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39 二人の考察

 町での現地調査を終え、今は俊也の部屋で住宅地図を広げている。今回の再開発計画の区域が赤色の枠で囲まれたそこに、調査で確認した既に引っ越してしまったと思われる家をマーキングしていく。それは区域の一つの角に集中していた。悠星の住む寺や大場モータースから見ると一番奥の区域といえる。確認できただけで既に五軒が空き家だった。明らかに立ち退きが始まっている。

「おじさん、さっき通りかかったトラック睨んでたよね」

「あぁ、あのでたらめ引越社のやつな」

「でたらめ?」

 トラックの横腹に書かれた名前は初めて見るものだった。変わった名前だとは思ったが、ついさっきのことなのにどんな名前だったのかは忘れてしまった。

 あのトラックを見かけてから、俊也はずっと難しい顔をしていた。今のでたらめという発言とも関係あるのだろうか。

「あれは引越業者のトラックなんかじゃねぇ。再開発を進めてる連中の会社のもんだ」

「えぇ?」

 悠星はなんだかわけがわからなくなってきた。再開発計画を進めている斑野の会社は不動産や土地売買を仲介する会社だと聞いていた。規模もそんなに大きくない、地域密着型の。グループ会社ではないはずだ。

「なんでそんな会社が引っ越しのトラックなんて持ってんの。あんな大きなトラック、普通の会社にはないでしょ」

「もちろん立ち退きをスムーズに進めるためだろうよ。引越業者に委託してたら見積もりやらトラックの都合やらでスケジュールを調整しなきゃならんが、それを自前で出せば日程を自由にできる。そうやってこちらが断れない状況を作るのが目的だろう。普通はあり得ないが、強引な手段を使う奴らだからな」

 なんだかこの数日で、俊也のその会社への評価が著しく落ちた気がする。最初は悠星が言い出した「再開発阻止」に仕方なくというか、面白半分で付き合ってくれている感じだったのに、今となっては悠星以上に肩入れしている風に見える。やはり自分の店がなくなるのが惜しくなったのか。それとも俊也が本気になるくらい状況が変わったのだろうか。

「でも、あれがあいつの会社のトラックだってよくわかったね。それも独自の情報ルート?」

「俺の情報の出所に興味があんのか?」

「そりゃ、まぁ。おじさんっていまいち顔が広いのか孤立してんのかわかんないところあるしね」

「なめられたもんだな。ま、お前が失礼なのは今に始まったことじゃねぇけどな」

 俊也はひとつ大きなため息をつくと、重そうに口を開いた。

「実家から連絡があったんだ。ここが再開発区域に入ってることをどこかから聞きつけたらしい。そっちでもいろいろ噂になってるみたいでな」

 俊也の実家は峠を越えた市街地にある。さすがにそこまでは今回の再開発の区域には入っていない。ところが。

「以前、親戚の家がなかば強制的に立ち退きさせられたことがあったらしい。その時も主導していたのは今回の会社だったって話だ」

「それ、いつの話?」

「今から大体五年前だそうだ」

 その親戚は今では新しい住居で生活している。町の人たちはてんでばらばらに引っ越していったため、新しい環境に慣れるには苦労したという。今の再開発計画を進めているのがその時の会社と同じ名前だと知って、俊也の実家でもいろいろ調べてくれていたそうだ。何だかんだ、家族は実家を出た俊也のことを心配しているのだ。

 その話を聞いて、しかし悠星は引っかかりを覚えた。

「ちょっと待って。その立ち退きってやっぱり再開発のためだったの?」

「そのようだ」

「じゃあ、五年も経ってたらもう元の町に帰ってるんじゃないの?」

 そう。立ち退きが思ったより早く進んでいるのも、再開発さえ完了してしまえば町に戻れるからと考えられる。しかし俊也は首を横に振る。

「実は、その町の再開発は途中で頓挫しているって話だ。いつになれば町として機能するか、まだよくわからないらしい」

「えぇ?」

 それなのに、会社は新たな再開発に手を出したというのだろうか。さっき町中で聞いた話といい、今の話といい、やはりまともな会社のやり口とは思えない。

 悠星は広げられた地図に目を落とす。枠で囲まれた自分の町。再開発を許してしまったら、完全に失われてしまうかもしれない。そんなことはさせない。させるわけにはいかない……。

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