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42 行動開始

――いいか、作戦は時間との勝負だ。一気に畳みかけるぞ。

 それは先日、初めて俊也を他の三人と会わせたときに全員に向けて言われたことだ。

 悠星はその話し合いで一気に作戦の開始まで話を進めるつもりではなかった。作戦の内容は前もって俊也と詰めてはいたものの、それを実際に実行できるかどうかはこの時点では未知数だった。そもそもその作戦の内容も半分は悠星の思いつきであり、そこに俊也が乗っかって早々に話をまとめてしまったというのが実情だ。

「大丈夫かなぁ」

 ひとりごちてみても何も始まらない。まずはやるべきことをやらなければ。

 その日の放課後、実行委員の仕事を終えた悠星は今回の作戦で最も重要な人物へ歩み寄った。

「晃」

「ぅわ、はいっ。あ、悠星君」

 それはこのクラスの学級委員である友野 晃だ。

 晃とは始業式の日に職員室までの道すがら話して以来、たまに話すようになった。それはもちろん、晃が再開発の区域に住んでいることと、晃自身は再開発には反対の立場であるらしいことが大きい。悠星としてはもっと本格的に仲間に引き入れたいと思っていたのだが、晃は再開発についてあまり話したがらないのでどうにもうまくいかない。しかし今日はそんな晃にあるお願いをしなければならない。それはこの作戦の要ともいえることだ。晃は学級委員の仕事で教室に最後まで残っていることが多いので、学校祭の実行委員で今が一番忙しい悠星とも下校時間が重なるので好都合だった。

「悠星君は学校祭の準備大変そうだね」

「いやぁ、おれはにわか実行委員だからそんなに働いてないよ。むしろそっちのほうが大変そうじゃん」

「あはは。これはもう学級委員のさだめだね」

 そう、今晃が遅くまで学校に残っているのは、他ならぬ学校祭のクラスの出し物について最終調整に当たっているからなのだ。もちろん出し物の準備はクラス全員でおこなうものの、進捗情況をチェックしたり先生や生徒会に報告するのは学級委員の仕事だった。

「そういえば、晃って作文の発表やるんでしょ?一日目の文化祭の日」

 さて。ここからが本題である。悠星の今日の目的は学校祭の準備が大変だとねぎらい合うことではない。それを聞くと晃は照れたようにうつむく。

「スピーチコンテストに出ることになっちゃったから、予行練習としてね。原稿は先生に添削してもらったし、事前にできる練習も限られてるから、そっちはあまり考えないようにしてるよ」

「それって全校生徒の代表なんだろ?やっぱ晃ってすげーな」

「いやっ、僕は学年の代表ってだけで」

「それだって十分すげーって」

 悠星が褒めそやすので晃はすっかり参ったというように顔を赤らめている。その横顔を、悪い顔をした悠星が眺める。

「そんな優秀な晃君に折り入ってお願いがあるんだけどさぁ」

「な、何?」

 さすがに晃も何か雲行きが怪しいということに気付いた。悠星が晃のことを君付けで呼ぶことなどまずない。一体何を言われるのかと恐る恐る悠星のほうを向く。そんな晃に悠星は心の中で軽く詫びた。しかしこれは悠星にはできないことなので、晃に頼むしかないのだ。

「その作文の発表のときに――」

 そこからは万が一にも他の者に聞きとがめられないよう、声を潜める。耳を近づける晃に囁くように告げる。すると。

「え、えぇーーっ!?む、無理だよ、そんなこと」

「頼むよ、こればかりは晃にしか頼めないからさ」

「そ、そんなこと言ったって。だって文化祭当日に……えぇーー」

 晃は頭を抱えてしまった。その前で悠星は「頼む!」と手を合わせて拝むように頭を下げた。それを目の端で捉えたらしい晃は、さらに渋い顔をして顔を上げる。

「悠星君、顔上げて。クラスメイトにそんな事されたらいたたまれないよ」

「じゃあ、やってくれんだな」

 なおも拝んでいる悠星に晃は根負けした。

「うまくいく保証はできないよ?先生たちだって見てるんだから。きっと怒られるだろうなぁ」

「悪い。そん時は一緒に謝るからさ」

 ようやく顔を上げた悠星は、泣き笑いのような複雑な表情を浮かべた晃を見た。

「悠星君って、実は裏で人を動かすタイプだったんだね」

「え?いや、普段は動かされるほうが多い気がするけど」

 うーんと考え込んでいると、晃がぽつりと言った。

「悠星くんは本気で、再開発を止める気なんだね」

 それに関しては、譲るつもりは毛頭ない。悠星は俊也を真似て歪んだ笑みを浮かべた。

「おう。皆で一緒にここを卒業しような。晃も、おれも」

 晃はただ笑って応じた。

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