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28 雑草戦隊の由来

「雑草がなんだって?」

 大場モータースの奥、納屋の前の広く空いたスペース。俊也にとっての正装であるつなぎを着て、例のごとくバイクのメンテナンスをしている。気温が落ち着いてくるこれからの季節は俊也の数少ない繁忙期だ。ツーリングのために久々にバイクを引っ張り出してくる者や、シーズン前に購入を検討する者が増える。俊也のところにもメンテナンスの依頼が多くなる。バイクを見せてほしいという客も増える。

 そんな俊也の仕事姿を眺めながら、悠星はその隣にしゃがみこんでさっきからぶつぶつと喋っている。

「雑草魂だよ。俺が付けた作戦名」

「作戦名?へぇ」

「そういうのあった方が燃えるじゃん。なんか」

「そういうもんか?」

 作業をしながら悠星に相槌を打っている俊也は、別に話を聞き流しているわけではない。悠星のそのこだわりがいまいち理解できないのだ。

「おれはただ、示しをつけたかったんだよ。これは遊びじゃないんだぜっていう」

 変なところで真面目な悠星だった。

「そりゃあれか?よく警察なんかがなんちゃら捜査本部とか立ち上げるようなノリなのか」

「うーん?そういうことになるのかな」

 俊也の言葉にちょっと考え込む。すると頭上から笑い声が降ってきた。

「まぁお前らじゃ捜査本部っていうより戦隊ものが関の山だろうな。雑草戦隊。良いんじゃね」

「それめっちゃ馬鹿にしてんでしょ。ってかおじさんも入ってんだからね、メンバーに」

 こちらを見ていない俊也をジトッと睨む。俊也はまだ笑っている。

 夏休みももう終わりに差し掛かっているこの日、悠星が創紀たちと結託したことを告げると、俊也はなぜか感心したようだった。悠星がリーダーシップをとって何かことにあたるというのは珍しい。俊也はそこに悠星の成長を感じたのだという。現実にはその役目を果たしているのは創紀の方だが、その創紀も悠星の顔をたててくれているところがある。

「だったら俺はブラックな。雑草で黒っつったらドクダミ辺りか。戦隊ものとか超懐かしいな」

 なんだか俊也の中では戦隊ものが定着しつつあるようだ。ちょっと諦めの境地だ。

「なんかより遊び感が出ちゃってる気がするけど。ってかおじさんの子供の頃も戦隊ものってあったんだ」

「特撮って意味じゃむしろ全盛だっただろうな。俺は根っからライダー派だったが」

「あぁ、なるほど」

 だからバイク屋なのか。つまりこの仕事は俊也の子供の頃からの夢だったということだ。ならばこの大場モータースは俊也にとって夢の城といったところか。それならば、なおさら手放すのは惜しいはずだ。なんとしても計画を阻止しなければ。

「最近の戦隊ものってなんかチャラチャラしてるらしいな。そんなんじゃカッコイイとか思えねぇんじゃねぇの?」

「さぁ。おれだって最近のはよくわかんないし。見てたのなんて小学生のときだし」

「ついこの間じゃねぇか。十分最近だろう」

 小学生の、それも低学年のときには確かに悠星もそういうものを見ていたし、関連するおもちゃを買ってもらったりした。それはちょうど帰ってきた時間にテレビでやっていたというのが大きい。高学年になってからは悠斗や創紀と混じって遊ぶようになり、帰宅時間が合わなくなったので見ていない。

「てかいつの間にか戦隊ものの話になっちゃってるし。そもそも雑草戦隊ってなに?全部緑じゃん」

 ガックリと肩を落とすと、また俊也はカラカラと笑う。

「んなことねぇよ。季節によっちゃいろんな色を見られるぜ?お前はリーダーだから赤だな」

「赤の雑草って……?」

「ヒガンバナ」

 それは秋の彼岸の頃に湧いて出るように咲き乱れる赤。悠星の家のまわり、というか寺周辺に嫌というほど群生している。

「えぇーー。やだぁ」

 毎年見るその光景がよぎって、悠星は気が抜けたような声で拒否した。さっきからずっと楽しそうにニヤニヤしている俊也が恨めしい。今度から本当にドクダミと呼んでやろうかと秘かに思う悠星だった。

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