三人一緒!
大部屋で一緒に寝起きしているレイ達三人と違い、ジャスミンには一部屋が、クラウディアとニーカは同じ部屋が割り当てられている。
それぞれの部屋の前で別れようとした時、ニーカがジャスミンの手を握って引っ張った。
「ねえ、今夜は一緒に寝ましょうよ。良いでしょう?」
最後の言葉は、彼女の後ろに控えている護衛のケイティと侍女に向けられている。
驚いたケイティは、しかし笑ってジャスミンの背中を軽く叩いた。
「こう仰っておられますけれど、如何致しますか?」
驚きに目を瞬くジャスミンに、ケイティはそっと耳打ちした。
「どうぞ行ってらっしゃいませ。こんな事、ここでしか出来ませんよ。好きなだけ夜更かしして女の子同士の内緒の話をして来てください」
目を溢れんばかりに見開いて自分を見ているジャスミンに、ケイティは優しい笑顔で頷いた。
姉がいるケイティは子供の頃に枕を抱えて姉の寝室へ行って、一緒に枕を並べて同じベッドで本を読んだり、内緒のおしゃべりをして夜更かしした事が何度もある。避暑地でもある地方領主の叔父の所へ遊びに行った時には、ここで彼らがやっていたように深夜にこっそりスリッパを履いて部屋を抜け出して、姉や従姉妹達と一緒に夜の真っ暗な廊下で隠れんぼをしたり、月明かりの下で裸足で庭を走り回った事さえある。
だが、一人っ子だったジャスミンはどうやらそんな遊びをした事が無いらしく、ここでの精霊の泉への夜の散歩でさえも、彼女にとっては人生初の大冒険なのを理解していた。
「良いの?」
おずおずと、それでも嬉しそうに尋ねるジャスミンにもう一度笑顔で頷いてから、咳払いをして腕を組んで首を振った。
「ですがその前に、まずは部屋に戻って湯をお使いください。それから夜着に着替えて上着を羽織り、枕を抱えてスリッパで訪問するのが正式な作法でございます」
その言葉にジャスミンだけでなく、横で目を輝かせて聞いていたクラウディアとニーカも揃って吹き出した。
「それは知らなかったわ。じゃあ、正式な作法ならそうしないと駄目ね」
うんうんと頷きながら嬉しそうにジャスミンがそう言い、また三人で笑い合った。
「それじゃあ、後でね」
改めて部屋の前で手を振って別れ、一旦それぞれの部屋に入る。
大急ぎで交代で湯を使い、クラウディアとニーカは自分の寝室で夜着に着替える。
「ねえ、どっちのベッドで寝る?」
居間に出て来た二人はニーカの言葉に困ったように顔を見合わせた。
どちらの寝室のベッドも、彼女達にとっては広すぎる大きさだが三人一緒に寝るには少々狭そうだ。
その時、扉をノックする音がして、慌てて振り返ると部屋付きの侍女が出てくれた。
てっきりジャスミンが来てくれたと思っていた二人だったが、慌てて扉をしめた侍女から、真顔でしばらく別室で待つように言われて、すぐ近くだったクラウディアの寝室へ案内されて扉を閉められてしまった。
「ええ、ジャスミンが来たんじゃ無いの?」
「そうね。一体どうしたのかしら?」
顔を見合わせて首を傾げた二人は、閉じられたままの扉を見る。
「覗いたりしたら……駄目かしらね?」
「でも、見たいわよね?」
笑顔で頷き合った二人は、足音を忍ばせて扉の前まで行った。
「開けるわよ」
ニーカが小さな声でそう言って、少しだけ扉を開く。
しかし、扉のすぐ前にいたのは満面の笑みの侍女の姿だった。
「大変申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください」
満面の笑みなのに目だけが笑っていない。
「……ごめんなさい」
即座に謝って扉を閉める。
「えへへ、怒られちゃったね」
「そうね。でもきっと私達がこんな格好だから、部屋に入って待ってるように言ってくださったんだと思うわ」
クラウディアの言葉に、ニーカが不思議そうに首を傾げる。
「ニーカは見えなかったみたいだけど、部屋に大柄な執事さんがいらっしゃってたのがちらっとだけど見えたわ。きっとジャスミンが来るから何か準備をしてくれる為に男性の方が部屋に来てくださってるのよ。ほら、私達、湯上りでこんな格好でしょう? いくら執事さんでも、男性の前に出るのは駄目なのではなくて?」
確かに、今の彼女達が着ているのは、薄くて柔らかい木綿素材の夜着だけだ。部屋に置いてあった綿兎の上着を羽織ったとしても、男性の前に出て良い格好では無い。
「そっか、でもそれならそう言ってくれればいいのに。だけど何をしてるのかしらね?」
もう一度顔を見合わせた後、二人は同じ事をした。つまり揃って扉に耳を当てて向こうの様子を伺おうとしたのだ。
何やら話す声が聞こえた後、重いものを引きずるような音がして首を傾げる。
「何かを運び込んでるのかしら?」
「みたいね。だけど、居間に何を運ぶっていうのかしら?」
閉じ込められる理由は分かったが、何をしているのかさっぱり分からず顔を見合わせたまま大人しく扉の前で待つしかなかった。
しばらくすると、軽いノックの音がして扉が開かれる。
侍女は、扉のすぐそばにいた二人に一瞬驚いたように目を見開き、すぐに笑顔になった。
「驚かせて申し訳ございませんでした。準備が出来ましたのでどうぞ」
一礼して扉を大きく開けてくれたので、お礼を言って寝室から出た二人は揃って歓声をあげた。
部屋の真ん中に置かれていた大きなソファーとテーブルが無くなっていて、代わりに部屋の真ん中に三人が並んで寝ても余裕な大きさの巨大なベッドが置かれていたのだ。
「ええ、凄い。ベッドをわざわざ運んでくださったの?」
目を見開くニーカの言葉に、後ろに控えていた侍女が笑顔で教えてくれた。
「ここに置いてあったソファーを広げて、補助台を横付けして大きなベッドにしたのですよ。これなら三人でご一緒に寝転んでも、ゆっくりお話が出来ますでしょう?」
優しいその言葉に、揃って目を輝かせた二人は手を取り合って大喜びしていた。
その時、ノックの音がして扉が開く。
満面の笑みで出迎えた二人は、目の前に置かれた巨大なベッドに驚くジャスミンと手を取り合って笑い合い、そのまま歓声を上げてベッドに揃って飛び込んだのだった。




