表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼竜と少年  作者: しまねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1285/2487

肖像画と即席の演奏会

「ええ、僕の肖像画?」

「そうだぞ。屋敷には、歴代の当主の肖像画があるだろう?」

 ロベリオの言葉に素直に頷いたレイは、目の前に並んだこの瑠璃の館を建てた初代当主に始まり、歴代のルーディア伯爵家の当主の肖像画を見た。

「じゃあ、ここに……僕の肖像画が並ぶの?」

「そうだぞ。だってお前がこの屋敷の現当主なんだろうが」

 笑ったロベリオの言葉に、半ば呆然としているレイを皆は面白そうに見つめている。

「ちなみに、当主が誰かさんみたいに若くて未婚の場合。まず最初の一枚目は当主になった直後の若い時の姿を、結婚すれば奥方と二人並んだ肖像画を描くね。そして最初の子供が産まれた時には三人一緒の肖像画を、二人目以降も産まれた時に家族全員一緒の肖像画を描くのがオルダムの貴族の慣例だね。そして最後に子供が成人すると、また当主一人の肖像画に戻るんだよ」

「け……結婚!」

 唐突に真っ赤になるレイを見て、堪えきれずにロベリオとユージンが吹き出し、直後にルーク達も揃って吹き出してその場は笑いに包まれたのだった。

「じゃ、じゃあカウリは? カウリも描いたの?」

 まだ真っ赤なまま、ムキになってレイが叫ぶ。

「もちろん。チェルシーと一緒の肖像を描いてもらったよ。はっきり言って描いてもらってる間中とんでもなく恥ずかしかったし、出来上がった肖像画を俺もチェルシーも、いまだに直視出来ないけどな」

「ああ、分かる。特に最初の一枚目って、何故だか妙に恥ずかしいんだよなあ。俺も直視出来なかったよ」

 顔を覆ったルークの声に、タドラも苦笑いしながら頷いている。

「僕も聞いただけで恥ずかしいです〜〜!」

 タドラの腕に縋って笑いながら叫ぶレイを見て両公爵夫妻までが揃って笑いだし、またその場は笑いに包まれたのだった。

「肖像画が出来上がったら、是非ともお披露目の際には呼んでくれたまえ」

「おお、それは良い。肖像画を前にして一杯やろうじゃないか」

 ディレント公爵の笑った声に、ルークが手を叩いて大喜びで賛同する。

 マイリーやヴィゴも揃って吹き出し、若竜三人組とティミーは自分たちも参加するぞと大喜びで手を挙げていたのだった。

「絶対やりませ〜ん!」

 今度はルークに縋って笑いながら情けない悲鳴を上げるレイに、控えていたアルベルトも笑いそうになるのを必死で堪えていたのだった。




 午後からはウィルゴー夫人やマーシア夫人、キシルア夫人など、婦人会や後援会の主だった方々もお招きして、まずはゆっくりと広間で歓談の時間を取ってもらった。

 レイは、ニコスのシルフ達に教えてもらいつつ、一生懸命招待客の方々を回っては、少しでも話をしようとしていたのだった。



 一通りの挨拶が終わった後は、計らったように執事が楽器を運んで来てくれて、即席の演奏会が催された。

 どの人も素晴らしい奏者で、今回ばかりはレイは時折演奏には参加せずに、うっとりと演奏に聞き惚れていたりもした。

 ティミーがルークが弾いていたハンマーダルシマーを弾いてみたがり、レイも一緒にルークに弾き方を教えてもらったりもした。

 それから最後に、ロベリオ達にヴィオラの弾き方も習ったが、残念ながらこちらはやっぱりノコギリのような豪快な音しか出せずに、皆の笑いをとって終わったのだった。



「うう、やっぱりヴィオラは難しいです!」

 もう一度構え方から教えてもらって張り切って弾いてはみたものの、ろくな音が出せずに口を尖らせるレイを見てロベリオ達はずっと笑っている。

「力を入れ過ぎなんだよ。だから弓を引くときに必要以上にきつくて濁った音が出ちゃうんだって」

「こんなふうに、最初は優しくそっと撫でるみたいにするんだよ」

 ごく軽く引くだけで、部屋中に響き渡るような見事な和音が響き渡る。

「ほら、背筋を伸ばして、そうそう」

 構えだけは一人前になったが、残念ながら音に関しては全く一人前ではない。



「僕も少しだけなら弾けますよ」

 恥ずかしそうにティミーがそう言って、予備においてあったヴィオラを手に立ち上がる。

「本当なら、まだ子供用のヴィオラの方が良いんですけどね」

 ちょっと、自分には大きすぎるヴィオラを、しかしティミーはしっかりと構えて弾き始めた。



 花の季節と題されたその曲は、ヴィオラの練習曲として有名だが夜会などでも演奏される事のある人気の曲だ。

 単純な音程なので即興で変更することも容易だ。その為技巧者が弾けばそれは全く別の曲のようにもなり、初心者が譜面通りに弾けば、単純な音程ながらしっかりとした曲になっているのだ。

 もちろんティミーが弾くのは譜面通りの練習曲だ。

 真剣な顔で一生懸命弾くそれは、まだまだ決して上手いと言える腕前ではなく、また人前で演奏して聴かせられるほどではない。

 だが、真剣なティミーの懸命な演奏に、皆笑顔で聞き入っていたのだった。



「すごいすごい!」

 最後の和音が消えたところで、目を輝かせたレイが大きな拍手をしながらティミーに駆け寄る。

「全然下手くそでお恥ずかしいです。でも、これだけは暗譜で弾ける曲なので……」

 恥ずかしそうにしつつも、皆から大きな拍手をもらって、嬉しそうにするティミーだった。

 その後はレイも竪琴で参加して、全員揃ってこの花を君へを演奏した。

 楽器を演奏しない女性達は女性部分を合唱で参加して、竜騎士隊とディレント公爵が男性部分を歌い、それは見事な演奏会となったのだった。



 それぞれの竜の使いのシルフ達は、窓枠やあちこちに置かれた燭台に座って愛しい主人達の即席の演奏会を楽しんでいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ