55 共に映す景色
その後。家宅捜索の入った斑野たちの会社は、数々の都市開発計画で不適切な土地買収や工事発注が相次いで見つかり、詐欺などの疑いで社長以下取締役の大多数が逮捕される事態となった。悠星たちの町の再開発計画も白紙に戻されることになり、町を一度出た人々も再び元の家に戻ってくることになった。こうして一連の再開発の問題は一応の終結を見ることとなった。すべての問題が解決したわけではないが、悠星たちにできるのはここまでだった。
そして後日。
「おじさんも普通に車運転できるんだね」
「当たり前だろ。納車とかもあんだぞ」
「うーん。でも違和感しかない」
「言ってろ」
この日、俊也は以前言っていた「とっておきの場所」へ悠星たちを案内するという。普段は一人でバイクに乗って行くらしいが、今回は四人も引き連れて行くので、普通車をレンタルした。大場モータースには納車で使うトラックしか車はないし、先日昭善が運転していた軽自動車は四人しか乗れないので借りても全員を乗せることができないからだ。
後部座席には創紀を挟むようにして香織とめぐみが座っている。三人は同じクラスだが、こうして集まるのは久しぶりだった。
「とりあえずこれで藍川さんも十萌さんも引越ししなくて済むね」
「せっかく仲良くなれたんだもんね。よかったよね、香織ちゃん」
「こんな短期間にまた引越しなんてしたくなかったし、ほっとしてる」
香織は冷めた態度に見えるものの、それが通常であることはもう二人もわかっている。香織はべたべたした付き合いは苦手なのだ。
「藍川さんもはじめに比べたらだいぶクラスに馴染んだよね」
「それは、多分言葉のせいかも。あの頃はまだ日本語の微妙なニュアンスがわからなかったし。……あとは、めぐみのおかげかな」
だからその言葉はちょっと意外だった。めぐみはきょとんと香織を見る。香織はいたってまじめな顔だ。
「めぐみには感謝してる。創紀にもね。やっと少し、クラスでも過ごしやすくなったよ」
「……そっか」
めぐみは頬を染めてはにかむ。香織が率直に言ってくれたことが嬉しかった。
「おぅい、そろそろ着くぜ」
すっかり三人の世界に入っている後部座席に俊也が声をかけた。言ったとおり、程なく車は停車した。
俊也に続いて助手席から降りた悠星は、思わず大きく伸びをして空気をいっぱいに吸った。秋風がそよぐその場所の空気は爽やかで心地いい。
着いたのは丘の上の開けた場所だった。周囲には何もなく、秋の草たちが今が盛りとばかりに風にそよいでいる。大部分はススキだが、その間に細い茎を伸ばして花を咲かせているものもある。名前はほとんどわからないが、中にはコスモスなども咲いている。
「何この場所。おじさんぽくない」
ひとりごちると、後ろから軽くどつかれた。俊也だ。
「いいところだろうが。お前は俺にどんなイメージ持ってんだよ」
「イテテ……少なくともこんなセンチメンタルではないかな」
「誰がセンチだ。まぁまだお子ちゃまの悠星にはわからんだろうよ」
けっけっと笑う俊也にちょっとふてくされたい気分になった。しかしそんな気分も吹きぬける風が溶かして持っていってしまうようだった。風は秋の匂いを運んでくる。
悠星たちが言い合っている間に、あとの三人はさらに奥まで進んでいた。
「すごい景色だな。町が一望できる」
周りに視界をさえぎるものがないので、そこはまるで展望台のようだった。悠星の通う中学校も、創紀たちが通う高校も眼下に見ることができた。
「雑草戦隊の解散式にはもってこいの場所だろ?」
悠星たちも三人のいる場所に立って眼下の町を見渡す。今はまるで何事もなかったかのように、たくさんの人々が日常を送っている。
「確かにね。ほんとおじさんそこにこだわるよね」
「言いだしっぺはお前だろうが」
「いや、戦隊とは言ってないし」
言い合いながらも、のんびりとした時間が流れる。日常を取り戻したのはこのメンバーにとっても言えることだ。
「何はともあれ、これにて雑草戦隊、解散!」
晴れ晴れと俊也が宣言する。もう何でもいいや、と悠星は苦笑した。秋の深まりを感じさせるちょっと冷たい風が、群生するススキを揺らすさらさらという音が五人の間を満たしていった。
おわり
これにて本作は完結いたします。
途中とぎれた時期もありましたが、なんとかここまでたどり着きました。
長い間お付き合いいただきありがとうございました。




