事務所にて
事務所の前でティミー達と別れたレイは、そのまま事務所の中へ入っていった。
「ただいま戻りました」
「おう、おかえり。あれ、ロベリオ達は? それにティミーも」
振り返ったルークは、一人で入ってきたレイを見て、不思議そうにそう尋ねる。
「えっと、三人とは事務所の前で別れたよ。このあと別室でモルトナやロッカ、それからガルクールが来てくれてティミーの装備の確認と、制服の試着があるんだって言ってました」
「ああ、なるほど。それじゃあ戻ってすぐで悪いんだけどこっちに来てくれるか」
頷いたルークは、レイとの机の間に置かれている、資料などを置いたもう一台の机を指さした。
「まずはこれの整理を頼めるか。ちょっと場所を空けないと次の仕事が出来ないって」
「ルーク、ついこの間整理したばかりだと思うんだけどなあ」
呆れたように笑いつつも、手早く積み上がった資料の山を早くも崩して整理し始めるレイだった。
時折意味不明なメモや資料を確認しつつ、山が半分くらいになった頃にマイリー達が戻って来た。
「ああ、もう戻ってたんだな。あれ、ティミーやロベリオ達は?」
自分の席に座りながら、カウリが事務所を見回してそう尋ねる。
「さっきルークにも同じ事を聞かれたよ。別室で、モルトナやロッカ、それからガルクールも来てくれてティミーの装備の確認と制服の試着があるんだって言ってました」
立ち上がったレイが、次の山を半分に分けながら振り返ってそう答える。
「ああ、そりゃあ大事なことだな。特にティミーもこれから成長期だから、しばらくガルクールも忙しそうだな」
「どうする? 誰かさんくらいにティミーが大きくなったら」
顔を上げたルークの言葉にカウリは呆れ顔だ。
「いやあ、さすがにそれはないだろう。伸びるにしても一年で……ええと、レイルズはどれくらい伸びた?」
苦笑いして首を振ったカウリだったが、少し考えて最後はレイを見上げながら尋ねる。
「えっと……多分、ブルーと出会った頃からあとは、毎年15から20セルテくらいは余裕で伸びてたと思うなあ」
最後は照れたように笑いながらそう言うと、カウリだけでなく、話を聞いていたルークとマイリーまで揃って驚いた顔で振り返った。
「お前、そんな無茶言うなって……あれ、だけど確かに言われてみればレイルズがここに来た時って、確かにタドラより小さかったものなあ」
即座に否定しかけたルークだったが、少し考えて自分の頭の上に手をやって高さを確認してそう呟く。
「それが二年ちょいでここまでデカくなったって?」
明らかに信じていない風のカウリに、レイは笑いながら何度も頷く。
「確かにそうだな。俺もレイルズくらいの頃に、毎年それくらい延びていたぞ」
笑ったヴィゴの声に、三人がまた驚く。
「ああ、そうなんですね。膝とか踵とか痛みませんでしたか?」
同じだと言われて嬉しそうにレイが自分の膝を指差す。
「ああ、確かに痛かったなあ。夜中に必死になってさすったり温めたりしていた覚えがあるよ」
「僕は、タキスに頼んで痛み止めをもらってたよ」
「確かに、あれは痛み止めが欲しいくらいに痛かったな。そうか、身内に薬師がいるとすぐに薬を処方してもらえるから羨ましいな」
笑ったヴィゴの言葉に、レイも笑顔で頷く。
「成長痛ってやつだな。俺もちょっとは痛かった覚えがあるけど、そこまでじゃあなかったぞ」
「確かに膝は痛かった覚えがあるけど、それほどじゃあなかったなあ」
カウリとルークが顔を見合わせて考えている。
「ねえ、マイリーはどうでしたか?」
笑ったルークの質問に、書いていた書類の手を止めたマイリーが笑って肩を竦める。
「確かに寝ていて膝や踵が痛かったなあ。俺も痛み止めを何度ももらった覚えがあるよ」
「おお、マイリーの身長になると、やっぱり痛み止めがいるんだ」
「じゃあティミーはこれからに期待だね、はい、ここまで出来たよ。僕じゃあ解らないないのはこれね。自分で確認してください」
いくつか束ねた資料をルークの机に置いたレイは、最後の山の取り崩しにかかる。
「整理も手慣れてきたな。じゃあそれが終わったらこっちも頼むよ」
「ええ、そっちもですか。二人とも、ちょっとは自分で整理しましょうよ」
マイリーに嬉しそうに手招きしながらそう言われてレイは呆れたようにそう言いながら振り返ったが、その顔は完全に笑っていて、残念ながらマイリーにはその文句は全く届いていないのだった。
「その点、カウリは自分で整理整頓出来るからすごいよね」
資料に混ざっているメモを見ながらそう言ったレイに、それなりに散らかってはいるが、ルークやマイリーほどではない自分の机を見たカウリは、苦笑いしながら首を振った。
「俺の場合は、山積みにすると自分でもわけが分からなくなるから一応気をつけて定期的に整理してるんだよ。どっちかって言うと、それだけ散らかしておきながら何処に何があるのか分かる二人の方が、俺はすごいと思うけどな」
「確かに〜」
呆れたようにそう言ってレイが笑う。
「いやあ、普通は分かるだろう?」
「だよな、俺も分かるぞ」
「いや、それは間違い無く普通じゃない」
ルークとマイリーの言葉に、カウリの否定の声が重なる。
「僕も、それは普通じゃないと思います」
真顔のレイの言葉に、聞いていたヴィゴがとうとう我慢出来ずに吹き出し、事務所は笑いに包まれたのだった。
「ティミーは、事務仕事には期待が持てそうだなあ。彼なら、俺の手伝いもしてくれそうだ」
「お手柔らかにお願いしますよ」
いつもマイリーの仕事を手伝っているルークの言葉に、カウリも苦笑いしつつも同意するように何度も大きく頷いているのだった。




