昼食と出発
「そろそろ食事に行くけど、どんな感じだ?」
ラスティと一緒に、招待客のリストを見ながらどんな準備が必要かと言った話を聞いていた時、ノックの音がしてカウリとタドラが部屋に顔を出してくれた。
「ああ、ちょうど良かった。これ、招待客のリストなんだけど見てください。それで意見があったら教えてください」
差し出されたリストを、二人が揃って受け取り覗き込む。
「ああ、良いんじゃないか。へえ、四日に分けてするんだ。まあ余裕を持った日程を組んでおくのは大事だからな」
ちゃんとリストにディーディーやニーカの名前があるのを見て、カウリは小さく笑ってリストをレイに返した。
「今のレイルズの交友関係がそのまま分かるリストだね」
笑ったタドラの言葉に、カウリも同じ事を思っていたので小さく笑って頷く。
「まあ、そこはこれからに期待ってとこだな。しかし、今でこれならあと五年もすれば、誰もが見惚れる良い男になるんじゃねえか? 大人気間違いなしだな」
最後は小さな声でタドラにそう言い、タドラも同意するように笑いながら何度も頷いていたのだった。
「お待たせしました。座ってリストを作って説明を聞いてただけなのに、僕もうお腹ぺこぺこです!」
いつもの竜騎士見習いの赤い上着を着て剣帯を締め、剣を装着したレイを見てカウリが笑う。
「あはは、あいかわらず元気だねえ。しっかり食べろよ。育ち盛り」
カウリに背中を叩かれて顔を見合わせて笑い合い、それからラスティ達も一緒に食堂に向かった。
いつもよりも少し早めの食堂には、アルス皇子を含む大人組とユージンが先に来て食事をしていた。
「ああ、来たね。ティミーは一点鐘の頃に到着予定だからね」
「はい、楽しみですね」
笑顔で答えるレイは本当に嬉しそうだ。
「それじゃあ取ってきますね」
嬉々としてそう言い、一礼して行列に並ぶレイを見て、カウリとタドラもアルス皇子に一礼してからその後ろに並んだ。
「甘やかされていたレイルズもいよいよ末っ子卒業だな。さて、どうなるかな?」
楽しそうに料理を選ぶレイを眺めながらマイリーが面白そうにそう呟き、お皿に残っていた最後のレバーフライのかけらを口に放り込んだ。
「今日のところは、ロベリオ達と一緒に本部の紹介程度でいいよ。マイリー達とも言っていたんだけど、ティミーの場合はまずはしっかり食事を食べさせる習慣と、基礎訓練で体力をつけさせるところからだね。一般常識を含めて知識面ではほぼ心配はいらないみたいだから、竜騎士隊内部の事以外は、精霊魔法に関する勉強が中心になるね」
食事をしながらユージンの説明を聞く。
「ティミーも精霊魔法訓練所に通うんですよね?」
レバーフライをパンに挟みながらユージンを見る。
「そうだね。明日はロベリオと僕も一緒に行って、まずはケレス学院長に挨拶だね」
「あれ、そういえばロベリオは?」
一人だけ姿が見えないが、どうしたのだろう。
「ああ、先に食事をしてティミーを迎えに行ったよ。そろそろ向こうについてる頃かな? 何かあったらシルフを飛ばしてくれる事になってるから、何も言って来ないって事は、特に問題なし、かな?」
「まあ迎えに行くくらいは幾ら何でも大丈夫だろうさ」
ヴィゴがそう言って肩を竦める。
「ですね。じゃあ先に戻るよ。事務所に顔出してから休憩室へ行くから」
ルーク達は先に来てもうお茶も飲み終えていたので、そう言って先に本部へ戻って行った。
「じゃあ、僕らも早めに戻らないとね」
綺麗に食べ終えたレイは、笑顔でそう言ってトレーを持って立ち上がる。
とはいえ、大急ぎでカナエ草のお茶を淹れてきて、当然のようにミニマフィンを取ってくるのを見てタドラとカウリは呆れたように笑っていたのだった。
母や屋敷の者達に見送られて一の郭の屋敷を後にしたティミーは、迎えに来てくれたロベリオと一緒にお城の手前の道を大回りして竜騎士隊の本部がある西側へ向かっていた。
しかし、最初のうちこそ機嫌良く見える景色を楽しみながらラプトルを歩ませていたティミーだったが、本部が近づくにつれ笑顔は消えて無口になり、だんだんと顔色が蒼白になり、呼吸までが早くなり始めた。
それを見たロベリオがラプトルを止めて、そっとティミーの背中に手を伸ばして撫でてやる。
「大丈夫だよ、ティミー。しっかり息をして」
「は、はい。大丈夫、です」
緊張のあまり少し過呼吸気味になっているティミーを見て、護衛の者達に目配せをしたロベリオはラプトルから降りてティミーのラプトルの側に立った。
「そりゃあ緊張もするよな。現実に向き合うのが怖いよな。分かるよ。俺もそうだった」
ラプトルの首元を撫でてやりながら、苦笑いしたロベリオが小さな声でそう話しかける。
驚きに目を見開くティミーに、ロベリオは真剣な顔で頷く。
「俺は成人して間も無く竜の面会に参加した。だけど実を言うとさ……俺はそもそも竜の面会になんて行きたくなかったんだ」
「ええ、どうしてですか?」
大抵の男の子は、竜騎士に強い憧れを抱いている。自分もいつか竜騎士になるんだと言って一生懸命剣術の訓練をしたり、勉強したりする。
小さな身体のティミーだって、竜騎士様は憧れであんな風になりたいといつだって思っていた。成人したら、絶対にすぐに竜の面会に参加するんだっていつも思っていた。
それなのに、ロベリオはその竜の面会に行きたくなかったのだと言う。
驚きの表情で自分を見つめるティミーに、ロベリオはごく小さな声で告白した。
「絶対に竜騎士になんかなりたくなかったからだよ」
「ど、どうしてですか?」
思わずと言ったふうに質問され、ロベリオは笑って小さく首を振る。
そして、腰に装着していた剣をそっと撫でて答えた。
「戦うのが怖かったからだよ」と。




