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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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大切な記憶とその後の事

「危ない!」

 すぐ側で彼らの話を聞いていたルークとヴィゴが、突然ふらついて倒れたレイに慌てたように手を差し出す。

 何とか間に合ったヴィゴの力強い腕が大柄なレイの体を支え、咄嗟に倒れるのは防ぐ事が出来た。

 目の前の出来事にすぐに反応出来なかったウィーティスさんとゲルハルト公爵が、今更ながら遅れてレイの腕を掴んだ。

「大丈夫か?」

 目を閉じて自分の腕に縋り付くレイを見た真顔のヴィゴの言葉に、ルークも心配そうに覗き込んでいる。



 しばらくの沈黙のあと、レイは無言で何度か頷き大きく深呼吸をしてから手を離して体を起こした。

「すみません、ありがとうございました。もう大丈夫です。えっと、ちょっと急に立ちくらみが来たみたいです」

 誤魔化すようにそう言うと、もう一度態とらしく俯いて大きく深呼吸をする。



 何事かと駆けつけた執事にお願いして水をもらい、念のためカナエ草の薬を飲んでおいた。

 それから、会場の隅に用意されていた、幾つかある歓談用の椅子に座らせてもらった。

 倒れかけたレイを見て駆けつけてくれたミレー夫人やウィルゴー夫人をはじめ、両公爵夫妻や何人もの知り合いの方々に心配されて、椅子に座って必死になって謝るレイだった。



『ふむ、ちょっと話を急がせ過ぎたか』

 レイが休んでいるソファーの背に座ったブルーのシルフは、隣に座ったニコスのシルフ達と一緒に心配そうに、集まって来た人達と話をするレイを見つめていた。

 しかし、座っていてもまだ少し顔色が良く無いようで、呼んでもいないのに集まってきた他のシルフ達も心配そうだ。


『でもこれは大切な記憶だから』

『封印してはいけない』

『これは星のかけらに繋がる記憶』

『だから大切にしておかないといけない』

『大事な記憶大切な記憶』


 いつの間にかレイのペンダントから出て来た光の精霊達が、ブルーのシルフの前でそんな話を始める。

 しかし、彼らの言葉はレイや竜騎士達でさえ聞こえていない。

『やはりそうか。何かあるのだな?』

 真剣なブルーの問いに、光の精霊達が揃って頷く。

『ふむ。それで、人の子にあの旋律を教えるのは大丈夫なのか?』


『それは構わない』

『曲自体は知られても問題無い』

『蒼竜様の癒しの歌と同様』

『力の無い者達なら歌っても問題無い』

『大丈夫大丈夫』


 また揃って頷く光の精霊達に、安堵したようにブルーのシルフも頷く。

『そうか、ならば後ほど改めて彼に全部教えてやるとしよう』

 笑ったブルーのシルフの言葉に、光の精霊達も揃って嬉しそうに何度も頷いていた。



『大丈夫か?』

 ふわりと飛んでレイの肩に座ったブルーのシルフが、心配そうにレイの頬にキスを贈る。

「うん、大丈夫……ちょっとびっくりしただけ。ブルーは知ってたんだよね?」

 無意識に腕をさすりながら小さな声で話しかけられ、ブルーのシルフはもう一度キスを贈ってから座るレイの膝の上へ移動した。

『ああ、知っていたよ。大聖堂でシルフを通じてではあるが実際に演奏しているのを聞いた事もあるよ。アルカーシュの大聖堂は本当に美しかったからな』

 静かなその答えに、レイは小さく頷いた。

「今度、どんな風だったか教えて。母さんが見た景色、聞いた歌や演奏を僕も知りたい」

 ごく小さな声だったが、ブルーのシルフの耳にはちゃんと聞こえていた。

『ああ、喜んで。では先ほどの曲を改めて全部教えてやる故、演奏してやると良い。きっと先程の音楽家達は待ち構えておるだろうからな』

 後半に、今度はマイリー達が演奏する予定になっているので、レイも竪琴で少しだけお手伝いする予定になっているのだ。

「えっと、じゃあその時に演奏すればいいの?」

 同じ曲を二度も演奏する事になるが良いのだろうか?

 ちょっと心配になって聞いてみると、ブルーのシルフは笑って首を振った。

『いや、彼らが後日改めて本部へ来ると言っていたぞ。オパールの主と何やら打ち合わせをしていたから、おそらく其方の今後の予定を確認していたのだろうさ』

「ああ、そうなんだね。良かった。同じ曲を何度も演奏しても良いのか、ちょっと心配だったからさ」

 笑って肩を竦めるレイに、ブルーのシルフも頷く。

『ま、余程の事が無い限り、普通は同じ曲を二度以上演奏するような事はせぬな』

「やっぱりそうなんだね。聞いて良かった」

 笑って、目の前に置かれていた軽めのリンゴ酒をゆっくりと飲み干す。

「ふう。ちょっと貧血だったけど、もう大丈夫だよ」

 大きく腕を上げて伸びをするレイを見て、ルークとマイリーが両隣に座る。

「大丈夫か?」

 マイリーに額に手を当てながらそう聞かれて、笑ったレイが大きく頷く。

「大丈夫です、ちょっと貧血だったんだけど、もう治りました」

「まあ、貧血は気をつけないと急に来るからな。後日改めて、ハン先生かガンディに普段食べている食事について改めて見てもらっておきなさい」

「レバーフライとレバーペーストは、頑張って食べているんだけどなあ」

 ちょっと拗ねたように口を尖らせるレイを見て、その顔色がやっと元に戻っているのを確認したマイリーは、手を伸ばしてそのふわふわな赤毛を思い切り撫でてくしゃくしゃにした。

「全く、びっくりさせるんじゃ無いよ。こんなにデカいのがいきなり倒れたら、俺かヴィゴくらいの力がなければ、普通は支えようとして一緒にひっくり返って更なる大騒ぎになるだけだぞ」

「あはは、確かに俺でもいきなりこいつが倒れてきたら抱えられる自信無いよ」

 ルークがマイリーの言葉に遠慮なく吹き出す。

「ええ、そこはしっかり支えて助けてくださいよ!」

 更に口を尖らせて眉を寄せるレイを見て、ルークは必死になって大声で笑いそうになるのを堪えていたのだった。



「ああ、そろそろ演奏の準備だな。本当に大丈夫か?」

 もうしばらくそのまま椅子に座ってのんびりと話をしていると、執事が演奏の準備の時間だと知らせてくれた。

「はい、しっかり休ませてもらったのでもう大丈夫です。じゃあ今度は僕がお手伝いですね」

「おう、頼りにしてるよ」

 そう言いながら立ち上がろうとするマイリーの腕を、執事と一緒に来たヴィゴが支えるよう引いて立たせる。

「ああ、ありがとう。じゃあ行くとするか」

「いってらっしゃい、それじゃあ俺はタドラと一緒に見学してます」

 笑って手を振るルークに見送られて、レイはマイリーとヴィゴと一緒にまた舞台横の衝立の向こうへ入って行ったのだった。

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