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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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睡蓮の池の秘密

 若竜三人組とティミーは肉を焼いている鉄板の前に集まり、どれが美味しそうだと笑いながら楽しそうに話をしている。細かく刻んで形成し直した小さめのお肉を見てティミーはとても嬉しそうにしていた。

 ジャスミンはボナギル伯爵夫妻と一緒に、どれも一口で食べられそうなほどに小さな、それでもとても綺麗に飾られた様々な料理を楽しそうに話をしながら選んでいた。

 ゲルハルト公爵は、燻製料理が並べられたお皿に気付いて嬉々としてそれを見に行き、担当していた料理人を捕まえて話を聞きたがり奥方にからかわれていた。

 レイも、皆が楽しそうに食べているのを見てから、自分も嬉々としてお肉を焼いている鉄板の前に若竜三人組とやティミーと一緒に並んだ。




「どうやら、ここの裏方の者達はかなり優秀みたいだな」

 満足そうなマイリーの呟きに、隣で燻製肉を摘んでいたルークも笑顔で頷く。

「料理も美味しい。食器の扱いも完璧。ワインも最高。寛ぐ椅子の配置に至るまで計算し尽くされてる」

「確かに、いい眺めだ」

 そう呟いたマイリーは、薄切りのパンと燻製肉をロール状に巻き一口で食べられるように切り分けたそれを、指で摘んで口に入れる。

 彼らが座る椅子の前には、池には満開の睡蓮の花と、時折顔を覗かせる白い水鳥。池の奥に見える葉を茂らせた木々と足元を飾る夏の花。蜜を求めて飛ぶ蝶や蜂達までが、まるで計算し尽くされた一幅の絵のように大きく広がっている。



「なあ、気が付いてるか?」

 ワインを一口飲んだマイリーが、目の前に広がる景色を示してルークを振り返る。

「え? 何か問題でも?」

 同じくワインを飲んでいたルークが、驚いたように顔を上げる。

「いや、その逆だよ。ここまで計算し尽くされた見事な庭は、俺は初めて見るよ。いやあ、これは素晴らしい」

 先程から妙に満足そうにしているマイリーを見て、ルークは不思議そうに首を傾げる。

「確かに綺麗だし、見事な庭だと思いますけど、マイリーの言葉の真意は何処にあるんですか?」

 単に綺麗な庭だというだけでなく、マイリーは明らかに何かの理由があって見事だと言っているようだが、考えてみたがさっぱり分からず、諦めたルークは素直に質問する。

「さすがのお前も、これには気が付かないか」

 にんまりと笑ったマイリーは、目の前に広がる景色を改めて眺めてからワイングラスをそばの机に置いた。

「この庭の何が素晴らしいって、遠近法を見事に取り入れているって事さ」

「遠近法?」

 首を傾げるルークを見て、面白そうに笑う。

「絵を描く際に取り入れられる手法の一つなんだけどな。簡単に言うと、平面に景色を描く際に遠くのものを小さく、手前側にあるものを大きく描くと距離感が出る。演劇の際の舞台装置なども、この手法を使って描かれる事が多いな」

「ああ、成る程。それなら聞いた事がありますね。でもここは……」

 今見ている景色は実際の景色なのだから、遠近法は関係無いと思う。だが、あのマイリーの口振りは明らかに感心して評価している。



「ああ、成る程。そういう事か」

 しばらく目の前の光景を眺めていてようやく気付いたルークが、感心したようにそう言って何度も頷く。



「気が付いたか?」

「仰りたい事が解りました。成る程、これは確かに凄い」

 腕を組んだルークの呟きに、近くに来ていたゲルハルト公爵夫妻が振り返った。

「ルーク、何が凄いんだい?」

 ワイングラスと摘みの乗った皿を手にした執事と一緒に来た公爵は、ルークの隣に置かれていた二人用のソファーに夫人と一緒に座る。



 笑顔でまずは乾杯してから、ルークは目の前の景色を見た。



「マイリーに言われて気が付いたんですけれどね。この庭は、こちら側から見た時に、実際の広さ以上に広く見えるように考えて作られているんですよ」

 揃って不思議そうに目を瞬くゲルハルト公爵夫妻を見て、ルークは笑顔で頷く。

「例えば、この池は手前側が大きくなっていて奥側が狭くなるように、やや三角形に近い形に作られています。それと同時に、池の周囲に植えられた手前側の木は大きく、奥側に行くにつれて順に小さな木が植えられている。同じ種類の木なので、無意識に同じくらいの大きさなのだろうと思って見てしまうので、実際以上に奥が遠くに感じるんですよ。その結果、実際以上に池が大きく見え景色全体も大きく見えるわけです。いやあこれは確かに見事だ」

 ルークの説明を聞いたマイリーは、満足そうに笑って拍手をする。

「正解だ。よく気がついたな」

「いやあ、マイリーに言われてもかなり考えましたけどね」

 素直に白状して苦笑いするルークの目の前に、ブルーのシルフが現れて座る。

『確かによく気が付いたな』

「まあ、それなりに観察眼は持ってるつもりだからね。奥側の木の枝が少ない事に気が付いたら、後は楽だったね。それに、花の色は揃えている癖に、わざわざ手前と奥側で植えてある睡蓮の種類まで変えてあるってのもすげえよ」

「へえそうなのか? それは気が付かなかったよ」

 驚いたようにマイリーがそう言い、改めて目の前の景色を眺める。

 ゲルハルト公爵夫妻も、目を輝かせて池を見つめている。

「ああ、確かに言われてみれば睡蓮の種類が違うね。葉の大きさが違うよ」

 笑ったゲルハルト公爵の言葉に、マイリーと夫人も関心したように何度も頷いている。



「お楽しみいただけていますか?」

 その時、ワイングラスを片手に笑顔のレイが駆け寄って来る。

「ああ、料理も美味しいし、景色も良いし、最高だよ」

 笑顔のルークの言葉に、マイリーとゲルハルト公爵夫妻もそろってワイングラスを掲げる。

 笑顔でまた乾杯してから、マイリーは自分の横にレイを手招きして呼び寄せる。

 完全に観客気分で見つめるルークとゲルハルト公爵夫妻の前で、レイはマイリーからさっきのルークと同じ事を言われて、意味が分からずに必死になって考えていたのだった。



 ブルーのシルフとニコスのシルフ達もルーク達と一緒になって、必死になって考えるレイを愛おしげに眺めていたのだった。

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