今日の予定と段取り?
「ねえカウリ、お披露目会ってもう明日なんだけど、僕どうしたらいいと思いますか?」
しっかりとカウリとキルートと打ち合い朝練を終えたレイは、カウリと一緒にルークとティミーが朝練をしている別の訓練室へ向かっていた。その際に、気になっている事を聞いてみる。
「ああ、もう明日なんだなあ。楽しみにしてるよ」
笑ってそう言われてしまい、困って眉を寄せる。
「なんだ? 何か問題でもあるのか?」
心配そうにそう聞かれて、困ったレイは首を振った。
「えっと、僕、何も準備をしていないんだけど……」
一瞬、何を言っているのか分からなくて目を瞬いたカウリがいきなり吹き出した。
「ええ、どうしてそこで笑うんですか! 僕、どうしたら良いのか全然分からないんですけど」
まだ笑っているカウリの腕にすがってレイが叫ぶ。
「なんだなんだ? どうしたんだよ」
その時、扉が開いてルークとティミーが揃って出て来た。
叫んでいるレイの言葉を聞いて驚いたルークが、心配そうにレイを見る。
「どうしたんですか? レイルズ様」
すぐ後ろから出てきたティミーの首には汗拭き用の細長い布がかけられていて、今も流れる汗を拭いながらそう言って心配そうにレイを見上げている。
「ええと……」
何と言ったら良いか分からずに困っていると、まだ笑っていたカウリがレイを指差しながら口を開いた。
「お披露目会を明日に控えて、自分は何もしていないけどどうしたら良いかって悩んでますよ。段取りの説明って、してないんですか?」
「ああ、なるほど」
カウリの言葉に納得したルークが笑ってレイの背中を叩く。
「心配しなくても、手配は全て執事達とラスティがしてくれているよ。だけどお前は今日は食事の後にラスティと一緒に一の郭の屋敷に行って、向こうで執事やラスティから明日以降のお披露目会の段取りについて説明を聞いて来るんだよ。ついでに言うと、お披露目会が終わるまでお前は向こうの屋敷に泊まってきて良いからな」
突然そんな事を言われて目を輝かせるレイを見て、ルークとカウリが揃って吹き出す。
「おかしいなあ。お披露目会に関する説明の時に、グラントリーからその辺りの事も説明されてるはずなんだけどなあ」
「えっと……」
必死になって思い出していると、笑ったニコスのシルフ達が目の前に現れた。
『聞いてるねえ』
『聞いてるねえ』
『だけど主様は忘れてるみたいだねえ』
『大丈夫大丈夫』
『私達は覚えてるからね』
コロコロと笑いながらそんな事を言われてしまい、苦笑いしたレイは顔を上げてルークを見た。
「何となく聞いたことがある様な気がしない事も……無いかな?」
「だからどうしてそこが疑問系なんだって」
横から笑ったカウリがレイも首を腕を回して確保する。
「頑張ってしっかりやれよ」
「はあい、がんばりま〜〜す」
誤魔化す様に笑ったレイは、不意に何か考え込む。
「今度は何だ?」
カウリが横から覗き込む。
「えっと、一の郭のお屋敷には、今日はルークは一緒に来てくれないんですか?」
その無邪気な質問に、レイを捕まえていたカウリが遠慮なくまた吹き出す。
「お前なあ、俺やルークは招待客だぞ。分かってるか? その俺達が、準備を手伝ってどうするんだよ。大丈夫だよ。ラスティ達が段取りしてくれてるって」
「ああそっか」
「ああそっか、じゃねえよ!」
笑ったカウリに頭をぐしゃぐしゃにされて、悲鳴を上げたレイはするりと片腕になっていた腕の拘束から器用に逃れて飛び離れる。
「脱出成功!」
「ああ、待ちやがれ!」
笑いながらそう叫んだカウリが逃げるレイを追いかけて走り出す。
「すごいレイルズ様! 今どうやってカウリ様の拘束から逃げたんですか!」
目を輝かせたティミーの声に、レイとカウリが揃って笑う。
「今度ゆっくり教えてあげるよ! ティミーは小柄で身軽だから、きっと出来ると思うよ!」
楽しそうに追いかけっこをしながら、笑ったレイの言葉にティミーは大喜びしている。
「ほら、とりあえず戻ろう。食事は皆で一緒に行くからな」
「はい!」
ルークにそう言われて嬉しそうにそう返事をしたティミーも、走って逃げるレイを追いかけ始めた。
「おお、速い速い。ううん、ちょっと走り方を教えてやっただけであれだけ速く走れる様になったんなら、案外運動神経は良いのかもしれないなあ」
あっという間にレイ達に追いつき、カウリと二人がかりでレイを捕まえようと追いかけ回すティミーの姿を見て、笑ってそう呟いたルークは汗を拭いていた手拭き布を首にかけて走り出した。
「加勢するぞ!」
結局、兵舎へ戻り自分の部屋の前の廊下まで三対一で追いかけ回されてとうとう最後の最後に逃げきれずに捕まってしまったレイは、脇腹と首筋を寄ってたかってくすぐられて悲鳴をあげて転がったのだった。
「全く、揃って何をしておられるんですか」
レイの悲鳴を聞いて慌てて廊下に飛び出してきたそれぞれの従卒達と執事達は、廊下に座り込んで笑い転げている四人を見て、呆れた様にそう言ったのだった。




