瑠璃の館へ到着!
「うわあ、どのお屋敷もとても綺麗ね」
城壁を抜けて一の郭に入ったところで、馬車の窓から外を見て目に入る大きな屋敷の数々にニーカは嬉しそうな声を上げた。
クラウディアも目を輝かせて一緒になって外を見ている。
「いつも訓練所へ行く時に一の郭の道を通っていたけど、あの道沿いよりもこの辺りの方が屋敷が大きいわね」
クラウディアの言葉にニーカも頷く。
「確かに言われてみればそうね。うわあ見て見て、すっごく綺麗。あのお屋敷は蜂蜜みたいな綺麗な飴色をしてるわ」
ニーカが指差したのは、彼女達は知らなかったがそれはヴァイデン侯爵夫妻の住む館だった。
琥珀の館との別名がついているそのお屋敷は、確かに蜂蜜のような綺麗な焦げ茶色をしている。
「本当ね。確かに綺麗な蜂蜜色ね」
「こうして改めて見てると、一の郭のお屋敷の色や形ってさまざまなのね。へえ面白い」
窓から見える景色を身を乗り出すようにして眺めながら二人は大喜びで、あれが綺麗、こっちも素敵と、大はしゃぎで束の間のお喋りを楽しんだのだった。
朝練を終え、時間までいつもの仕事部屋でやりかけの作業をしていたマークとキムは、身支度を整えてから事務所に立ち寄り、外出届と外泊届を提出してからラプトルに乗って一の郭へ向かった。
「まさか、瑠璃の館の中へ入れる日が来ようとはな」
「しかも、泊まらせてもらえるなんてな」
ラプトルをゆっくりと歩ませながら、二人は顔を見合わせて嬉しそうに頷き合った。
「レイルズによると、書斎の本は離宮に負けないくらいの質と量だそうだからな」
「楽しみだな。今度はどんな本があるんだろうな」
「せっかくだから、精霊魔法の失敗例とかが載った資料集なんかがあると最高なんだけどなあ」
「確かに。だけど贈り物として集められた本なんだから、新しい本なんじゃ無いのか?」
「ああそうか。それならちょっと無理かもな。でも、きっと有用な資料が見つかる気がする」
「そうだな。もし無ければ、レイルズに頼んで一度離宮の書斎へ入れてもらってもいいかもな」
彼らが今作っている資料用に、精霊魔法の失敗例を幾つか集めなければならなくて苦労しているのだ。
離宮の書斎は、いつでも使ってくれていいと陛下から直々の許可をいただいてはいるが、さすがに城の図書館へ行って気軽に資料を漁るような真似は出来ない。
実際には許可が出ているのだから行っても全然構わないのだが、貴族でもない彼らに、王族直轄の離宮に、自分達だけで気軽に出入りしろと言うのはかなり無理な話だった。
『楽しみ楽しみ〜』
『お泊まりお泊まり〜〜』
彼らにいつもついて回っているシルフ達が、楽しそうにそう言いながら彼らの頭上をくるくると跳び回っている。
「そうだな。とっても楽しみだよ」
「俺も楽しみだよ」
二人の笑顔を見て、呼びもしないのに勝手に集まって来たシルフ達も一緒になって大はしゃぎしているのだった。
マームとキムの二人が瑠璃の館に到着したのは、クラウディアとニーカの乗る馬車が到着するのとほぼ同時だった。
玄関前に横付けされた馬車を見たマークとキムが笑顔になり、そのまま軽く早足になって馬車の横まで行く。
「ああ、マークとキムも来てくれたよ。ようこそ瑠璃の館へ!」
満面の笑みのレイの言葉に、二人は慌ててラプトルから飛び降りて揃って直立した。
「お招きいただきありがとうございます!」
「本日はよろしくお願いいたします!」
直立して敬礼する二人を見て一瞬何か言いかけたレイだったが、即座にその場で直立して綺麗な敬礼を返した。
彼が手を下ろすのを見てから二人も敬礼を解く。
それから、顔を身合わせて同時に吹き出した。
「もう、なんだよ二人とも。ここでは身分は無しだって言ったでしょう!」
「いや、でもこれくらいはさせてくれよ」
「だよな。挨拶は大事だって」
そう言いながら笑って手を叩き合っている三人を見て、クラウディアとニーカは違う意味で目を輝かせていた。
「すっごく格好良かったわ!」
「ねえ、もう一度やって見せてよ。すっごく格好良かった!」
「ええ、そんな無茶言わないでよ! あんなの一度で十分だって。もうここからは身分は無しなの!」
焦るレイの叫びに、全員同時に吹き出し笑い合っていたのだった。
そんな彼らを、控えた位置で立っていたアルベルトは密かに驚きの目で見つめていた
今夜、彼らが屋敷に泊まる事はアルベルトも当然知っていたが、アルベルトは直接はマーク達を知らなかった為に、実はもっと野心的な若者達なのだろうと密かに思っていたのだ。
精霊魔法の合成と発動に関しては彼らが先駆者であり、また最高の使い手でもあると言われている。貴族達からの評価も高く、陛下から直々にお褒めの言葉を賜るほどだとも聞いている。
それなのに全く驕ったところがなく、無邪気にレイと笑い合っている姿は年相応の普通の若者達に見えた。
「本当に仲がよろしいのですね」
感心したように小さくつぶやくと、隣で控えていたラスティも笑顔で頷いた。
「そうですね。本当に仲はよろしいですね。しかし、これからは彼らにももう少し、己の置かれた立場と期待されている将来を正しく理解していただきたいものですね」
「おや、そうなのですか?」
苦笑いしつつももう一度頷くラスティを見て、今夜の予定を思い出したアルベルトはにっこりと笑った。
「成る程、承知いたしました。では今夜の夕食は張り切って勤めさせて頂きます」
「ご協力感謝します。ですがほどほどでお願いいたしますね。嫌がられて逃げられてしまっては元も子もありませんので」
「かしこまりました。では、程々で」
「ええ、それでお願いします」
にっこりと笑って小さく頷き合った二人は、ようやく笑い終えた一同をまずは応接室へ案内したのだった。




