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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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贈り物の数々

「うわあ、これは本ですね」

 次に開いた包みには、ティミーなら両手で抱えないと持てないくらいの大きな本が何冊も入っていた。

「これは俺のお勧めの政治経済関係の本だよ。君のこれからの勉強の役に立つだろう。有効に使ってくれたまえ」

 マイリーの言葉に嬉しそうにティミーが頷く。

「ありがとうございます。大事に使わせていただきます!」

 大きな本をしっかりと抱きしめてから机に戻す。

 重さのあまりふらつきかけるのを見て、苦笑いしたマイリーが片手で軽々と本を元の位置に戻してくれた。




 次の大きな包みの中には、革製の防具が一揃えと、その横に置かれた細長い包みには大小二本の金剛棒が入っていた。その隣の包みには、綺麗な細工が施された子供の訓練用の弓と矢が一揃え入っていた。

「それは俺とルークの二人からだよ。弓と矢はカウリからだ。弓と矢は訓練用だから実戦では使えないよ。ほら、矢の先が金属じゃないだろう?」

 少し怖そうに取り出した金剛棒と弓矢を見ているティミーに、ヴィゴがしゃがんでティミーと目線を合わせながらそう教えてくれる。

「まだ、いきなりそれらを使わせるような事はせぬから安心しなさい。まずはしっかりと時間をかけて其方の身体作りからだな。どれくらい背が伸びるか楽しみにしているよ」

「は、はい。頑張りますのでどうかよろしくお願いします!」

 背筋を伸ばすティミーの言葉に、ヴィゴは笑顔でその小さな頭を撫でてやった。

 自分とは全く違う大きな手に、ティミーの目が見開かれる。

 しかし、自分の頭から離れたその手を、ティミーは咄嗟に追いかけるようにして袖口を掴んで引っ張った。

「あ、し、失礼しました!」

 驚くヴィゴに慌ててそう言って謝り、俯いて小さくなるティミー。

「構わんよ。急にどうした?」

「いえ、ヴィゴ様ほどは大きくはなかったんですけど……父上がいつもそんな風に僕の頭を撫でてくれていたから、なんだか急に懐かしくって……」

 笑った優しいヴィゴの言葉に顔を上げたティミーは、恥ずかしそうに小さな声でそう答えた。

 その言葉に、ヴィゴを含めた部屋にいた全員が息を呑む。

 ティミーもまた、幼くして喪失の痛みを知る子供だったのをその場にいた全員が思い出していた。



 ティミーのお父上は、三年前に急な病で亡くなられているのだが、病が判明してから亡くなられるまで、わずか半年ほどしかなかったのだ。

 当時まだ幼かったティミーは、その為父との思い出があまり多くない。

 特に土木課の責任者の一人だったヴィッセラート伯爵は、貴族でありながら現場の人、と、密かに職人達から呼ばれていた程、実際の現場に足を運び、その現場で働く最前線の人達の意見に常に耳を傾けられる、ある意味貴族としては稀有な人物だった。

 当然現場の職人達からの信頼も厚く、伯爵が急な病の末に亡くなった時、弔問に訪れる市民達の列は長い時間途切れる事が無かったのだ。



「そうか、お父上もティミーを撫でてくれたのか。確かになかなかに撫で心地の良いサラサラの髪だな」

 笑ったヴィゴがそう言い、立ち上がりながらもう一度ティミーの頭を大きな手で撫でてくれる。

 機嫌の良い時の竜のように、撫でられて嬉しそうに目を細めるティミーを見て皆も笑顔になる。



「そう言えばさ、思ってたんだけどその前髪の三つ編み、可愛いね」

 少し重くなった雰囲気を変えるように、ユージンが自分の前髪を引っ張りながらそう言う。

 ティミーの右の前髪の一部は、今日も綺麗な細い三つ編みが三本結ばれている。色紐は明るい緑色だ。

「毎朝、シルフ達が張り切って編んでくれるんです。上手でしょう?」

 得意気なティミーの言葉に、集まってきたシルフ達が一緒になって得意気に胸を張り、中には三つ編みを引っ張り始める子までいる。それを見たユージンは思わず吹き出してしまい、誤魔化すように横を向いて咳き込んでいた。

「なんだい、すっかりシルフ達と仲良くなってるじゃないか」

 笑ったルークの言葉に、しかしティミーは困ったように首を振る。

「どうなんでしょうか? まだあまり声は聞こえないし、精霊魔法は、本を読んでも何をどうすればいいのかさっぱり解らないです」

「まあ、そっちは慌てる必要は無いって。そのうち嫌でも覚えるからさ。今は精霊達と仲良くなるのが一番だよ」

 からかうように笑ってルークもティミーの頭を撫でる。

「おお、確かにレイルズの髪と違ってサラサラだな。これはこれで、なかなかの触り心地だぞ。確かにシルフが喜びそうだ」

「この間の、離宮でのお泊まりの時も大変だったって言ってたものね」

 ユージンの言葉に、レイとティミーはあの時の右半分全部が三つ編みになったティミーの頭を思い出してしまい、揃って吹き出して大笑いになったのだった。



 ようやく笑いも収まり、改めて残りの贈り物を開けていった。

 ロベリオとユージンの二人からは、見事な細工の万年筆とガラスのペンと何色ものインクの壺。竜の形の文鎮。それから何冊ものノートやそれを入れておく文箱。もう一つの包みには、レイも使っているような綺麗な細工の施された革の鞄が入っていた。

「お勉強に文房具はいくらでも必要だろう? 鞄は、精霊魔法訓練所や大学院へ行く時に使ってね」

 ロベリオとユージンの言葉に、ティミーも文箱を抱きしめながら嬉しそうな笑顔で何度も頷いていた。



 アルス皇子からは、陛下から贈られたミスリルの短剣と対になるような、これも見事な細工が施された二本のミスリルのナイフと鞘が入っていた。

「うわあ、綺麗……まるで波の模様みたい。これってどうやってるの?描いてるのかな?」

 抜いたそのナイフの刃の部分には、緩やかな波のような幾重にも重なる紋様が浮き出ている。初めて見るその不思議な刃紋にティミーは興味津々だ。

 レイも、横に来て同じように興味津々で覗き込んでいる。

「これは良い物を頂いたな。その刃紋は描いているのでは無く積層鋼という特殊な加工が施された刃のみに浮き上がる紋様だよ。珍しいものだが、ミスリルのナイフに時に見られるな」

 そう言って、ヴィゴは自分のベルトに装着しているナイフを見せてくれた。そのナイフにも、同じように波状に重なる不思議な紋様が浮かび上がっていた。

「なんでもナイフを作る際に異なる金属を重ねて引き伸ばし、また折り重ねて幾重にも重なる層にした状態の事なのだそうだ。切れ味は、普通のミスリルのナイフよりも更に良いぞ、迂闊に指を近づけぬようにな。其方の細い指など簡単に切れるぞ」

 詳しいヴィゴの説明に感心する見習い二人に、大人達が笑顔になる。

「一本は予備としておいておくといい。覚えておきなさい。ナイフや剣はあくまでも消耗品だ。だからもしも無くしたり折れたりしても、気に病む必要は無い。その時にはまた新しい物を贈らせてもらうからね」

 アルス皇子の言葉に、ティミーは真剣な顔で何度も何度も頷いていたのだった。

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