庭での朝食
「うわあ、すごく綺麗!」
庭に出たニーカが、用意されたテーブルを見て目を輝かせる。
まだ料理は出されていなくて、カトラリーと空の皿が置かれているだけだ。しかし、テーブルの真ん中部分には見事に花が山盛りに活けられていたのだ。
そしてテーブルの左右には、大きな花瓶が地面に直接置かれていて、そこには見上げるほどに大きな何本もの木の枝とともに、樹木の花が豪快に飾られていたのだ。
長く曲がった大きな枝は、テーブルの上までその枝を伸ばしていて、枝先にたわわに咲いた真っ白な小花の房をテーブルの上に垂れ下がらせて、花のアーチを作り出していた。
また、珍しい花に惹かれて集まって来た数匹の綺麗な蝶達が、その豪華な花に色を添えていた。
その夢のようなあまりにも見事な光景に、レイとジャスミン以外の四人は全員声も出せずにその場に立ち尽くして見惚れていた。
「あ、テーブルが丸いな」
「ええと、確かこれって……」
ようやく我に返った彼女達の後ろにいたマークとキムが、用意されていたテーブルが綺麗な丸い形をしているのを見て顔を見合わせる。
「ええと、確か、丸いテーブルって……」
「身分を気にしなくても良いって意味だよ」
笑顔のレイの言葉に、マークとキム、それからクラウディアとニーカがわかりやすく笑顔になる。
「花祭りの時に、ヴィゴ様のお屋敷でお食事をいただいた時と同じね」
クラウディアの言葉に、ニーカも笑顔で頷いている。
「とは言っても、手掴みで食べたりしたら駄目よ」
「いくら何でも、そんな事しません!」
からかうようなジャスミンの言葉に四人の叫びが綺麗に重なり、また皆で笑い合った。
「ほら座りましょうよ。えっと、どう座る?」
ジャスミンがレイを見上げながらそう言い、少し考えてその場に立ったままだった全員を見渡してにっこり笑って手を叩いた。
「ちょうど男女が三人ずつね。じゃあこうしましょう。レイルズはここに座って。ディアはここよ」
座って竜達が見える庭に向かった正面側にレイルズを座らせ、その隣にクラウディアを座らせる。
「ニーカはここね。それでキムはここに座って頂戴」
レイルズの、クラウディアが座ったのと反対側にニーカを座らせ、その隣にキムを座らせる。
「ほら、マークはここよ」
クラウディアの隣にマークを座らせ、キムとマークの間にジャスミンが座った。
「あ、これで男女が互い違いに座ったね」
レイが座った皆を見渡して笑顔で頷く。
満足気に頷いたジャスミンは、何だか嬉しそうだ。黙ってターシャ夫人を振り返り笑顔で口元に指を立てた。
苦笑いしたターシャ夫人が頷くのを見てもう一度満足そうに笑ったジャスミンは、レイと頷き合って執事に合図を送る。
一礼した執事がワゴンを手に進み出て来て、それぞれの目の前に、朝食とは思えないほどの豪華な料理を並べていった。
しっかりと食前のお祈りをしてから、それぞれに用意されたお料理をいただく。
皆それなりに緊張はしているようだが、マナーを気にしなくても良いと言われて気軽に笑顔で会話も楽しみながら豪華な料理を楽しんだ。
「はあ、これくらいなら、まあ緊張すると言ってもまだマシだな」
「だな、いつもこれでやってくれないかな」
マークとキムが笑いながらそんな事を言い、クラウディアとニーカもそれを聞いて何度も頷いていた。
「朝食や昼食ではこういった気軽な集まりもあるわね」
ジャスミンの言葉に、デザートの最後の一口を飲み込んだニーカが不思議そうに顔を上げる。
「思ってたんだけど、さっきから何だかジャスミンの機嫌が良いみたいな気がするんだけど、私の気のせいかしら?」
「あ、それは私も思っていたわ。気付いてない?」
クラウディアの言葉に、聞かれたレイ達三人は首を傾げる。
残念ながら女性のちょっとした機嫌の良し悪しを察するのは、まだこの三人には無理だったようだ。
「俺達にそんな高等技術を求めるな。なあ」
キムの言葉に、レイとマークが仲良く揃って頷く。
「だって、憧れだったんだもの」
何やら恥ずかしそうにそう言うジャスミンに、彼女以外の全員が不思議そうに首を傾げる。
「えっと、それは何に対する憧れなの?」
ニーカの質問に、何故か少し赤くなったジャスミンはにっこり笑って首を振った。
「後で教えてあげる。これは女の子だけの秘密よ」
レイ達が揃って目を瞬くのを見て、ジャスミンが嬉しそうに笑う。
何となく察したクラウディアとニーカも、笑顔で顔を見合わせて戸惑うレイ達には知らん顔で残りのお茶を飲み干した。
「えっとそれで、今日はどうする?」
話を変えるようにレイがそう切り出す。
「出来ればもう少し本を読みたいなあ」
「確かに」
マークとキムがそう言うのを聞いて、少女達も頷く。
「じゃあ、ガンディが来てくれるって言ってたから、午前中は書斎で好きな本を読んだり、魔法陣や構築式の展開についての話をしようよ。それで、午後からは庭に出て発動実験をやってみようか。あ、良かったら教えるから、ジャスミンも光の精霊魔法をやってみようよ」
笑顔のレイの提案に、ジャスミンが不安げに首を振る。
「実は、光の精霊魔法はまだ一度も成功していないんです。姿が見える程度だったら実技は無理なのかしら?」
「えっと、どうなんだろうね?」
肩に座っているブルーのシルフではなく、庭に座って首を伸ばしてこっちを見ているブルーに直接質問する。
「ふむ、適正は竜の主になった事で以前よりも上がっておる。ルチルは光の精霊魔法もよく使いこなしておる故、主である彼女に適性があるのならある程度までは使える筈だ。実技で言えばライトやフラッシュ程度だな。光の盾や光の矢は少し難しいかもしれんな。丁度良いではないか。己の伴侶の竜に直接教えてもらえば良い」
「そうですよジャスミン。こんな機会は滅多に無いんですから一緒に練習しましょう」
同じく首を伸ばしてこっちを見ているルチルの言葉に、ジャスミンは満面の笑みになる。
「よろしくね。じゃあ頑張ってせめてライトくらいは出来るようになりたいわ。それから、風と火の合成魔法ね」
「うん、頑張ろうね。あ、ガンディが来てくれたみたいだよ。ようこそガンディ!」
笑顔でレイがそう言った時、丁度庭の横の林の道から護衛の兵士と一緒にラプトルに乗ったガンディの姿が見えて、レイは笑って手を振ったのだった。




