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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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二日目のお客様

 十一点鐘の鐘が鳴る少し前にレイは目を覚ました。

「ううん……あれ? 僕、寝過ごした?」

 寝ぼけ眼でそう呟いて、大きな欠伸を一つしてから手をついてベッドから体を起こす。

 窓とカーテンは開いていて、ややムッとした夏の風が部屋に少しだけ吹き込んでいる。



『おはよう。よく眠っていたようだな』

 いつものブルーの声に、窓を見ていたレイは笑顔で振り返る。

「おはようブルー、あはは、やっぱり寝過ごしたみたいだね」

『昨夜、今朝はゆっくりで良いと其方の従卒が言っていたであろう? 昨日は初めての事だらけでさぞ疲れたであろう。疲れた時には、ゆっくり休む事も大事だよ』

「そうだね。でもお腹が空いたからもう起きます」

『おやおや、体は正直なようだな』

「あはは、確かにそうかも」

 寝癖だらけの髪を指でなんとか戻しながら洗面所へ向かう。

「おはようございますレイルズ様、お目覚めでしょうか」

 ノックの音がして、ラスティとアルベルトが入ってくる。

 賑やかな笑い声と豪快な水音を聞いて顔を見合わせた二人は、笑顔で頷きあって洗面所へ向かった。



 昨日よりもやや控えめな寝癖を二人がかりで解いてやり、手早く身支度を整えた。

 用意されていた朝昼兼用の食事を食べて仕舞えば、もうレイにはする事が無くなってしまった。

「じゃあ書斎で本を読んでいます。まだ時間は大丈夫ですよね?」

 手持ち無沙汰になってしまったレイは、そう言って書斎へ向かった。

「ううん、何度見ても凄いや。これが全部僕の本だなんて夢みたいだ」

 初めてここの本を見た時には、送り主単位で本棚に並べられていたのだが、今は項目ごとに綺麗に整理されて並べられている。

 離宮の書斎よりも大きな移動階段が二台あり、どちらも階段の手すり部分には見事な細工が施されている。

 精霊魔法の項目の前に行ったレイは、一冊の本を手に取ると近くに置いてあった椅子に座って本を開いた。

 読み始めると、夢中になるまではあっという間だった。



「……様。レイルズ……様」

 夢中になって本を読んでいたレイは、急に肩を叩かれて文字通り飛び上がった。

「うわあ!」

「ああ、失礼いたしました!」

 レイの悲鳴とアルベルトの声が重なる。

「あはは、ごめんなさい。ちょっと夢中になってました」

 照れているのを誤魔化すように笑ったレイの言葉に、アルベルトも笑顔になる。

「お楽しみのところを申し訳ございません。間も無く王立大学の教授方がお見えに成られるとのことです」

「わかりました。じゃあお出迎えに行かないとね」

 急いで読んでいた本を元の場所に戻して、椅子も元の位置に戻してから出て行くレイをアルベルトは驚きの目で見ていた。

 彼の知る貴族の子息は、そのほとんどが読みかけの本を自分で片付けたりしないし、椅子を戻すこともしない。

 だがレイは当然のように後片付けをしてから部屋を出て行ったのだ。

「成る程。他の執事達が皆口を揃えてレイルズ様を褒めるわけだ。これは側に仕える者にとっては最高の主人ですね」

 小さく呟いて頷くと、足早に彼の後に続いた。




 大型の馬車に乗り込んだ教授達とケレス学院長を玄関で出迎え、昨日のように屋敷の中を簡単に案内して回った。

 玄関の天球図に、天文学のアフマール教授は感心しきりだったし、皆口々に屋敷の装飾品の素晴らしさを褒めてくれた。

 ひとまず昨日と同じ休憩用の広い部屋に案内して、まずは冷たいお茶を用意してもらう。

 しかし、座る間も無く倶楽部の方々がお越しになり、慌てて出迎えに出るレイを教授達は笑顔で見送っていたのだった。



「いやあ、あの瑠璃の館の中へ入れる日が来ようとはね」

 竜人のティバル教授の呟きに皆も笑って頷く。

「しかも、レイルズ様は市井の出身であるにもかかわらず、どこも驚くほどに趣味の良い飾りつけだ。これは素晴らしい」

 ティバル教授の呟きに皆も揃って頷く。

「しかもこれ、セイシェル工房の作ですよね」

 やや控えめなセディナ教授の言葉に、皆驚いて自分が座る椅子やソファーを見る。

「この渦巻き模様は……もしや初期ものですか?」

 近くにいた執事に、光の精霊魔法の講義を行っている竜人のティバル教授が尋ねる。

「はい、その通りでございます。屋敷で現在使われている家具のほとんどは、元々この屋敷で使われていた家具で、こちらの部屋で使われているのは、おっしゃる通りにセイシェル工房の初期の(うしお)シリーズでございます」

「これは恐れ入った。まさかセイシェル工房の初期ものに座ってお茶を飲める日が来ようとはね」

 ケレス学院長の言葉に、他の教授達も苦笑いしつつ何度も頷いていたのだった。



「大変お待たせいたしました。えっと、ガンディとガスパード先生はちょっと遅れて来られるそうですので、ひとまずこれで全員ですね」

「おお、ヴェリング卿、ご無沙汰しております」

 アフマール教授が、レイに続いて部屋に入ってきたヴェリング卿と笑顔で握手を交わす。

 慌てたレイが、倶楽部の方々に一生懸命教授達を順番に紹介するのを、皆笑顔で見つめていたのだった。

 それから、改めて別室に案内してお茶とお菓子を用意する。

 昨日とは全く違う専門的な話題が出るたびに、レイは目を輝かせて夢中になって話を聞いているのだった。



『おやおや。昨日とは違って、今日は勉強の時間のようだな』

『そうですね。このあと書斎へ行った時の教授達の反応が楽しみですわ』

『確かにそうだな』

 窓辺に並んで座ったブルーのシルフとニコスのシルフ達は、楽しそうに話をする愛しい主をいつまでも、飽きもせずに見つめていたのだった。

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