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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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身分と友情

「ちょっ……レイルズ、お前なに言ってるんだよ」

 慌てたようなマークの小さな呟きが、静まり返った部屋に驚くほどに大きく響き渡った。

 ほぼ同時に隣にいたキムが大慌てでマークの口を塞いだが、残念ながらその時にはもう遅かった。

 しかし誰一人その発言を咎めるような事も無く、誰も口を開かないままで全員が頭を下げるレイを真剣な顔で見つめていた。



 頭を下げたままのレイと、硬直するマークの口を塞いだまま同じく固まっているキム。そして二人と同じように言葉も無く、目を見開いて固まっているクッキー。

 彼らの頭上に集まったシルフ達ですら一言も喋らず、全員が固唾を飲んで彼らを見つめていた。



「く、くくく……」



 しばしの沈黙の後、静まり返った部屋に誰かの笑う声が聞こえた。

 そしてレイ達以外の、ここにいる貴族の若者達全員が一斉に笑い出した。

 最初は忍び笑いのような小さな笑いだったのだが、だんだんと笑い声は大きくなり、最後には全員が大爆笑になった。

 だが、レイとマークとキム、それからクッキーの四人は驚きに目を見開いて、ひたすら大笑いしている彼らを見つめているだけだ。



「あはは。な、だから言っただろう? レイルズなら絶対にそうしたがるって!」

「ああ、まさに言った通りだったなあ」

 リンザスとヘルツァーが顔を見合わせて手を叩き合っている。



「ご慧眼恐れ入ったよ」

「ああ悔しい、俺達から言い出して感激させてやるつもりだったのに!」

 ジョシュアとチャッペリーも、同じく手を叩き合ってそんな事を言ってはまた大笑いしている。



「だよなあ。ってか俺は悲しいぞ。お前らにそんな無茶を言う傍若無人なやつだと思われていたなんてなあ」

「本当にそうだよなあ。そりゃあ確かに身分は違うかもしれないけど、俺達はお前らの事だって友達だと思ってるんだぞ!」

 ロルカとフォルカーも、マーク達を横目に見ながらそんな事を言っている。



「俺は悲しいよ。いつも買い物をする時には、頑張ってクッキーの店で色々注文してる俺の苦労が伝わってなかったなんて」

「そうだよなあ。せっかくだったら友達に儲けさせてやりたいって思って頑張ってるのになあ」

 リッティロッドとフレディも、顔を見合わせて呆れたようにそんな事を言って、泣くふりをしながら笑っている。



「えっと……」

 戸惑うように顔を上げたレイの元に、ふわりとブルーのシルフが飛んで来て彼の頬にそっとキスを贈った。

『よかったな。どうやら其方の友人達は皆、身分よりも友情を選ぶ良き人達のようだな』

 その隣では、ニコスのシルフ達もこれ以上ない笑顔で何度も頷いている。

 目を輝かせて彼らを見たレイは、そのまま走って一番近くに座っていたリンザスに抱きついた。

 慌ててリンザスが自分よりも大きなレイを抱き返す。

「ありがとう! ありがとう!」

 何度もそう言いながらしがみつくレイを、呆れたように笑ったリンザスがそっと背中を叩く。

「分かったから、嬉しいのは分かったから。いいから手を離せって。主催者が、そんなにぴょこぴょこと子供みたいに走り回るんじゃあねえよ」

「ああ、ごめんなさい!」

 リンザスに笑いながらそう言われてまた慌てて手を離すレイを見て、今度は貴族の若者達だけではなくマーク達三人も同時に吹き出し、全員揃ってまたしても大笑いになったのだった。

 レイも慌てて席に戻りながら、一緒になって声を上げて笑っていた。

 ようやく笑いが収まる頃には、感激のあまり目を潤ませた三人が改めてお礼を言い、リンザス達にからかわれたのだった。



「俺達だって、精霊魔法の合成と発動に関する講義を聞きたくて堪らないんだよ! いつになったら国境の砦で講義をしてくれるんだと思って、国境の第四部隊の奴らは全員、お前達が来てくれるのをずっと待ってるんだぞ」

「そうだぞ。せっかくオルダムに帰るんだから、ここにいる間に何とかして一度でも良いから、お前らから講義を聞かせてもらって来いって、俺なんか上司から直々に頼まれてるんだからな!」

 リンザスとヘルツァーが、そう言って笑いながらマーク達に向かって手を振る。

「ああ、お前らだけ狡い! そんなの俺達だって聞きたいに決まってるじゃないか!」

「そうだぞ。俺達も一緒に聞かせてくれよ!」

 笑っていた全員が手を上げながらそう叫ぶのを見て、レイはもうこれ以上無い笑顔になるのだった。

「分かった。じゃあお茶会の後は書斎でまずは講義をしようよ。それでもし今日時間が無ければいつでも場所は提供するから、ここか離宮で一緒に実践訓練もやってみようよ! ねえ、どう? 構わないよね?」

 ものすごい勢いで振り返ったレイの言葉に、苦笑いしつつも大きく頷くマークとキムだった。

 その結果、レイの提案は全員からの拍手喝采を受けこの後の予定が決定したのだった。




「おお、さすがは甘い物好きで有名なレイルズのお茶会だなあ」

「これは、甘いものが好きなお嬢さん達が見たら狂喜乱舞しそうだ」

「ううん、確かに有名どころのお菓子がここまで揃うと見事だなあ」

 机の上に所狭しと並べられたお菓子の数々に、半ば呆れつつも全員が大喜びで平らげていたのだった。

 普段は国境の砦勤務で、食事の種類など限られていてほとんど甘い物を食べる事など無いリンザスやヘルツァーも、ここでは皆と一緒に大喜びで珍しいお菓子の数々を食べ比べては、こっちが良い、いや俺はこっちが好きだと好き勝手に言って笑い合っていたのだった。

 レイも、大好きなお菓子を食べながら、そんな彼らを見て僕はこれが好き! と主張して、また笑いをとっていたのだった。

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