の威力しか無い。ちょっとした衝撃で簡単に消滅してしまうんだよ」

 これは二人やレイにとっては常識なのだが、合成魔法を全く知らない精霊魔法使いは皆、それを聞くと一様に驚く。

「最初に覚えておいて欲しいんだけれども、この合成魔法は今はまだ研究段階で、安定度は極めて低い。しかも、合成する精霊魔法によって、合成魔法にも様々なものが確認されている。今はある程度までは発動はするようになったから、今後はいかにこれを安定して発動させるかを研究していかなければいけないんだ。どれくらいかかるかなんて、はっきり言って俺達が知りたいくらいだって」

 もっと、合成魔法は万能だと思っていた彼らは、マークとキムだけでなくレイも一緒になって頷くのを見て、真剣な顔で揃って居住まいを正したのだった。




 それからマークとキムは顔を寄せて小さな声で相談したあと、持って来ていた鞄を足元のカゴから取り出して机に置いた。

「それじゃあ、まずはここからかな」

 鞄の中から取り出したのは、分厚い書類の束だ。

「まさかこんなに希望者がいるとは思わなかったから、申し訳ないんだけど配布用の資料はそんなにたくさんは持って来ていないから全員分には足りないんだ。後日改めて資料は届けるから、今日のところは二、三人で見てもらう事になるけど構わないかな」

「あ、それって以前作った資料? それなら、僕が資料として写しをまとめてもらった分がここにあるよ」

 レイが慌てて立ち上がって、書斎の奥にある大きな引き出しを開けてこれまた分厚い資料の束を持ってきた。

「今までにマークとキムから貰った資料は、これで全部だよ。どう?」

 机の上に置かれた資料の束を見て、マークとキムが目を輝かせる。

「ええ、これってもしかして今までの分全部?」

「うん、貰った分は全部綺麗に整理してまとめてあるからね。こっちは僕が自分の書き込みとかをしてる勉強用のだから配布はしないでね。それ以外のこっちは、資料用と研究用にって言ってまとめて写しをもらった分の残りだからさ、使えるのがあれば使ってくれてもいいよ」

「じゃあこれだけあれば、俺達が持ってる配布の予備の分を皆に渡せば足りるな。俺達は講義の時にはこれを見ながらやればいいじゃないか」

「それでいいんじゃないか。それならギリギリ足りるよ……って、ああ駄目だよ。レイルズの見る資料が無くなるじゃないか」

 慌てたマークの言葉に、レイは笑って首を振った。

「ここまでの講義だったら、僕は資料は無くても問題無いから構わないよ。見たい時は他の人達のを見せてもらうからさ」

 当然のように笑ってそう言い、ジョシュアの隣に座る。

「悪いな。じゃあそれで頼むよ。ってか、レイルズもどちらかというとこっちへ来て一緒に講義するべきじゃね?」

「確かに、じゃあレイルズはこっちへ!」

「ええ、僕も二人の講義が聞きたいです〜〜!」

 笑いながらも彼らの横に立つレイを見て、ジョシュア達はもう笑いを堪えるのに必死になっていたのだった。



 改めて全員に資料が渡され、まずは資料を読み込む時間を取る。

 その間にマークとキムは、レイに簡単な講義の際の注意点や、手伝って欲しい事などを詳しく説明していた。

 目を輝かせて頷くレイの両肩にはブルーのシルフとニコスのシルフ達が並んで座り、彼らの話と手元の資料を真剣な眼差しで見つめていたのだった。



 講義の最初は、きっかけとなった偶然の合成魔法の話と、キムが入隊当時に初めて自覚したという、自分で無意識のうちに火と風の精霊魔法を合成していた時の話をした。

「ええ、お前、なんて無茶をするんだよ」

「普通は、無意識でそんな事絶対しないって!」

「だよなあ、やっぱり努力の出来る秀才は違うよなあ」

「でもって、無自覚の達人は、精霊魔法そのものを勉強し始めてからわずか数年で、それにちゃっかり追いついて一緒に勉強してるんだもんなあ」

「何年も必死になって勉強している凡人の身としては、やってられないよなあ」

 皆が、二人の二つ名をからかい半分に言いながら揃って天井を仰ぐ。

「もう、この資料を見ただけで俺達とは頭の作りが違うって分かるよなあ」

「確かに、これを読む事は出来るけど、この資料を一から作れって言われたら……多分俺は泣くな」

「いや、泣いて済むならいくらでも泣けばいいよ。そういう問題じゃあないってこれは」



 配られた資料を手に好き勝手言っている彼らを見て、キムはにんまりと笑った。

「それの資料作りは、実を言うと俺達も相当苦労したんだよ。だけどレイルズがこれに関しては有能でね、かなり色々と手伝ってくれたんだよ」

「確かに、俺達がまとめるのに苦労していた資料をいとも簡単にまとめてくれたんだよな」

「離宮の勉強会も有り難かったよなあ」

 うんうんと頷きあう二人の言葉を、皆が感心したように聞いている。

「やっぱり自覚なき天才もすごかったか」

「もう俺達なんて、足元にも及ばないよなあ」

「おかしいなあ、確か俺達って、全員彼らより先輩じゃなかったっけ?」

 最後のリンザスの言葉に全員が揃って吹き出し、その場は笑いに包まれたのだった。

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