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14 芯に触れる

「さいかいはつけいかく?」

 斑野が帰った後、悠星に真相を確かめようと問いただしてみれば、返ってきたのは俊也が呟いたのと全く変わらない台詞だった。しかもその言葉の意味を取りかねるような不自然な発音で。

「なんだよ。お前も知らなかったのか」

 俊也は当てが外れたという思いと共に、疑問を深めることになった。

 悠星と二人で一度店の外へ出したバイクを元に戻す。「少しでもぶつけたり擦ったりしたら弁償」という脅しも効いているのか、悠星はかなり丁寧に扱っている。別に本気で弁償させるつもりはないが、この狭い店内にきっちりバイクを並べるのはなかなか高度な技術を要するのだ。慎重に作業をしてくれるに越したことはない。

 バイクを運びこんでしまえば、店内は元通りの手狭さで、とても二人で話し込むような気にはならない。店の体裁としてはいかがなものかと思わなくもないが、だからといって店舗を建て替えるような余裕は今のところない。常連相手の気ままな稼業なのでさほど気にしてもいない。

 そんなわけで、悠星と一息ついているのはいつもの作業小屋前のスペースだ。俊也は煙草をふかしながら悠星に斑野が持ってきた書類を見せる。

「この話が本当なら、お前んちにも話がいってるはずなんだがな。ほれ、この地図じゃがっつりその範囲に寺も入ってる」

 変な顔をしたまま、悠星はその地図をまじまじと見る。「はぁ」とか「へぇ」とか言いながら顔を近づけたり、遠ざけたり。地図を回してみたり、自分が回ってみたり。忙しない様子で子供なりに真剣に見ていたようだが、しばらくして「あ」と、何かに気づいたような声を出した。

「どうした」

「そういえば、うちでもおんなじような書類を見たような……?」

「それいつの話だよ」

「え、最近だよ。確か、終業式の日」

「……へぇ」

 意外にも、それは斑野が言っていた二年前のことではなく本当にここ最近のことだった。どうやら悠星は本当にこのことを知らなかったらしい。それに今の言いようでは、あの斑野と同一人物かはわからないが、少なくとも同じような書類を携えて悠星の家の方も訪ねた人物がいるということだ。

 これらのことは、一体何を示しているのだろうか。いきなり現れた斑野という男。営業スマイルを決して崩さず、たくさんの書類を拡げて一方的に再開発計画について語り、帰っていった男。自分だけならともかく悠星も知らない、その計画。

 なんだか非常に違和感がある。

「カツは今もいねぇんだよな?」

「お父さん?うん。今年はお盆も帰れないかもって言ってたらしいよ」

 そのことは俊也も知っているので、今の問いは単なる確認だった。思わずはぁーっと重いため息を吐く。

「てことはじぃさんに聞いてみるしかねぇのか……嫌だなぁ」

「じぃさんって、おれのおじいちゃん?なんでそんな話になるの?」

「バーカ。こんな重要なこと放っておけるか」

 事の重大さを理解していないのか、悠星はキョトンとしている。再開発計画という単語自体理解していない様子なので無理もないが。

 だがそうは言ってみたものの、気が重いのは確かだった。悠星の祖父、昭善にはその昔、友人である克喜とともに何度も叱り飛ばされた記憶がある。

 俊也と克喜は、この辺りでは有名な悪ガキ仲間だった。空き地に乗り捨てられていたバイクを改造して乗り回し、町の外でチンピラ同然の輩とケンカをして大人たちを困らせた。今でこそ穏やかな昭善もこの時ばかりは激怒した。二人の首根っこを引っ掴んでは怒鳴り、そのまま本堂へ連行して説教を垂れた。昭善が体を鍛えるようになったのはこの二人を捕まえる体力をつけるためだったのではないかとまことしやかに囁かれているほどだ。その後、克喜は改心したかのように勉学に励み、真っ当な社会人になった。俊也はこれを、優等生という便利なかさを着てうまく昭善の手から逃げた、と思っている。もちろんそれをするだけの頭脳が克喜にあったということだが、実際たまに話せばあの頃となにも変わらない。普段抑えているからか、むしろ余計に遠慮のない口調で言葉を交わす。だから克喜とはいまだに無二の友だ。

 そんなわけで、昭善の元へ顔を出すのはひどく気が引けた。だがおそらく事の真相を知るにはそれが一番の近道なのだ。

「でも、その書類見てたのはお母さんの方だから、まずはお母さんに聞いてみたら?」

「暢子さんねぇ。まぁどっちでも結果は一緒だろうが」

 俊也はひどく重く感じる腰を上げた。

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