50 ススキシルバー最強説
母屋へと戻ってきた一行は既に夕飯の用意がされたダイニングの席ににそれぞれついた。悠星の父、克善が単身赴任で不在のため、椅子は俊也を入れてぴったり人数分ある。
「大場さん。珍しいですね」
「おう、ちょっと野暮用でな」
仕事帰りの善之が俊也に声をかける。父の友人である俊也とは悠星ほど親しいわけではないが、面識はそれなりにある。
「さぁ、冷めないうちにどうぞ」
「いただきます」
今日の献立は鮭の西京焼きにほうれん草のおひたし、かぼちゃの煮物にけんちん汁だ。暢子は和食だけでなく洋食や中華も作るが、今夜はメインの西京焼きに合わせた形だ。
悠星たちを待っていたからか、部活帰りの悠斗などはがっつくように食べ、誰より早く食べ終えた。暢子に「そんなに慌てて食べたら喉に詰まるわよ」と言われるほどだ。一方の暢子はゆっくりマイペースに食べている。善之も食べるのは早いが、社会人として普段から見られているせいか振る舞いがスマートだ。
それぞれ食べ終え、悠斗と善之が席を立つと、昭善がおもむろに口を開いた。
「ときにお前たち。先ほどの件だが」
昭善が語りかけているのはもちろん悠星と俊也だ。二人はギクッ、と肩を震わせる。説教はまだ終わりではなかったのか。身構えていると、昭善は意外なことを言った。
「わしにひとつ、提案があるんだが、乗らんか」
「……提案?」
思わず二人同時に問い返した。
悠星の中学校の学校祭二日目、体育祭は滞りなく終わった。今回の作戦を学校祭の一日目に合わせて実行したのは、晃に協力してもらうためというのももちろんだが、イベントの最中で皆がそちらに気をとられていることで大きな問題にならないことを狙ったというのもある。実際、悠星も晃も担任に呼び出された以外で叱責は受けていない。読みが当たったのか、それとも別の要因かはわからない。担任の口ぶりでは、心の内では再開発に反対している教師も少なからずいるようだった。悠星たちの隠れた援軍がいたのかもしれない。
そして、翌日の月曜日。学校祭の振り替えで悠星の中学は休みだ。普段の悠星なら早起きなどせず、だらだらと過ごしているところだが。
「なんか思ってたのと違う」
午前九時。悠星は俊也の運転するバイクの後ろに乗っている。前からバイクに乗せて欲しいと言っていた悠星にとっては心が浮き立ってもいいようなものだが、今はそんな気分には到底なれそうにない。
その原因は、バイクの前を走っている黒い軽自動車にある。それを運転しているのは、なんと祖父の昭善である。
悠星は昭善が免許を持っていることすら知らなかった。それどころかうちにあんな軽自動車があったことも驚きだ。暢子がパートに行くときは自転車だし、克善の車は単身赴任先にある。軽自動車は本堂の隣に建てられた納屋の中に停められていた。そんな奥から軽自動車を引っぱり出し、俊也と悠星を引き連れて向かっているのは、再開発計画を進める会社の事業所だ。昭善が二人に提案したことというのは、こちらから敵陣に直接乗り込むというものだったのだ。
「ったく、あんな説教垂れておいて、じぃさんのほうがよほど破天荒じゃねぇか」
「仕方ないよ。おじいちゃんだし」
バイクのエンジン音が大きいのと、ヘルメットが耳を覆っているのとで聞き取りにくいため、お互い怒鳴るように声を張り上げて会話をする。
「こっちは直接対決を避けるよう動いてたってのにな。雑草戦隊の最強メンバーはじぃさんだったってか」
「あぁ、たまに出てくる反則的な新メンバーね。シルバー的な」
「あいつぁススキだな。ススキシルバー」
「ありそう。ってかおじさんそこにこだわりすぎだよ」
こうして昭善になかば強制連行された二人は、ちょっとやけくそな気分で軽自動車に続いた。




