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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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精霊の泉と懐かしい遊び

 明かりを持ったガンディを先頭に、建物の外に出たレイ達は、庭で丸くなっている愛しいルチルに手を振って駆け出して行くジャスミンの後ろ姿を見ていた。

 ブルーとクロサイトは湖に戻ったようで、もう庭には姿が見えなかった。

「ルチル様もああやってジャスミンと一緒にいるのを見ると、とても大きいと思いますが……ラピス様は、本当に大きいのね」

 大きな頭に抱きついているジャスミンを見ながら、レイの隣でクラウディアがそう呟く。

「そうだね。ブルーは竜騎士隊の竜舎にも入れなくて、それでここの湖にいるんだよ」

 笑ったレイの言葉に、納得したように頷く。

「そうなんですね。空を飛んでいる姿を何度かお見かけした事があるけど、その時にも、竜を見慣れている他の人達が、ラピス様は本当に大きいっていつもそう言っていたわね」

「一番小さいクロサイトと並ぶと、余計にそう思うよね」

 笑ったレイはそう言って、自分の肩に当然のように座っているブルーのシルフにキスを贈った。



「ごめんなさい。お待たせしました」

 少し照れたように走って戻ってくるジャスミンに、皆が笑って首を振る。

「構わんよ。其方の大切な竜じゃから遠慮はいらぬぞ」

 ガンディがそう言い、ジャスミンをマークの隣に並ばせた。

 ランタンを持っているのは先頭のガンディと目付役の二人だけで、あとはレイとマークの呼んだ光の精霊達が足元を照らしてくれている。

 先頭にガンディ、その後ろにレイとクラウディア、それからマークとジャスミン、キムとニーカと並び、その後ろをターシャ夫人とロッシェ僧侶が続いてゆっくりと茂みに向かって歩く。

 途中、警備の兵士に挨拶をしながら茂みの中にある細い道を進み、少し広くなった道を通り抜ければ目の前が一気に開けて、その先に目的地である精霊の泉がある。



「おお、何度見ても見事な光景じゃな」

 感心したようなガンディの呟きに、レイ達も揃って頷く。


(あるじ)様だ』

『主様だ』

『主様だ』

『我らの友もいる』

『優しき友達』

『愛おしき友達』

『夜更かし夜更かし』

『いけない子達』

『だけど仲良し』

『仲良し仲良し』


 笑いさざめくシルフ達が、彼らに気付いて嬉しそうに集まってくる。


『また大人がいるね』

『我らが見えぬ人の子がいる』

『変なの』

『変なの』

『でも綺麗な光の持ち主達』

『主様のともがら也』

『ならば良しとしようか』

『良しとしようぞ』


 こちらも集まってきた光の精霊達が、一番後ろで目を見開いて嬉しそうに泉を見ているターシャ夫人とロッシェ僧侶の周りを飛び回りながら、面白そうにそんな事を言っている。

 どうやら、彼女達の事も覚えてくれたようだ。



「まあまあ、本当になんて素晴らしい光景でしょうか」

「本当ですわ。我々にまでこのような姿を見せてくれるなんて」

 感激しきりのターシャ夫人とロッシェ僧侶の呟きに、まるで光の精霊達が笑ったかのようにその光が点滅する。

 しばらく二人の周りを飛び回っていたが、そのうちにもう彼女達には興味をなくしたようで泉に戻って行ってしまった。

 残念そうにしつつ光を見送った二人は、少し下がって仲良く話をする彼らを黙って見つめていた。



 ガンディは泉の縁に座り足元にランタンを置くと、集まって来た光の精霊達と何やら真剣に話を始めてしまった。



「えっと、じゃあまた追いかけっこをする?」

「今度は転ばないでね」

 レイの言葉にニーカが笑いながらそう言い、皆で大笑いになった。

「誰かがレイルズの(はがね)の頭突きを受けたら、すぐに儂が手当てしてやる故心配はいらぬぞ」

 顔を上げたガンディの言葉に、レイルズ以外の全員が同時に吹き出し、膝から崩れ落ちた。

「鋼の頭突き」

「何だよそれ。でも、めちゃめちゃ的確な表現だぞ」

「だな。じゃあ次からは俺達もこう呼ぼう」

 笑い崩れていたマークとキムの会話に、最後は少女たちまで唱和して、綺麗に五人揃った。



「鋼の頭突き!」



「皆、酷い! だけど確かに的確な名前かも」

 文句を言いつつレイもその場で吹き出してしまい、また皆で大爆笑になった。


『鋼の頭突き〜!』

『主様の頭突き〜』

『痛い痛い痛い』

『危ない危ない』

『だけど懲りない主様〜』


 笑っている彼らの周りに集まって来たシルフ達までがそんな事を言い出したものだから、もう全員揃って笑いが止まらず、その場に座り込んでお腹を抱えていつまでも大笑いしていたのだった。




「はあ、笑った笑った」

 ようやく笑いが収まり、マークが笑い過ぎて出た涙を拭いながらそう言って立ち上がる。

 その後、昨日もやった葉っぱを集める追いかけっこをして遊んだ。

 今度は誰かが転ぶ事もなく無事に終わったが、結局最後の二枚をシルフ達が死守してレイ達の負けで終わった。




「そういえば、俺が初めてシルフを見て、辺境の砦からオルダムへ向かう途中に、訓練を兼ねてシルフ達と遊んだのを見せようか」

 ふと思いついたマークの言葉に、レイ達が不思議そうにする。

「えっと、誰がいいかな?」

 集まったシルフ達に向かってマークがそう言い、そのうちの一人が手をあげてマークの目の前にやって来た。

「了解、じゃあ君と遊ぼう。他の子達は黙って見ててくれよな」

 口元に指を立てるマークの言葉に一斉に頷いたシルフ達が、いそいそとマークの周りから少し離れる。だけど皆興味津々で彼を見つめている。

 マークと仲の良い何人かのシルフ達は彼が何をしようとしているのかを理解して、笑って少し距離をとって木の枝に座った。



「じゃあこれで良いな」

 手を伸ばして、木の枝に成っていた硬い木の実を引きちぎる。

 直径5セルテほどのそれを右手に持ち、待ち構えていたシルフの目の前で左右に振って見せる。

 当然シルフは木の実を見つめているので、右に左に顔を振る。そのまま左手に素早く持ち替えて握り、また振った後に右手に持ち替えて握る。

 それを一定のリズムでやってシルフが次第に慣れて来たところで、左手に移す振りをして後ろへ落とす。

 しかし、当然シルフは左手に木の実が入っていると思っているので左手から目を離さない。

 そこでマークは、にっこり笑って左手を開いた。



 空っぽの左手を見て、シルフが驚いたようにマークの顔を見る。

 それから空になった手を何度も叩き、指の間を確認する。

 そこまでやって、マークが吹き出した。

「ごめんよ。木の実はそこには無いって。木の実あるのは、ここ」

 そう言って自分の後ろに落ちている木の実を指差す。

 顔を覆った騙されたシルフが悲鳴を上げるのを見て、それまで息を殺して黙って見ていたレイ達だけでなく、シルフや光の精霊達までが同時に吹き出し大喜びで笑って拍手をした。



 次の瞬間、突風に吹き飛ばされたマークが勢いよく泉の横まで転がっていき、また皆で大爆笑になったのだった。

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