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41 女子たちの対談

「結局、香織ちゃんの家には営業の人、来てないんだね」

「うん。私がその男を見たのは大希のときだけ。まぁ、あんな奴と顔を合わせるのは気が滅入るだけだから別にいいけどね」

 創紀の家からの帰り道、香織とめぐみは歩きながら話す。あの家の中ではなんとなく二人では話しづらかったので、二人はまだ話し足りないと感じていた。

「っていうか、今日はびっくりしたねー。いきなり強面の男の人が入ってきたし」

 めぐみの言う強面の男とはもちろん俊也のことだ。作業着である黒いつなぎがその印象を増長したことは間違いない。本人にその自覚はないし、なついている悠星からすれば見慣れた顔なので、めぐみたちにそんな印象を抱かせるとは露ほども思っていなかった。あっけらかんとしためぐみとは対照的に、香織は顔をしかめる。

「あの格好は人に会うには配慮が足りないと思う。いい大人なんだから、TPOくらいちゃんとすればいいのに」

「本当にねー」

 めぐみはこれまでの香織との付き合いでその性格もなんとなくわかってきた。俊也のようなタイプはいかにも香織とは相性が悪そうだ。だからその評価も当然と思ったのだが、次の香織の言葉は意外なものだった。

「でも、正直ちょっと安心したってのもある。私たちだけじゃできないことがあるのも事実だし」

「香織ちゃん」

 香織も少しずつ変わってきているのだった。相手を一方的にはね除けるのではなく、認めるべきところは認めていくように。一言で言えば、香織は丸くなった。それを良いことだとめぐみが微笑ましく見つめると、その横顔には照れたように色がさした。

「私は香織ちゃんがそんな風に、ちょっとずつ輪に入ってきてくれて嬉しいよ。せっかくこの町に来てくれたんだから、香織ちゃんにも家族の人にもここを好きになって欲しいし。だから、やっぱりなくしたくない」

 再開発計画を進めている者たちの言い分は、なくすのではなく新しく作り直すというもの。だがそのために一旦外へ出なければいけないのは事実だ。そうなったら、戻れるのは四年後か五年後か、はたまたもっと後か。高校生であるめぐみたちにとって一番大事なのは、今だ。そんな不確かな未来を待つことなどできない。子供じみた考えかもしれない、となかなか口にすることができなくなっていた思い。その逡巡を取り払ってくれたのが俊也の存在だった。この計画が大人から見てもおかしなものであるという新たな視点が加わったことは、計画を阻止しようとしている自分たちを大きく後押しするものだった。

「でもあの作戦、うまくいくのかな。かなり雑な気がするんだけど」

 首をかしげながら香織が口にした作戦というのは、先程まで創紀の家で話し合われていたものだ。俊也いわく、そろそろ具体的な行動に移るときだろうと。ある程度情報も揃ってきたし、計画自体が進み始めているのだから、本当に阻止しようというなら時間があるとは言えない状況だ。それでこちらも行動を開始しようということになった。今回の作戦の主軸となるのは、チラシを作って撒くというものだ。めぐみも苦笑しながら返す。

「ものすごい原始的な方法だよねぇ。でも区域外の人たちはこの計画ほとんど知らないってことは、少しは効果があるんじゃないかな。アピールになるというか」

「まぁ、それで事態が動くかどうかはやってみなきゃわからないってところか。めぐみはどんなチラシ作るの?」

 話し合いで、それぞれがチラシの草案を考えることになった。その作戦の決行日まであまり時間がないので、早急に作らなければならない。

「私はあえての手書きにしようかな。書道部の経験を活かせるし。チラシは何種類か作るって話だよね。中にはそんなのがあってもいいかなって」

「私はパソコンだな。デザインとか使えるものあるかな。ママに相談してみないと」

 話し合いで示された作戦の決行日は、来週末。悠星の中学校の学校祭当日だった。

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