昼食会の始まり
「おお、これは美しい」
思わずこぼしたゲルハルト公爵の呟きに、見事な庭を見て同じ気持ちだった竜騎士隊の皆も揃って頷いていた。
案内された西側の庭には小さな石造りの四阿が建てられていて、今が盛りの睡蓮がすぐ側の池に満開の花を咲かせている。
「父上、見てください。鳥がいますね。すごく可愛いです」
池を見ていたジャスミンが、睡蓮の花と平たい葉の隙間を縫うようにして泳ぐ真っ白な水鳥を目で追っている。
「あれはコハクチョウでございます。本来であれば、夏には渡りをしてオルダムにはいないはずなのですが、何故かあの鳥はもうこの数年渡る気配は無く、ずっとこの池に住み着いております。ですが気まぐれで、この池を始め、一の郭の屋敷にある幾つかの池を好きに移動して暮らしております」
一礼した執事のアルベルトの説明に、ルーク達も笑いながら池を見る。
「おやおや、冬鳥がこんなところにいるからどうしたのかと思ったら、そういう事か」
ヴィゴが笑いながらそう言い、クローディアとアミディアが目を輝かせる。
「父上、あの子です。時々温室の横にある庭の池に飛んでくる子は!」
「そうね、きっとそうだわ。ほら、嘴の先が丸いんです。間違いないわ」
二人が手を取り合って嬉しそうにヴィゴにそう報告する。
「ああ、時々庭に飛んでくると言っていた、あの大きな白い鳥か?」
揃って頷く二人を見て、皆も笑顔になる。
「へえ、まあ鳥の翼なら、ここからヴィゴの屋敷までなんてひとっ飛びだろうからなあ」
感心したルークの呟きに、皆も笑顔で池を泳ぐ白い鳥を見つめていた。
「では、どうぞこちらへ」
執事の声に振り返ると、四阿から少し離れた場所に大きな日除けのテントが建てられていて、さまざまな料理が綺麗に並べられていた。
机の端には、大きな金属製のボウルに砕いた氷がぎっしりと入れられていて、いくつものワインやジュースの入った瓶が冷やされて並べられていた。
その奥では白い服を着た料理人が、大きな鉄板を前にして、幾つもの肉や野菜を焼いているところだった。
それよりも小さめの日除けのテントは、他にも庭のあちこちに張られていて、椅子や小さめの机が置かれている。
「ふむ、広い庭を生かした良いやり方だな」
広い庭を見て満足そうに頷いたディレント公爵が、感心したようにそう呟く。
まずは乾杯のための飲み物が配られ、ジャスミンとティミーにはベリーのジュースとリンゴ酒が用意され、大人達にはワインが配られた。
「ほら、挨拶するんだろう?」
にっこり笑ったルークに背中を叩かれて、皆が注目する中をワインの入ったグラスを持ったレイが進み出る。
「皆様、本日は暑い中をようこそお越しくださいました。僕にとって、初めての公の集まりの主催となります。未熟者故、至らぬ事も多いと思いますが、お気付きの事や疑問に思われる事がありましたら、どうぞ遠慮なくご指摘ください」
そこで一度言葉を切って唾を飲み込む。
彼の緊張がこっちまで伝わってきてしまい、なんとなく皆も緊張して真剣な顔で黙り込む。ジャスミンやティミーでさえも真剣な顔でレイを見つめていた。
「ささやかですが、食事をご用意させていただきました。それからワインや美味しいジュースもたくさん用意しています。ぜひお楽しみください。ここでの時間が、皆様にとって良きものとなりますように願います。そしてこれからの皆様の健康とますますの活躍をお祈りします」
そして、手にしていたグラスを高く掲げる。
「精霊王に、感謝と祝福を」
「精霊王に、感謝と祝福を」
レイの最後の言葉に、皆が笑顔で続く。
そのままグラスのワインが飲み干されると、大きな拍手が起こった。
「いやあ、なかなかの挨拶だったぞ」
「うん、立派立派。大したもんだよ」
ルークとマイリーが、真っ赤になって戻ってきたレイの肩や背中を叩いて、まずは最初の大仕事を果たした彼を労う。
「緊張しました。せっかく頑張って覚えたのに、実はちょっと忘れそうになって焦りました」
「いや、なんとなくそうなんじゃないかと思ってたけど、大丈夫だよ、上手く誤魔化せていたぞ」
照れたように新しいワインを貰って白状するレイを見て、ルークがからかうようにそう言って笑う。
「ルーク、それ全然慰めになってません。僕が挨拶を忘れて言葉が止まったのに、皆気付いてたって事ですよね!」
焦ってそう叫んだレイの言葉に、当然気付いていた大人達が揃って吹き出し、レイの周りは暖かな笑いに包まれたのだった。
『早速働いてくれたな。ご苦労だった』
『主様をお助けするのが我らの仕事だからね』
『もっともっとお手伝いするよ』
『任せて任せて』
『ああ、しっかり頼むよ』
笑ったブルーのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達が得意げに胸を張る。
実は、先程の挨拶の際に緊張しすぎてせっかく覚えた挨拶を忘れてしまったレイに、彼女達が続きをこっそり教えていたのだ。
早速活躍出来て嬉しそうにしているニコスのシルフ達を見て、ブルーのシルフも苦笑いしつつも楽しそうにしているのだった。




