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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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愛しき竜の主

「無事到着〜!」

 ティミーの足が地面についた瞬間、レイが嬉しそうに笑いながらそう言って手を叩いた。

 見ていたルーク達も笑顔で拍手してくれた。

「よく飛び降りられたね。すごいよ!」

 駆け寄って抱きしめてくれたレイに、ティミーも歓声を上げて飛びついた。

「すごい! シルフに頼めばこんな事まで出来るんですね。僕、もうドキドキしちゃいました!」

「これがすぐに日常になるよ。レイルズなんか、ラピスの背から毎回飛び降りるんだぞ」

 笑ったルークの言葉に、ティミーは目を瞬いて無言でレイを見上げ、今は見えないが竜達がいる方角を振り返った。

「あの、ラピスの背の上から……飛ぶんですか?」

「大丈夫だよ。だって、ブルーの背から降りようと思ったら、背中を滑り降りるか腕を伝って降りるしかないんだよ。以前は背中から滑り降りていたんだけど、鞍を取り付けるベルトが邪魔で出来なくなっちゃったんだよね。毎回腕を伝って降りるのは面倒だし、だからいつもシルフに助けてもらって上から飛び降りるんだ。慣れれば気持ち良いよ。ああ、そっか。乗る時もシルフ達に頼めばもう少し楽に乗れるかも。ねえブルー! 今度乗る時にやってみるね!」

 話している最中に何やら思いついたらしく、レイは得意そうにブルーがいる方角を振り返って大声で叫んだ。

 その声に反応して、木々の上からブルーが首を伸ばしてこちらを伺うのが見えてティミーは目を見開く。

 ラピスの大きさは本当に桁違いだ。

 自分の竜であるターコイズよりもさらに大きかったあの姿を思い出し、ティミーは密かに唾を飲んだ。

「古竜って、凄い……」

 小さく呟き、震えそうになった腕を掴んだ。



「それじゃあ戻るか。まあ今回は急遽のお泊まり会だったからあまり準備も出来なかったけど、今度はもっとちゃんと予定を決めてからやろうな」

「そうだね。でも楽しかったです」

 ルークの言葉にレイが笑いながらそう言い、その隣ではティミーも満面の笑みで何度も頷いていたのだった。一旦離宮まで歩いて戻り、庭にいた竜達に挨拶をしてから部屋に戻る。

 少し休んでから、また庭に用意された机で、少し早めの豪華な昼食を竜達を眺めながらいただいた。



「僕、やっぱりまだ夢を見てるみたいです」

 ティミーはゆで卵を頬張りながら、ずっと自分を見つめているターコイズを見ては笑顔で手を振っている。その度に、ターコイズは席まで聞こえるくらいの大きな音で喉を鳴らしていた。

「ううん、ラピスも大概だと思っていたけど、ターコイズの溺愛ぶりもなかなかに凄いなあ」

 それを見ていたルークが、苦笑いしながら呆れたように呟く。

「そりゃあ、待ちに待った主殿なんだからさ」

「だよなあ。しかもまだ未成年とくれば、そりゃあ甘やかしたくもなるか」

 同じ事を思っていたユージンの呟きに、ロベリオも腕を組んで同意するようにそう言って何度も頷く。

「未成年が竜の主になった場合、特に竜は甘やかす傾向が強いらしいよ。そりゃあまあ、竜にしてみれば未成年の子供なんて、小さくて小さくてもう堪らないくらいに可愛いんだろうけどさあ」

 笑ったルークの言葉に、机の前に現れたブルーの使いのシルフとターコイズの使いのシルフが揃って大きく頷く。

『それは当然であろう』

『幼く無垢な者を愛おしいと思うのは当然の事だ』

 いっそ開き直ったとも取れるブルーの言葉に、ルーク達が笑う。

 しかしその笑いは馬鹿にするような笑いではなく、とても優しい笑いだった。

「ううん、俺もパティに会いたくなった。本部へ戻る前に竜舎へ寄って行こう」

 パンをちぎったルークが小さな声でそう呟くのを聞いた若竜三人組も揃って頷き、顔を見合わせて笑っていた。



 食事の後は、もう少し本を読む為に書斎へ向かった。

 書斎で思い思いに好きな本を読んで過ごし、三点鐘の鐘が鳴ったところで本日の本読みの会は終了となった。

 レイとティミーは、本部へ戻る前にもう一度庭で待つ愛しい竜の所へ行って思い切り触れ合い、それから揃って本部へ戻って行った。

 ティミーと執事のマーカスは迎えに来ていた馬車で家へ戻り、ティミーを見送った一同はそのまま竜舎へ向かった。



「あれ、もう戻ってるんだね」

 第一竜舎へ一緒に入ったレイは、ターコイズがもう竜舎に戻っているのを見て驚いて駆け寄った。

「ああ、ティミーが戻ってすぐに我も戻ってきたよ。ラピスもすぐに湖へ戻ったからな」

 目を細めるターコイズの言葉に、レイは嬉しそうに笑って手を伸ばし、ターコイズの鼻先をそっと撫でた。

「ブルーと仲良くしてくれてありがとうね。これからもよろしくね」

 嬉しそうに大きく喉を鳴らしたターコイズは、自分を撫でてくれるレイの手に頭を擦り寄せるように少しだけ上下させた。

「ラピスと久方振りにゆっくりと語り合えて我も楽しかったよ。互いに過ごした場所は違えど、主殿への想いは変わらぬ」

「久方振りって……ええ、もしかしてターコイズは以前のブルーの事を知っていたの?」

 レイの言葉に、それぞれ自分の竜の所へ行っていたルーク達が揃って振り返る。

 道具の整理をしていたマッカムも、慌てたように顔を上げた。

「ああ、ラピスが初めての主殿(あるじどの)を得た頃、我もまたここで主を得ていた。その後のそれぞれの主が辿った人生は……全く違うものとなったがな」

「ご、ごめんなさい。不用意な事を聞いて」

 慌てたようにレイが謝るのを見て、ターコイズが不思議そうに目を瞬かせる。それから納得したようにゆっくりと頷いた。

「ああ、そうか。其方はラピスの主殿がラピスと出会った後に、どのような経緯を辿ったのか知っておるのだな。そしてその後の騒動も」

 小さく頷くレイに、ターコイズは目を細める。

「さぞ辛かったであろうな。そしてその後の事まで含めて我も全て知っておる。ラピスの主殿……よくぞ彼と出会って彼を受け入れてくれた。彼を喪失の絶望から救ってくれて感謝する。どうか、ラピスと末長く幸せにな」

 ゆっくりと鳴らされるブルーとはまた違った喉の音を聞きながら、レイは込み上げてくる涙を拭おうともせずに、ターコイズの、ブルーよりも少し小さいだけのその頭に両手を広げてしがみついた。

「もちろん約束するよ。だからターコイズも約束して。ティミーと一緒に、思いっきり幸せになるって」

「ああ、約束しよう。我ら愛しい主殿と常に共にあると。精霊王に感謝と祝福を。愛しい全ての主殿に幸いあれ」



 低い声で宣言するターコイズの言葉に、竜舎にいた全ての竜達が首をもたげて一斉に喉を鳴らし始めた。

 呆気に取られるルーク達を見て、竜達は愛おしげに目を細めてまた大きく喉を鳴らした。

 そして、レイの右肩に座っていたブルーの使いのシルフも、想いを込めてレイの滑らかな頬にそっとキスを贈ったのだった。

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