36 ご意見番
「不気味なもんだな」
大場モータースに瘤のようにくっついた、俊也の居住スペース。作戦会議が散会した後、その足で悠星はここへやって来た。今日の会議の情報を俊也と共有するためだ。これは悠星が「再開発計画を止める」と言い出したときの俊也との約束だ。何か具体的な行動に出る前に、必ず俊也とも情報を共有すること。その約束を守る限り、悠星が力を必要とするときはいつでも協力するという。
俊也が不気味と口にしたのは、既に計画が動き出しているらしいということについてだ。俊也は腕を組んで言う。
「こっちじゃまだほとんど何も掴めてねぇってのに。だいたい近くで引っ越す奴がいたらもっと知ってる奴がいるもんじゃねぇのか」
「まぁその辺はソウ兄も噂の段階って言ってたから、確証はないけど」
悠星は頭をぐしゃぐしゃと掻く。今日は新たな情報が多すぎて若干頭の中がこんがらがっている。本当は俊也もあの場に呼んで直接話を聞いてもらったほうが早いのだが、悠星以外のメンバーと接点のない俊也を呼ぶのはさすがに憚られた。いつかは他の四人にも紹介しようとは思っているが、現状はこんなまどろっこしいことになっている。
「つまりお前らとしては、まだしばらく情報収集にかかってるってことだな」
「うん……。あんまりのんびりもしてられないんだけどさ」
悠星としては早く具体的な行動に出たいと思っているので、今の時間はもどかしく感じる。もっと直接的な行動には出られないのか。そもそも頭を使う作業が得意ではない。そんな悠星の心を見透かしたように俊也は言う。
「いや、情報ってのは武器だ。集められる内になるだけ集めといた方がいい。特に俺らが相手にしてんのはこの得体の知れない会社だ。創紀っていったか。お前の友達の意見に賛成だな」
俊也は夏のはじめに大場モータースを訪ねてきた斑野が置いていった資料をトントンと指し示す。
「あれ以来、斑野はここへは来てない。どうも最初の訪問でこちらの出方を伺ってたきらいがあるな。会社自体の情報はこっちでもあたってみる」
創紀は斑野の会社について「客観的な情報が欲しい」と言っていた。その辺を俊也も独自の経路で探ってみるという。
脳内の情報処理と説明でほとほと疲れはてた悠星は頼りない壁に背中を預け、ひとつ息をついた。天井を見上げて何か言い忘れていることはないかと思考を巡らす。そんな悠星を俊也はニヤけた顔で見ている。
「何?」
「いや、別に。お前やっぱ面白れぇなって思っただけだ」
「何それ。勝手に面白がらないでよ」
おれは真剣に再開発止めるために頑張ってるのに、とぶつぶつ言っている悠星を俊也は笑い飛ばす。
「ははっ。そういう頑ななところは誰に似たんだかな。どうせ今日いまどうこうできることなんざ知れてるんだ。気負わずやろうぜ」
「……それもそうか」
俊也の言葉になんだか気が抜けた。というより、脳をフル回転させ過ぎて頭が働かなくなったというほうが正しい。確かに今すぐに何かができるわけではないのだから俊也の言う通りなのだった。窓の外には夕暮れの空が広がっている。それを見ると急に空腹を自覚した。
「さ、お子ちゃまはカラスと一緒に家に帰りな」
暗くなってきた部屋に俊也がカチカチと明かりを点す。悠星ははいはいと応えて部屋を出た。
「まぁ、おじさんの子供扱いは今に始まったことじゃないしなぁ」
閉まったドアを確かめて、悠星は日暮れの峠に向かってひとりごちた。




