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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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読書と昼食会

 それからしばらく。それぞれに好きな本を読んで過ごした。

 広い書斎は、時折ページをめくる微かな音とそれぞれがノートに文字を書くときのカリカリという小さな音がするだけで、とても静かな、しかしとてもそれぞれにとって有意義な時間が流れていた。

 クラウディアも、読んだ事の無い光の精霊魔法に関する考察の本を見つけて夢中になっていたし、ニーカも、精霊竜と人々との関わり、というかなり古い本を見つけて、こちらも夢中になって読み耽っていたのだった。

 ブルーのシルフとクロサイトの使いのシルフは、机に置かれた大きな燭台に座って、夢中になって本を読んでいる愛しい主人達を飽きもせずに見つめていたのだった。




「……様、レイルズ様」

 軽い咳払いの音とともに軽く腕を叩かれ、レイは文字通り飛び上がった。

「ええ、何々?」

 慌てて本を持ったまま周りを見回す。

 レイの声に驚いて、時間差で四人もそれぞれに飛び上がった。

「これは大変失礼をいたしました。皆様、非常に有意義な時間を過ごされておられるようで何よりでございます。ですがそろそろ昼食のお時間でございます。ご用意が出来ておりますので、どうぞ読書は少しお休みいただきますようお願い申し上げます」

 優しいアルベルトの言葉に、レイは照れたように笑った。

「あれあれ、もうそんな時間なんだね。本を読んでるとあっという間だよ」

「確かにそうだよな。でもクラウディアとニーカは今日は昼食までなんだろう? じゃあそろそろ行かないと食べる時間が無くなっちまうぞ」

 マークの言葉に、キムも読みかけの本を置いた。

「そうね。すっかり夢中になっちゃったけど、私達は午後からはお勤めがあるから帰らないといけないんだっけ」

 苦笑いするニーカの言葉に、クラウディアも読んでいた本を置いて立ち上がった。



 アルベルトの案内でそのまま庭へ出る。



 昼食は、初日に昼食をいただいた西側の庭だ。

 前回は人数が多かった為に四阿(あずまや)の横に大きな日除けのテントが建てられていたが、今日はそれよりももう少し小さめのテントが建てられていて、そこに様々な料理が並べられていて、好きに取ってもらえるようになっていた。

 小さな石造りの四阿の石の椅子には柔らかなクッションが置かれ、料理を置けるように小さな机もいくつも用意されているし、少し離れた別の場所には背もたれのついた大きな椅子も四つ用意されていて、そこに座れば満開の蓮の花が咲く池が眺められるようになっていた。

 初日よりは種類も量も少なかったが、用意されている料理の数々はクラウディア達にとってもマーク達にとってもこれ以上ないご馳走で、皆で楽しそうに笑い合いながらこれが美味しそう、いやこっちが良いと大喜びでお皿に取っていたのだった。



「ううん。この燻製卵美味しい!」

 ニーカの言葉に同じものを食べていたクラウディアもうんうんと何度も頷いている。

 まだ燻製卵が口の中に残っていたために咄嗟に返事が出来なかったのだ。

「このローストビーフ、とろけそうだ。めちゃめちゃ美味しい」

「こっちのベーコンの味の濃厚な事。それなのに全然硬くないんだ。ふわふわで肉汁たっぷり! いつも食べてるのと同じ肉だなんて信じられない」

 キムは、料理長自慢のローストビーフが気に入ったらしく、一通り平らげるともう一度もらいに行くほどだったし、マークは、目の前で焼いて貰った分厚いベーコンの美味しさに感動して、こちらも早々にお代わりを貰いに走っていた。

 クラウディアとニーカは、料理長おすすめの柔らかい地鶏の焼いたものをもらい、こちらもあまりの美味しさに二人揃って悶絶していた。

 レイはそんな彼らを見ながら、嬉しそうに燻製肉を頬張っていた。

 四人は一応、最低限度の礼儀作法は習い終えている。なのでまあ若干怪しい部分もあったが、それなりのお行儀で無事に食事を終える事が出来たのだった。



 デザートが並び始めると、一息入れて背もたれのついた席へ移動する。

 そこで並んで座って池を眺めながら、レイはマイリーに教えて貰ったこの池の秘密を嬉々として説明し、遠近法についてもごく簡単に説明したのだった。

「へえ、確かに言われてみればその通りだな。手前と奥で木の大きさが違う」

「それに花の大きさも違うぞ。ほら、葉っぱの大きさまで違う。へえこりゃあすごい」

 キムとマークが感心する横で、クラウディアとニーカはポカンと口を開けたきり二人揃って池を眺めていたのだった。

 その後は、初日と二日の様子をレイが少しだけ話し、皆もひたすら感心しながら笑顔で聞いていたのだった。




「今日は本当にありがとうございました。すっごくすっごく楽しかったです!」

「本当にありがとうねとても楽しかったわ。お料理もとても美味しかったしね」

「うん、とっても美味しかった!」

 用意した馬車に乗り込んだクラウディアとニーカは、まだ開いたままの扉から身を乗り出すようにして見送りに玄関まで出て来てくれたレイ達三人に笑顔で手を振った。

「今日は来てくれて嬉しかったよ、こちらこそありがとうね。えっと、これはお土産です。神殿の皆さんで召し上がってください」

 アルベルトに渡されて、レイが大きな籠をクラウディアに渡す。

「まあ、素敵!」

 籠の中を見て、クラウディアが笑顔になる。

 そこには様々な焼き菓子やビスケットがぎっしりと並んでごく薄い紙で包まれていたのだ。

「うわあ美味しそう!」

 横から覗き込んだニーカも、これ以上無い笑顔になる。

「それじゃあ気をつけてね。次はどこで会えるかな」

「そうね、本部で会う方が早いかもね。私達は定期的にお掃除に通ってるし」

「皆が揃うのは訓練所かな?」

 マークの言葉に笑顔のキムも頷く。

 もう一度手を振った二人が、籠を置いて椅子に座る。

「失礼いたします」

 それを見た執事が一礼してからゆっくりと扉を閉めて後ろに乗り込む。

 二頭立てのラプトルが引く馬車が出発するのを、レイ達三人は笑顔で手を振りながら見送っていたのだった。

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