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契約の証

 遅くなってしまい申し訳ございません。

 気持ち地の文を増やしてみました。






「お、お嬢様が相手って……、決闘は明日のはずじゃ」



 俺は震える声を必死に抑え、なるべく平然を装ってレイヴァに尋ねる。


 “幼女と闘鬼族(かのじょたち)”と決闘する日は明日のはずだったのに……。

 戦闘実習等というまさかの決闘前倒しの展開に自分の命運はここまでか、と俺が覚悟を決めかけたその時、稲妻ツインテールの幼女が口を開いた。



「貴方の説明はいつも足りませんわ、小僧の顔が青くなっていますわよ」


「ん?そうか、すまない。 組むというのは闘う相手という意味ではないんだ。 むしろその逆で、これから行われる戦闘訓練時に怪我をしないように補助に回ってもらうだけだ」



 補助? なんだ、目の前の鬼を今すぐ相手にするわけではないのか、助かった……。



「小僧が望むなら今すぐ叩き潰してあげてもよろしくてよ?」


「すんません、勘弁してください」



 この世界で理解されるかは分からないが、ジャパニーズ土下座をする俺。

 そんなことをしていると、ガーン、ガーンとまるで銅鑼どらを打ち鳴らすかの様な騒音が響き渡った。



「そうか、今日の戦闘実習の教師はあの人か」


「これは油断したら死にますわね」


「え、死ぬってどういう……」



 不穏なワードを聞き、質問しようとしたが全員の意識はすでにある方向へと集中していた。

 この場には魔宝族の生徒とその隷い手、合わせて五十名程いるが、先程までのざわつきは銅鑼どらの音で嘘のように静まり返っていた。


 皆の視線の先には、以前みたガリガリの教師と同じ出で立ちの男。 白いマントに紋章入りのネクタイを締めた、恐らくは教師であろうでっぷりと太った悪役貴族みたいな中年男性がいる。 

 その脇にはつかい手らしき甲冑姿の騎士が立っていた。 自分で自身の甲冑を殴りあの音を鳴らしてた様子で、まだ騒ぐならもう一度鳴らすぞと腕を振り上げていた。



「ちなみに教師の隣にいる種族は、“種族階位”第五位の“鎧魚族アーマンぞく”だ。 彼らは大海の戦士と言われていてな。 元は海の中で生活していた魚人なんだが、鱗が甲冑の様に進化して陸上でも活動できるんだ」


「へぇ、どっかの騎士様が来てるのかと思った」


「オレ達“闘鬼族とうきぞく”もヤツら“鎧魚族アーマンぞく”のあの鱗には手を焼く、拳で打ち砕ければ一人前の戦士として認められる程にな。 だから村の若い衆は力を示す為、よく鎧魚族アーマンぞくの集落に殴り込みに行く」


「へ、へぇ……」



 レイヴァとソルガが無知な俺にそんなことを教えてくれた。

 それにしても闘鬼族とうきぞくのクソ迷惑な風習の為につけ狙われる鎧魚族アーマンぞくには同情する。



「貴様ら! 我があるじからのお言葉、しかとその胸に刻め!」



 生徒側に向かい、つかい手の鎧魚族アーマンぞくの男は、先程鳴らした銅鑼どらよりも一層大きい声で叫んだ。

 でっぷりとした教師は軽くコホンッ、と咳払いをすると見た目通りのねちっこい話し方で喋り始めた。



「え~、ちみらにとって、今日は魔宝族まほうぞくとしての能力ちからを試す日なわけだが……」


「まずはつかい 「コラァ!!そこぉ!!我があるじが話してるだろ!!静かにしろォ!!」



 その主の台詞せりふを遮って、鎧魚族アーマンぞくの男が大声を張り上げる。

 どうやら小声でお喋りを続けてる生徒を見つけたようで、それに対して非常にご立腹なご様子だ。

 ガン、ガンと自分で自分の鱗の鎧を殴り、音を出して威嚇している。


 シーンとした静寂を取り戻すと、鎧魚族アーマンぞくの男は「よしよし」 と満足そうな様子で一歩下がり主を前に出す。



「さ、どうぞ。 我があるじ


「う……、うむ」



 出鼻をくじかれたみたいで、教師の男はあからさまにテンションが落ちていた。 何となくそのやり取りで普段の二人の関係性が見えてきた気がする。

 魔宝族まほうぞくつかい手にもいろんな関係があるんだな~と考えていると教師は気を取り直して話を戻した。



「まずはつかい手諸君、ちみらには主人との“契約の証”を確認してもらいたい」



 “契約の証”?


 そんなものを俺は知らなかった。

 不安になってレイヴァに目を向けると右手で左手を指し示し、左手を見ろとこちらにジェスチャーを送ってきた。

 彼女が喋らないのは、またあの鎧魚族アーマンぞくが騒ぎ出して、教師の話が中断されては面倒だと思ったからだろう。


 左手を見ると、どうして今まで気づかなかったのか、薬指に赤い宝石が埋め込まれた“指輪”がはまっていた。


 それはまるで、最初から体の一部であったかのように体によく馴染み、こうしてあらためて確認しないと、自分の手に指輪がはまっているなんて気づきもしなかった。

 というか、いつから付いていたんだ? こんな高そうなもの。



魔宝族まほうぞくはその身に指輪やイヤリング等の宝飾品を身に着けて産まれてくる。 そしてある程度肉体が成熟してくると、その宝飾品を媒介にして他種族を召喚、隷属させることができる。 これが“召喚の儀”であり、その際、依り代としてつかい手の体に残った宝飾品が“契約の証”である」



 魔宝族まほうぞくの教師は、“契約の証”の説明を続けている。


 そのねちっこい話声を聞き流しながら自分の左手をみる。

 この“指輪”が俺とレイヴァの“契約の証”……俺がレイヴァのつかい手である証。



ちみつかい手は、この“契約の証”を通じて武器化した魔宝族まほうぞくを扱う知恵を得ている。 まあ、物は試しだ。 やれ」



 教師が命令すると、鎧魚族アーマンぞくは両手を広げ、すぅーっと息を吸いそして……、



 バンッ!!!



 と、胸部を思い切り叩き、今までとは比較にならない轟音を鳴らす。

 生徒たちは耳を抑え、急になんだよ、うるせーなどと不満の声を漏らしていた。



「ヒジリツルギ、闘う準備を整えろ。 “戦闘実習・・・・”が始まった」



 レイヴァが出す只ならぬ気配に、思わず緊張がはしる。

 しかし、イマイチどうすればいいのかわからない。



「戦闘って、相手はどこに? あの教師と闘えってのか?」



 状況が飲み込めずそんなことを言っているとすぐに“ソレ”は来た。





 ドォーン!




 と、急に地面が隆起し爆ぜたのだ。




 俺は衝撃に天高く吹き飛ばされながらそのおぞましいものの正体を見た。



 全長数百メートルはあろうかという巨躯、ミミズの様なシルエットをしている。 頭部にはゾウも丸飲みしそうな大きな口が有り、無数の牙がびっしりと生えている。 胴体は岩盤並に分厚い鱗が幾重いくえにも折り重なっていて、テラテラと光る粘液てきなものが、こちらに生理的嫌悪感を抱かせる。



 他のところも同様に、地面からミミズの化け物が飛び出てきて生徒を襲っていた。 まさに地獄絵図。


 地面に急速に落下しながら俺は、およそ教師のものとはおもえない邪悪な笑みを浮かべるその男の衝撃の言葉を聞く。






「諸君、これが“戦闘実習”だ。 この魔物達を討伐したまえ」







 ギシャアアアア、と怪物の咆哮が木霊した。




 お読みいただきありがとうございました。

 次回もよろしくお願いいたします。

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