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43 最後の準備

「桂木君ってこんなことやっちゃう人だったんだね……そして意外と頑固」

 学校祭一日目を明日に控えた金曜日の放課後。他の生徒がクラスの出し物などの最後の準備を進める中、悠星は同じ学年のもう一人の実行委員である吉田 美紗とともに生徒会室に忍び込んでいた。先の言は不本意ながらもついてきた美紗が半ば呆れたように言ったものだ。

「頑固ってのはあまり言われたことないな。どっちかって言うと優柔不断にとられることが多いよ」

「ふぅん。まぁいいわ。とにかく早くやっちゃいましょ」

「そうだね。誰もいないうちに」

 生徒会室には今、忍び込んだ悠星と美紗以外には誰もいなかった。貴重品などが置かれているわけではないので鍵はかかっていない。生徒会室とはいっても普通の教室を真ん中にパーテーションを置いて区切って使っているだけなので、狭いが造りは他の教室と変らない。ちなみにもう半分は部室を持たない文化部が物置として使っている。

 生徒会の面々も今はほとんどが自分のクラスの準備を手伝っている。会長と副会長は手分けして各クラスを回り、トラブルがないか確認している。この生徒会室ががら空きになるタイミングを見計らって、悠星たちはやってきた。その理由は。

「あったよ。当日来場者に配る分のしおり」

 窓際の棚の一番隅に置かれたしおりの束を指して美紗が言う。数日前にここでみんなと綴じたものだ。生徒の分は既に各クラスへ分配されているので、ここにあるのは当日に配る分だ。

「じゃあ半分ずつね。別に挟まってないのがあってもいいから。スピード重視でいこう」

 悠星は美紗に持っていた紙の束を半分渡した。それは悠星、創紀、香織、めぐみ、そして俊也がそれぞれ作ったチラシだった。

 今日ここへ来たのは、このチラシをこっそりとしおりに挟み込んでおくためなのだ。

 チラシは昨日刷り上ったばかりだ。それぞれが作ったものを俊也の知り合いの印刷屋で特別に刷ってもらった。コンビニなどのコピー機で刷ったのでは紙が分厚すぎて落ちてしまう可能性があったので、薄めの紙を見繕ってもらった。カラーにしたので普通に注文したら結構な金額になってしまうところを格安にしてくれた。印刷代は五人で割って払ったが、一人当たりはお小遣いから十分出せる金額だった。

 そうしていろんな人の手によって出来上がったチラシを、しおりに一枚ずつ挟んでいく。途中で落ちてこないように、持参した仮止め用ののりで一ヶ所だけ留めておく。このしおりを作ったときを思い出すような単純作業だ。

「これ、今途中で見つかったらどうなるのかな」

 作業を進めるうちに、ぽつりと美紗が言った。悠星が顔を上げると、そこには不安げな顔をした美紗がいた。

「再開発については、私も中止になったほうがいいとは思うけど。でもこれ、学校を巻き込んでるわけでしょ、ある意味。ちょっとやりすぎな気もする」

「うーん。それはおれも思わなくはないけどね。でも何もしないよりはマシかなって。今のところ他の手も思い浮かばないし。見つかっちゃったら、その人も巻き込んじゃうしかないかなぁ」

「のんきだね。見つけたのが先生とかだったらどうするの」

「それはそうならないように祈るしかないね。吉田さんの言うとおり、さっさとやっちゃうのが得策だよ」

「まぁ、そのために誰もいない時間を狙ってきたんだもんね」

 それからはただ黙々と作業を続けた。美紗はこういう単純作業に慣れているようで、思ったよりも早く終わった。

「失礼しました」

 誰もいない生徒会室に形だけのあいさつをして部屋を出た。まだ残暑が厳しいこの時期、チラシを飛ばすといけないので窓を閉めたままだった生徒会室の中は蒸し暑かった。廊下に出ると風が通っていて、ふぅと一息つけた。

「桂木君」

 さて自分のクラスに戻ろう、と足を踏み出したとき、美紗が呼びかけた。振り返ると、複雑な表情をした美紗がいた。

「あー、巻き込んじゃってごめんね。嫌だった?」

「ううん。そうじゃないの。えっと、ありがとう」

「え?」

 悠星はてっきり一方的に巻き込んだことを怒っているのかと思ったのだが、そうではなかったようだ。美紗は少し頬を染めて小声で言う。

「桂木君がいなかったら、私はきっと何もしなかったと思う。友達が転校しちゃうかもってわかってても。そしてそうなったときに、きっと後悔したと思う。だから……ちょっと嬉しかった」

 はにかんだように美紗が笑う。悠星は心の奥が温かくなった気がした。

「まぁ、でもまだ何も成功してないからね。お礼の気持ちは全部うまく行ったときに受け取るよ」

「あはは。桂木君って頑固な上に真面目だね」

「そうかなぁ?」

 どちらも言われたことのない悠星はその印象が真実かどうか判断できなかった。

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