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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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もう一つの夜遊びの始まり

「あはは、ありがとうな。ラピス」

 笑ったロベリオがもう一度そう言ってブルーのシルフにそっとキスを贈る。

『気にするな。大した事ではないさ』

 笑ってそう言うと、こちらはぶつけたのに平然としているレイの所へ素知らぬ顔でふわりと飛んで行った。

 そして入れ替わるようにしてロベリオの竜であるオニキスの使いのシルフが現れ、もう一度彼の額に癒しの術を届けたのだった。




「はあ、美味しいねこれ」

 ロベリオが復活したところでひとまず休憩にして、用意してくれてあった冷えたカナエ草のお茶を頂いた。

 いつもならもう熟睡しているであろう時間だが、興奮のあまり全く眠くならないティミーはもらったビスケットを齧りながらご機嫌でお茶を飲んでいた。

 こんな時間にお茶やお菓子をいただくのも初めての経験だ。そして左手にお菓子を持ち、口にはお菓子を含んだままでお茶をもう片方の手で飲んでも誰も行儀が悪いと言ってティミーを叱らない。

 レイとタドラに至っては、ベッドに座ったままそこでお菓子を食べながらお茶を飲んでいる。

 普通なら、やってはいけないと言われる事を堂々としても誰にも叱られない。こんな経験は初めてだ。こんな楽しい時間があるなんて考えた事すら無かったティミーは、嬉しくなって冷えたお茶を飲んだ。



『楽しそうだな』

 笑ったターコイズの使いのシルフにそう言われて、口の中のものを飲み込んだティミーは満面の笑みで大きく頷いた。

「ゲイル。うん、僕すっごく楽しいよ。こんなの全部初めてだ」

『それはよかった』

『だがこれで終わりではないぞ』

 その言葉に驚いて目を瞬く。

 ティミーは、このお茶を頂いたらもうお休みするものだとばかり思っていたのだ。

「ええ、枕戦争第二弾が始まるの? 大変だ、僕の枕どこにやったっけ?」

 慌てて周りを見回すティミーを見て、彼以外の全員が揃って吹き出す。

「あはは、それもなかなかに魅力的な話だけど、このあとはちょっと出掛けるからな」

「出掛ける? ええ、こんな時間にどこへ行くんですか? まさか……」

 唐突に真っ赤になるティミーを見て、また皆が笑う。

「おいおい、ティミー君は一体全体どこへ行くつもりなんだい。うん? いいからこっそりロベリオお兄さんに何を考えているのか言ってごらん?」

 これ以上無いくらいににんまりと笑ったロベリオの言葉に、ティミーも吹き出す。

「ええ、そんなの言えませ〜〜ん」

「言え〜〜言うのだ〜〜!」

 笑ったロベリオに、脇腹をくすぐられて、悲鳴を上げたティミーがビスケットをもう一欠片持ったままレイのところへ立ち上がって走って行った。

「レイルズ様助けてください!」

 そう叫んでベッドに飛び込む。

 反動で大きく跳ねたレイとタドラが、わざとらしい悲鳴を上げてティミーの横に倒れ込んでくる。だが、その手には中身の入ったお茶と食べかけのお菓子を持ったままだ。

 当然次の瞬間に起こるであろう惨事を予想して慌てたティミーだったが、コップの縁にウィンディーネが現れて片手で中身を押さえるのを見て目を見開く。

「ありがとうね、お茶がこぼれなかったよ。姫」

 何事もなかったかのように腹筋だけで起き上がったレイが、無事だったカップに向かって当然のようにそう言って笑う。

 得意気に胸を張ってから消えて行ったウィンディーネを見送ったティミーは、驚きのあまり言葉も無い。

「驚いたかい? これからはこれが日常になるよ。精霊達は何処にでもいて、いつだって僕達の事を見ている。ターコイズの使いのシルフがいつも一緒にいるみたいにね」

 タドラの言葉に、返事をする余裕もなく無言で頷く事しか出来ない。

「ティミーは、水と風に特に高い適性があって、火と土にはあまり反応が無かったんだけど、光にはそれなりに反応があったんだよね。だから今夜は、ティミーにウィスプがどこまで見えるかも確認したいんだよね」

 ロベリオの言葉に、コップを置いたレイが目を輝かせる。

「じゃあ、もう行きますか?」

「そうだな。もう喉の渇きも治った事だし、行くとするか」

 笑ったルークの言葉に、当然のように皆が立ち上がる。

「ほら、ティミーも立って。今から精霊の泉へ出掛けるからね」

 得意気なレイの言葉にもう一度目を見開いたティミーは、驚きのあまり声を上げたのだった。



「ほら、窓から出るのが正式な夜遊びの始まりだからね」

 得意気にそう言って軽々と窓から飛び出すレイを見て、ルーク達が声を上げて笑う。

 しかしランタンを持っているのは、タドラだけだ。

「ああ、悔しい。僕だけランタン持ちだ」

 笑いながらそう言い、ランタンを窓越しにレイに預けたタドラも軽々と窓から外に出る。当然のようにルーク達もそれに続いた。

「ほら、何してるんだ。置いて行くぞ」

 笑って振り返ったロベリオにそう言われてようやく状況を理解したティミーは、目を輝かせて窓に駆け寄ると、両手を使って窓枠にしがみついて一気に外に飛び出した。皆の足はスリッパを履いたままだ。

「じゃあ行くとしようか」

 ルークの言葉に一列になった一同は、堂々と茂みをくぐり抜けて真っ暗な外へ出て行ったのだった。



 普段とは全く違う、夜に窓からスリッパを履いたままで外に出るなんて場面に、もう興奮が最高潮に達したティミーは、少し眠くなっていた事などすっかり忘れて早足でレイの後に続いた。

 彼らの肩にはそれぞれの使いのシルフ達が集まって来て座り、当然のようにティミーの肩にはターコイズの使いのシルフが座っていて、愛しい主の興奮のあまり真っ赤になったその柔らかな頬に、何度も何度も嬉しそうにキスを贈っていたのだった。

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