開始前の不安とニコスのシルフ達
「レイルズ様、そろそろ皆様が到着なさる時間ですので、ご準備をお願い致します」
お茶を飲み終えてソファーに座ったレイが真剣に招待客のリストを見ていると、綺麗に片付けた机を軽くノックしてレイの気を引いたラスティが、外を示してそう教えてくれる。
竜騎士隊の皆は、神殿から来るジャスミンと、一の郭で家族と合流して一緒に来るヴィゴ以外は一緒に来ると聞いている。
「ロベリオ様も奥方様、それからユージン様とサスキア様も揃ってご一緒に間も無くご到着とのことですので、恐らく竜騎士隊の皆様と同じ頃にお越しになるのではないでしょうか」
ラスティの説明に慌ててリストを戻したレイは立ち上がって急いで身支度を整えた。
ロベリオは結婚式の後、休暇の間は実家が所有する郊外の別荘で過ごしているのだが、今回はせっかくだからフェリシア様も一緒に参加しますとの連絡があり、慌てて参加の予定人数を追加したのだ。その際にカウリの提案で
ユージンの結婚相手であるサスキア様も一緒に招待したのだ。
もちろん喜んで参加させてもらいますとの返事をもらい、これは相談の結果、ユージンが迎えに行って一緒に来てくれる事になったと後から聞かされたのだ。
「えっと、ユージンがサスキア様を迎えに行ってくださるのって、何かお手伝いしなくて良いんですか?」
自分が招待しているのに、任せてしまっても良いのだろうか。
「サスキア様が、単なるユージン様のお知り合い程度ならレイルズ様が迎えを手配して然るべきですが、この場合はユージン様にお任せして問題ありませんよ。ご心配なく」
背中の皺を直してくれたアルベルトにそう言われて、何となく納得する。
「そっか、婚約者様だものね」
笑ってそう言い、剣立てに立て掛けてあった自分のミスリルの剣を手にしかけて少し考える。
「ねえ、僕は剣を装備していて良いの?」
迎えると言っても、今回の席はそれほど改まったものではないから、レイの服装もいつもの竜騎士見習いの赤い制服そのままだ。
「もちろんです。この制服には、剣と剣帯を装着するところまでが基本装備ですからね」
そう言って渡されたミスリルの剣を黙って見つめ、小さく頷いてからいつものように剣帯に装着する。
「すっかり、剣を装備するのにも慣れたね。もう、身につけていても全然邪魔に感じないもん」
小さくそう呟き、そっと剣を撫でる。
「いつまでも、飾りでいてね。僕、誰かに向かって君を抜いたりしたくないよ」
ごく小さな声で呟かれたその言葉は、近くにいたラスティやアルベルトの耳に入る前に風に散って消えてしまった。
『大丈夫か? レイ』
しかしブルーのシルフには聞こえていたらしく、ふわりと飛んできて彼の右肩に座る。
「うん、大丈夫だよ」
何でもないように笑ってそっとキスを贈ると、急いで玄関へ向かった。
だって、窓から何人ものシルフ達が笑顔で覗き込んで手招きをしていたのだ。
『間も無く到着!』
『到着到着』
『来るよ来るよ』
『到着到着』
『楽しみ楽しみ』
『楽しみ楽しみ』
笑って大喜びしている彼女達を見て、ブルーのシルフはこっそりとため息を吐いた。
『ふむ、緊張のあまりレイはちょっと不安定になっておるようだな。其方達、レイをしっかり助けてやってくれ』
自分のすぐ横に並んだニコスのシルフ達を見て、ブルーのシルフがそう言って軽く頷く。
『任せて任せて』
『頑張る頑張る』
胸を張った彼女達が口々にそう答えると、レイの周りを飛びながら皆を迎えに行くために、一緒に玄関へ向かうのだった。




