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25 犬猿の仲

 この日、場の空気は完全に冷えきっていた。

 創紀はあの後、本当に香織たちに声をかけていた。彼らの高校には夏休み中にも登校日があり、インター杯を勝ち上がっている部活の部員以外はほとんど登校する。創紀と香織はそもそも部活に入っていないし、香織の友人であるめぐみは文化部なので関係ない。クラスでは隣の席なので、創紀は香織にその話をした。案の定、香織も今回の再開発計画に戸惑っていたようだ。阻止計画の話になると、そもそも自分もその方向で動くつもりだったと打ち明ける。香織とクラスで一番仲のいいめぐみも後から加わった。

 そして今、その三人に悠星を加えたメンバーが小さなカフェで顔を付き合わせているのだ。

「私はてっきり創紀が発起人だと思ったから賛同したのに」

 言いながら香織はぎろりと悠星を睨む。まだ先日の覗き見の件を根に持っているのだ。悠星も負けじと睨み返す。ここで主導権を譲るわけにはいかない。

 そんな二人の様子にこっそりため息をつく創紀だった。悠星には以前に和解を諭したはずだが、本人にその気はないようだ。そんな中、外の暑さと反比例するように凍えそうな空気を果敢に振り払おうとする者が一人。

「まぁまぁいいじゃん。誰が発起人だって。私は賛成!引っ越しも嫌だし、町が変わっちゃうのも香織ちゃんと別れるのも嫌だもん」

 ハイハーイ、と指してもらうのを待つ小学生よろしく勢いよく手をあげながらめぐみが発言する。空気を読まないのがめぐみのいいところだ。

 香織はそんなめぐみを見て、諦めたようにひとつ息をついた。

「仕方ないか。話に乗っちゃったのは事実だし。私もめぐみと離れるのは嫌だし」

「そうこなくっちゃ」

 カフェという空間に馴染まないアニメ声でめぐみははしゃぐ。香織の態度が軟化したことにほっとした創紀は悠星に促す。

「さあ、計画の前段階、仲間が増えたよ。これで悠星が望んだ再開発阻止も見えてきた。受け入れるね?」

「よろしくお願いします」

 ペコリと一応頭を下げる。しかしその台詞は棒読みで心などこもっていない。香織は眉をピクピクさせて、こいつどうしたものかと憤るが、創紀とめぐみになだめられる。

「まぁ、せっかく目的が同じなんだから、仲良くしよう?」

「そうそう、こういうことは楽しんだ者勝ちだよ」

 めぐみの方向性は若干ずれているような気もするが、概ね皆持っている思いは同じようなものだ。こうして四人は結託し、再開発阻止計画が始動した。

 カフェということで、一人ひとり飲み物を注文した。悠星はメニューのなかで飲めそうなものがメロンソーダとアイスティーぐらいしかなかったので、アイスティーを頼んだ。創紀はアイスコーヒー、香織はレモネード、めぐみは何やらひどく甘そうなラテを頼んだ。

「で、具体的にどう動くの?そんな簡単に阻止なんてできないでしょ」

 香織はほぼ創紀に向けて話しかけている。面白くない悠星はあえてズズッ、と音をたててアイスティーを啜る。

「まずは情報収集だな。藍川さんや十萌さんみたいに、本当はこの計画に賛同してない人ってもっといると思うんだ。そうした証言を積み上げれば、戦う材料にはなるよね」

「決めた」

 黙ってそれを聞いていた悠星が唐突に言い放った。残りの三人は怪訝そうに悠星に注目する。

「決めたって、何を」

「作戦名」

 代表でその意を質した創紀に、悠星はストローを弄びながら応える。そしてアイスティーの最後の一口を飲み終えると、高らかに宣言した。

「名付けて『雑草魂大作戦』」

 どや顔で宣言した悠星に対し、三人はぽかんとする。その内香織が小声でめぐみに問う。

「ザッソウって何?」

「えっと、道端に生えてる草」

「おわ、weed?」

 二人でのひそひそ話を終えた香織は、悠星を苦い顔で見た。

「ダサい」

「おい、雑草魂馬鹿にすんなよ」

「ダサいものダサいって言って何が悪いのよ」

 あっという間に言い争いになる悠星と香織に、創紀とめぐみは口を揃えた。

「二人とも、落ち着いて!」

 こんな調子で実のある話し合いなどできるのだろうかと、創紀は頭を抱えた。

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