魔宝族(まほうぞく)と隷い手(つかいて)
この話もよろしくお願いします。
※タイトルのルビをミスしてたので直しました。
「あー、で、あるからして」
今更ながらに奇妙な光景だ。
教壇には頬骨が浮かび上がるほど、ガリガリに痩せた四十代くらいの茶髪の男性が、黒板に謎の模様を描きながらボソボソと話をしている。
白いマントを羽織っており、レイヴァのリボンと同じ刺繍が入ったネクタイを締めている。
教壇脇には牛の角と耳を持つ非常にけしからん胸をした女性がニコニコしながら立っていた。
「今年も無事、新入生諸君の“隷い手召喚の儀”が終了したわけですね。 とりあえずはおめでとうございます、隷い手諸君も主の為にがんばってくれたまえ」
教師の男は“隷い手”の諸君と言ったあたりで一度、俺をチラリと見てきたが、一瞬憐れみ表情を浮かべて視線を戻した。
生徒側の席には黒マントを羽織った男女が教師の話を聞いている。
“まほうぞく”の生徒1人に対して化け物1匹が隣に控えている感じだ。
「諸君も知っての通り、この国“イーワルド”で人間と呼ばれる種族は十種存在します。 種族間には戦闘における明確な力の序列があり、我々“魔宝族”は“種族階位”一位の崇高な存在です」
十種類って多いな。 というか、この世界では二足歩行のトカゲや空飛ぶ小人も人間って呼ぶのか。
「よく見ておくように」
おもむろに教師は教壇から降り、隣に牛の人が近づいていく。 すると……。
「我が閃刃は汝と共に!!」
先程まで覇気のない声でボソボソと喋っていたのが嘘のように、腹に響く大声で男が叫んだ。
カッ――、っと教室内を光が包み視界を奪う。
気づくとガリガリに痩せた男の姿はなく、牛の人だけがその場にいるだけだ。
牛の人の手には、細身で先端が鋭く尖った片手剣、所謂レイピアの様なものが握られていた。
柄や手を保護する金属板の部分が大分豪華に装飾されていて、実戦で使う為のものというより、金持ちの貴族が観賞用に所持してるものというような印象を受ける。
しかし、そのレイピアの存在感はすさまじく、牛の人の人間離れした山脈よりも俺の目を惹きつけさせた。
「ハイハ~イ、これが~、魔宝族の~、“武器化”能力で~す」
おっとりとした口調で牛の人は話し始めた。
人間が剣に変身したぞ……、魔宝族の能力“武器化”か、すごいな。
この世界は次から次へと本当に俺を驚かせる。
「え~と、この様に~、魔宝族は~、己の姿を~、武器に変え~、すご~い力を~、出せま~す」
レイピアから光る模様が空中に浮かび上がり、刀身の周りをクルクルまわっている。
牛の人はそれを見ながら話始めた。
「あの浮き出ているのは“イーワルド語”だ。 武器化すると魔宝族は喋れないからな、ああやって文字を出して隷い手と意志疎通をとる」
俺が頭にハテナマークを浮かべているのに気付いたのか、左隣にいたレイヴァが小声で解説してくれた。 ありがとう。
「でも~、武器化した魔宝族の力を~、教室内で~、見せるのは~、危ないので~、それは~、また~、次回に~」
それにしても牛の人おっとりと話過ぎではないか?
のんびりおっとりとした喋り方が子守歌の効果を生み出しているのか、生徒達の集中の糸が切れ始めている。
欠伸をかみ殺す者が何人か出始めた。
その時、再びカッ――、っと教室を光が包む。 それ眩しいからやめーや。
「この能力は強力ですが、自分一人では使えません。 ですから武器化した己を操る“隷い手”が必要なのです」
ボソボソと元の姿に戻った教師が話の続きを始める。
魔宝族は自分の能力を使う為にそれを操る隷い手が必要。 だからレイヴァに俺は召喚されたのか。
隣を見るとレイヴァと目が合い、彼女はウムッ、といった感じで頷いた。
「しかし、我々の能力はその強力さ故に扱うのに制限が出てきます。 才能のある魔宝族にはそれ相応の隷い手が必要となるのです。 召喚の儀とは自身を扱うに足る隷い手を喚ぶ儀式ですね」
ポンッと牛の人の肩に手を置きながら教師は更に話を続けた。
「ちなみに私の隷い手である彼女は“獣人族”です。“種族階位”は全十位ある内、第六位ですね。 一位は我々魔宝族自身なので、二位に近い種族ほど才能があるということになります」
そういえば俺がこの世界に来た時に周りが人族、人族言ってたな……。
人族ってその“種族階位”で何位なんだ?
「なあ、レイヴァさん。 俺……つまり人族って、種族階位は何位なんだ?」
何の気なしに小声でレイヴァに聞いてみた。
「ん?人族の階位は“第十位”だぞ」
それ、一番下ですやん。
お読みいただきありがとうございます。
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