懐かしい旧友との再会
「ああ、そろそろお出ましかな? あの団体ってそうだろう?」
クッキーの言葉に振り返ったレイは、見えて来た一行の姿を確認して笑顔になる。
「全員ラプトルに乗ってるなあ。それで言ってた謎の人物っていったい誰なんだろうな?」
「まあ、そりゃあ常識的に考えてレイルズの知ってる人物なんじゃあないか? 今日は普通のお茶会じゃなくて、あくまで瑠璃の館のお披露目が目的なんだからさ。いくら知り合いの紹介とはいえ、見ず知らずの人間にいきなり家の中を案内するか?」
「ああ、そっか、そりゃあそうだな」
キムの言葉にマークが納得するようにそう言って頷いている。
実際にはそんなことは珍しくもないのだが、二人はそんな事は知らない。
貴族達の付き合い方の複雑さを知るクッキーは、そんな二人を苦笑いしながら見ていた。
「ああ、リンザスとヘルツァーだ!」
近づいて来るラプトルに乗った一行の中に、見知った顔を最初に見つけたのは四人の中では一番背が高いレイだった。
突然聞こえた、ここにいるはずのない人達の名前に三人が驚いて目を見開く。
「ええ! 見間違いじゃないのか?」
「だって、リンザスとヘルツァーは国境の砦に配属されてるんだぞ?」
レイの叫ぶ声に驚いたマークとキムがそう言い、必死になって背伸びをして近づいて来る一行を見つめた。
「ああ、本当だね。確かにリンザスとヘルツァーがいるよ」
クッキーがそう言って笑った直後に、マークとキムも彼らの顔が見えて揃って歓声を上げた。
「そうか。イルフォード伯爵家の一番下のお嬢さんが結婚なさったから、きっとその式に参列するためにオルダムまで帰って来たんだろうね。お相手はマルトリッツ伯爵家の次男だったはずだよ。オルダム在住の伯爵家同士だから、さぞかし立派な結婚式だったんだろうね」
さすがに貴族達のそういった情報に詳しいクッキーの説明に、三人は感心したように何度も頷いていたのだった。
「あ、イルフォード伯爵家のお嬢さんだったら、ご結婚のお祝いだってラスティから聞いてカードを書いた覚えがあるよ」
手を打ったレイの言葉に、マークとキムが感心したように揃って声をあげる。
「ああ、レイルズ様のお立場なら、確かにお祝いのカードを贈られるのは当然でしょうね。こういった場合は、お祝いのお花にカードを添えてお届けするのが慣例ですね」
「妹さんを直接知らなくても?」
マークの質問に、クッキーがにっこり笑って頷く。
「貴族って、大変なんだなあ」
今更ながら、レイの身分を思い知らされてただただ感心するマークとキムだった。
そんな話をしているうちに一行が玄関前に到着する。クッキーが黙って一歩下がるのを見て、マークとキムもそれに倣った。
「ようこそ瑠璃の館へ!」
進み出た笑顔のレイの言葉に、次々に皆が笑顔で手を挙げてラプトルから飛び降りる。
「リンザス! ヘルツァーも! 久し振りだね。会えて嬉しいよ」
満面の笑みのレイの言葉に、二人も照れたように笑ってがっしりと握手を交わした。
それから順番に皆とも挨拶を交わした。マークとキムだけじゃなくクッキーも来ているのを見て、ジョシュア達も笑顔で挨拶を交わしていた。
「それにしても俺、良い仕事しただろう? 丁度リンザスの妹の結婚式に参列するために、彼だけじゃなくてヘルツァーまで一緒にオルダムに休暇で戻って来ているって聞いたもんだからさ。しかもそのタイミングで瑠璃の館のお披露目会だったからさ、これは誘わない方が失礼かと思ってね。それで本人に連絡したら大喜びで是非参加したいって言うから、そっちの執事に事前に連絡して連れて来たんだよ」
「うん、僕もそう聞いたよ。でも誰が来るかまでは聞いて無かったんだ。二人を連れて来てくれてありがとう。ジョシュア!」
これまた満面の笑みでそう叫んだレイの様子に、得意げに胸を張るジョシュアだった。
「なあ、それよりちょっと言ってもいいか!」
「ああ、俺も一言言いたい!」
その時、リンザスとヘルツァーが揃ってそう言いながらレイの腕や背中を突っついた。
「うん、どうしたの?」
不思議そうに振り返ったレイを、突然二人が左右から飛びかかって腕を捕まえていきなり確保した。いつもと違って完全に油断していたレイは、あっけなく二人に捕まってしまった。
「ええ、ちょっと。二人共何するんだよ?」
しかし冷静になってみると、腕を掴まれているだけで特にその腕を捻り上げられたり押さえ込まれたりしているわけではない。なので悪意はないみたいだ。だけど二人に捕まった腕はピクリとも動かせない。さすがは最前線に立つ現役の軍人だ。
「お前、どれだけデカくなってるんだよ!」
「ジョシュア達が、俺達がレイルズに会ったら絶対驚くって言ってた意味がよく分かった! お前はラプトルかよ! どれだけ成長してるんだよって!」
揃って叫んだ二人の言葉に、その場にいた全員が同時に吹き出して大爆笑になる。
「ええ、そんなの僕に言われても困るんだけどなあ」
レイも捕まえられたまま笑ってそう言い返す。
「有り得ねえ。このデカさはおかしい」
「初めて会った頃はあんなに可愛かったのに。このデカさは反則だって」
笑いながらのリンザスとヘルツァーの叫びにまたしても全員揃って吹き出し、皆お互いの腕に縋ってお腹を押さえて笑い合っていたのだった。
いつまでも仲良く笑い合っている一同を、少し離れた木の枝に並んで座ったブルーのシルフとニコスのシルフ達が嬉しそうに眺めていたのだった。
その周りでは他の人達と仲の良いシルフ達も集まって来ていて、久し振りに会ったブルーのシルフに嬉しそうに挨拶をしていたのだった。




