20 帰り道
創紀の家からの帰り道、悠星はうんうん唸りながらうつむきがちに歩いた。普段使っていない脳をフル回転させているせいか、いつもおちゃらけている悠星が珍しくも悩んでいるようにみえる。
先程創紀から聞いた話を頭の中で整理してみる。意外なことに、この計画が以前からあったというのは事実だった。ただし営業マンが言っていた二年前などではなく、新興住宅地ができた頃、つまり今から二十年近く前ということだが。それが今再び浮上してきて、悠星の周りに拡がっている。創紀の家はその計画予定地に入っていなかったが、この計画には不審を感じている。確かに悠星にも引っかかることがある。
まず、こんな大規模な計画だというのに、大場モータースの一件があるまで耳にしたことがなかったこと。いくら悠星がまだ中学生の子供だといってもそんなことがあるだろうか。そして、もうひとつは創紀とも話したこと。
「一度は反対した計画なのに、みんな本当に賛成してるのかな」
俊也と暢子が話していた感じからもそんな風には思えなかった。それもそうだろう。もし仮にこの計画が何も問題のないものだったとしたら、いつものほほんとしてる母が様子がおかしくなるほど動揺するはずがないのだ。思えばそれ以前に俊也もまた厳しい顔をしていた。
ではなぜ今また計画は進み始めたのか。
「うーん……イテッ!?」
下を向いて歩いていたら、思いっきり頭を何かにぶつけた。思わず鞄を取り落とし、両手で頭を押さえた。
「うぅ、痛ぁっ……なんだよもぅ」
前を見て歩かなかった自分の失態は棚にあげて、ぶつかった物に怒る。そこで「あれ?」と思う。目の前のものを見てポカンとしてしまう。
「何だこれ」
てっきり電信柱にでもぶつかったのだと思っていた。しかし目の前にあったのは、一見何なのか、というより何のために立っているのかわからないものだった。
それは金属でできた柱状のものだった。見た目だけでいえば、ちょうど学校で使うストーブの煙突をちょっと細くしたような。電柱なら当然そこから電線が出ているはずだが、そのようなものは出ていない。そもそもそこまでの高さはなく、天辺には球体のようなものがくっついている。周りの何かを支えているというわけでもなく、単独で自立している。一体何に使うものなのか。何のためにこんなところに立っているのか。一応歩道の端に立っているが、はっきり言って邪魔である。
「んん??」
辺りを見渡してみると、同じような柱が他にもぽつぽつと立っている。一定間隔で立っているそれはまるで地面にまち針が突き刺さっているようだ。そのようなものに見覚えがあることに気づく。ただしそれはこんな町の中ではなく、地図の上で。
「これって、目印?何の?」
以前、興味本意で「大場モータース」をネットで検索したことがあった。俊也自身はネットでの販促などはしないので、もちろん公式のホームページなどはないが、俊也の客の中に酔狂な人がいて、詳しい情報を挙げているのだ。その地図上に店の位置を示す印。それと目の前の柱が似ていると思ったのだ。
ではこれは目印なのだろうか。もしそうだとして、何の目印だというのか。
そのときだった。道の向こうの方からこちらへ向けて、一人の男が歩いてきた。スーツをビシッと着た、恰幅のいい男。
「あ……」
それは以前、大場モータースへやって来た営業マン、斑野だった。あの日と同じように作った笑顔を張りつけている。
「やぁ。君は、あのときの」
「ど、どうも」
なぜか話しかけてきた斑野に、悠星は自分でも引きつっているとわかる笑顔で応えた。




