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7 めぐみの告白

「あぁ、それ、もしかしたら私のせいかも……」

 いつも元気できゃぴきゃぴ話すめぐみが、気まずげにつっかえながらそんなことを言い出すので、香織は訝しげにその顔を覗きこんだ。


 時間は少しさかのぼる。放課後、帰り支度をしていた香織にめぐみの方から話しかけてきた。

「香織ちゃん、今日も帰っちゃうの?」

 にこやかに、だが少し困ったように首を傾げて問う。言いたいことはわかっている。部活の見学に行かないのか、ということだ。

「うん、帰るよ」

 香織の返事はそっけない。熱心に声をかけてくる担任やめぐみには申し訳ないが、部活に入るつもりは今のところない。どちらかといえば早く家に帰りたい。

 まるで馴染める気がしない、というのがここ数日を高校で過ごした印象だ。香織もなんとか自分からクラスの輪に入ろうと努力しているのだが、どうも避けられているようでなかなかうまくいかない。授業中はそれほど気にならないのだが、休み時間はどうしたらいいかわからなくなる。そんな状況が放課後も続くというのは遠慮したい。

 しかしめぐみはまだ諦めていないようで、そそくさと教室から出ていく香織についてくる。

「あ、ねぇねぇそしたら私のところに入らない?香織ちゃんきっと気に入ると思う」

「……めぐみは何の部活してるの?」

 その勢いに負けてつい訊き返してしまった。すると満面の笑みで即答する。

「書道部!ザ・ジャパニーズ・カルチャーが学べるよ」

 めぐみは筆を握ったようなポーズで香織の前に飛び出る。一瞬足を止めざるを得なかったが、その脇をすり抜けてまた歩き出す。今度もめぐみはついてきた。

「Japanese Cultureね……。そういうのが大好きなママは、私がそんな部活に入ったら喜ぶだろうけど」

「ね?興味出たでしょ?」

「でも、やっぱりやめる。私には楽しめないと思う」

「そうかなぁ。授業受けてるよりは楽しいと思うけどなぁ」

 香織にとって部活の問題は「入らない」という結論が出ていることなので、これ以上話を続けるのは無駄だと思っている。しかしこれだけ気にかけてくれる存在は今のところめぐみだけなので、むげにできない自分もいる。結局ずるずると、めぐみがついてくるのを止められなかった。すると生徒玄関まで来てしまったので、思わず香織は問う。

「めぐみは部活出なくていいの?」

「ふふ、今日は休んじゃうよ。元々香織ちゃん勧誘デーって決めてたし。もうちょっと話したいし」

 並んで下足に履き替えるめぐみを不思議そうに見つめる。香織の今までの人間関係にはめぐみのような人間はいなかったので、どうしても戸惑ってしまう。それが日本人の性質なのか、単にめぐみの性格なのかも未だ判然としない。

 帰り道、香織ははっきりさせておこうと、意を決して口を開いた。

「あのね、めぐみには悪いけど、私部活しても他の子とは馴染めないと思う。そしたらきっと楽しくないし。クラスにも馴染めないのに、部活は考えられない」

 正直に言うと、そう結論してしまうには早いような気もしている。しかし少なくとも今はそれだけで手一杯で、部活に入ることをめぐみに諦めてもらうにはそう言うしかないと思った。

 すると、予想していたより遥かに、めぐみは表情を曇らせてしまった。

「クラスに馴染めない?」

「避けられるから。隣の、創紀?は緊張してるだけって言うけど、ならなんで私に聞こえないように喋るの?日本人って変わってるって思うよ」

 めぐみに言うことではないと思いつつ、訊かれるがままに話してしまった。するとめぐみは予想もしていなかったことを言い出す。

「あぁ、それ、もしかしたら私のせいかも……」

「え?」

 いつも元気できゃぴきゃぴ話すめぐみの気まずげな声。めぐみのせいとは、一体どういうことだろう。香織は訝しげにその顔を覗きこんだ。

「私ね、クラスでは結構浮いてるんだ。それで、嫌がらせっていうか、軽いいじめ?みたいなのに遭ってて」

 確かに、高校生にしては珍しいくらいのハイトーンボイスだし、どことなく幼いめぐみは悪目立ちするタイプだとは思う。だがこんなに明るくて元気な子がいじめに遭うというのはなんだか奇妙な気もした。

 何も言えないままの香織に話すめぐみの声は、今までには聞いたことがないほど沈んだ、悲しげなものだった。

「だから、もし今香織ちゃんがみんなに避けられてるなら、それは私がたくさん話しかけてるせいだと思う。それが嫌なら、もうクラスでは話しかけないようにするから、安心して?」

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