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35 作戦会議 後半戦

 めぐみがひとしきり背中をさすり、香織が落ち着きを取り戻した頃。おずおずという感じで創紀が話を進める。

「うーん、まさかそんな形で実害が出てるとはな。これは本格的に急いだほうがいいかもな」

「ソウ兄は何の情報を掴んでるの?」

 夏休みが終わり、学校が始まってからは悠星も創紀と会うことがなかった。学校祭の実行委員に入ってしまって放課後が自由にならないというのも大きい。だから創紀の近況もわからなかった。訊かれた創紀は難しい顔のままの話す。

「クラスメイトからちょっとずつあたってるけど、うちのクラスではまだ藍川さんと十萌さん以外に区域内に住んでる生徒にはあたってない。さっきの十萌さんの話も統合して考えると、クラス内にはもういないかもしれない。でも俺みたいに区域内じゃないけど話は知ってるって奴もいたから、そいつらにも頼んで他クラスにも探りを入れてもらってる」

「なかなか難しいね」

 肩を落としてめぐみが言う。しかし続けて創紀が言う。

「俺もそちらからのアプローチは限界がある気がした。それでそっちとは別に今、この計画を進めてる会社について調べてる」

「それは……斑野の会社ってこと?」

 訊いたのは香織だ。さっきと比べれば顔色もずいぶん良くなった。

「そう。あまりにもやり方が強引な感じがするし、そもそもちゃんとした会社なのか、って思ったからさ。ネットで調べてるんだけど、HPは普通だし、今のところ変な情報は出てこないな」

「どんな会社なの?」

「うーん、規模はそんなに大きくないみたいだ。主に不動産取引の仲介とか土地売買の仲立ちをしてる、地域密着型の会社に見える」

 創紀の口ぶりには、実際にはそうではないだろうという含みがあった。特に大希の件を目の当たりにしている香織が同意を示す。

「まずい情報は出ないように操作してるかもね」

「でも、それができるってことはかなり念入りに流された情報をチェックしてるってことだよ。そういう専門家がついているのか、あるいは人海戦術か……。どちらにしても手強いよ」

「会社自体の慎重さを考えると、斑野の行動だけがやけに迂闊な印象ね」

「何か意図があるのか、その辺はまだわからないけど。できればもっと踏み込んだ情報が欲しいよ。自社でつくってるHPだけじゃなくて、客観的な情報が」

 創紀が調べたことでわかったのは、相手はかなり周到に事を運んでいるということだ。これだけ大胆なことをしながら、簡単には隙を見せてくれない。

「あんまり悠長にもしてられないんだけどな。どうやら随分計画は進んでいるみたいだし」

「他にも何かあるんだ?」

 ちょっとひきつった顔で悠星が問う。これまでの話だけでも新たな情報が多くて付いていけないと思っているのに、まだ続きがあるという。

「まぁこれはまだ噂というか、又聞きの又聞きみたいな話で、裏が取れてるわけではないんだけど」

 ちょっと自信がなさそうに首をかしげながら続ける。

「一部のエリアで、既に立ち退きが始まってるんじゃないかって話があるんだ。実際に引っ越しの現場を見たとかいうことじゃないみたいだけど、うちの学校から転校した奴がいたらしくて、そいつの家が区域内だったんじゃないかって」

「転校……?」

 悠星にはその言葉が引っ掛かった。つい最近、同じようなことを聞いた気がする。

ーー私たちも詳しいことは知らないんだけど、家庭の事情?らしいよ。転校しちゃったんだって。

「……あ」

 そうだ。悠星が学校祭の実行委員を任される原因となった、実行委員の欠員。その生徒も転校したということだった。

 ならば、その生徒も……?

 あからさまに何かに気づいた、という顔をして止まった悠星は、何事かと注目する三人をよそに、その可能性の思考に深く沈んでいった。

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