出会いから
最初に投稿したプロローグだった部分を分けて若干修正を加えてます。
主人公のヒロインへの好意を少しだけ盛りました。
「人族!?」
「おいおい、嘘だろ。 名門“ブレイディア”家の“隷い手”が人族なんてよ」
晴れ渡る空。
獅子の頭を持つ鳥の化け物が空を飛ぶ光景を眺めながら俺は途方に暮れていた。
辺りは開けた野原であり、見たことない草花が生えている。
遠くにはどこぞのテーマパークにでも建ってそうな石造りの巨大な城みたいなものまで見える。
どこだここは?
つい先ほどまで、俺は教室で午後の授業を受講していたはずだが……。
右を向けば2足歩行の狼がこちらを見つめており、左を向けばこれまた2足歩行のトカゲが、大丈夫かーとこちらに手をヒラヒラさせてくる。
周りを見渡せば多種多様な姿をした異形の存在達が俺に意識を向けていた。
どうやら現実の俺はまだ昼寝中らしい。
羽を生やした小人が、フワフワと目の前を通り過ぎていく。
夢に違いない。というか夢以外ありえないだろ、こんなファンタジーな状況。
……、
夢の中だと、自分の体を痛めつけても痛みはないとよく聞くが、実際どうなんだろう。
……、
「ウォー!! 超痛ぇ~」
夢じゃない。 この痛みは夢じゃない! あ~痛ッてぇ~。
試しに頭を小突いてみたが、ゴツンと嫌な音を立てただけで目が覚めることはなかった。
「急に自分の頭を殴り始めたぞ」
「コイツ頭がおかしいんじゃないのか?」
「フッ、さすが“階位最底辺の人族”だ」
「え、今頭を殴ったのか?」
「さあ? オレには急に頭を押さえ始めたようにしか見えなかったぞ」
痛みに悶絶している俺を、周りのモンスター達は嘲笑ってきた。
くそ~、泣きたい。二つの意味で。
「どうやら成功のようだ。 安心したぞ」
怪物たちの喧噪の中に囲まれてもはっきりと聞こえる凛とした声。
ゴクリ……と、俺は生唾を飲み込んだ。
視線を向けると、一人の少女がこちらに近づいてくる姿を確認できた。
獣耳が生えているわけでもなく、鱗のついた尻尾があるわけでもない、周りの化け物共とは違う至って普通の人間の少女だ。
――俺は少女に目を奪われた。
燃え盛る炎の様な赤髪が腰まで伸び、キリッとした目つきには深紅の瞳が輝いている。
肌は透き通るように白く、顔立ちは思わず溜息が漏れる程美しい。
スラリとした長い手足はその爪先まで手入れがよく行き届いており、所作は気品に満ち溢れていた。
「我が“隷い手”よ、 汝の名は?」
「え、聖……、“聖 剣”です」
“隷い手”ってなんだ? とか、ここはどこなんだ? とか色々思うことはあったが、赤髪の少女の容姿に見惚れてしまい、言われるがまま質問に答えていた。
「よろしく、ヒジリツルギ。 何か聞きたいことはあるか?」
引き続きの問い。
聞きたいことか、スリーサイズとかは……、やめとこう。
まずは手始めに、
「お、お名前は?」
って、お見合いか~い!
思わず自分で脳内セルフツッコミを入れてしまった。
何を聞いているんだ俺は。 もっと聞くべきことがあるだろ。
「ん?そうか、私の名乗りがまだだったな、すまない。 レイヴァ・フレイムテイン・ブレイディアだ。 ヒジリツルギ」
よろしく、と彼女は俺に向けて右手親指をグッと立てサムズアップしてきた。
何故サムズアップ?と、思いつつもとりあえず同じように右手でサムズアップし返したが、フフッそう返すかと笑われてしまった。
この世界のサムズアップはどうやら別の意味合いがあるらしい。
「見ての通り私は“魔宝族”だ」
まほうぞく? 魔法? この美人さんはなんかヤバめな宗教にでもハマっているのか、それとも重度の厨二病患者か何かなのか?
いやいや、でも実際に現在進行形で俺の周りにはリアルなモンスターてきなアレがいるわけだから妄言とかではないわけだし……、ん~?
「ま、まほうぞく?」
とりあえず俺は素直に疑問を口に出してみた。
「ああ、そうだ。 そして今日から君は私の“隷い手”だ」
おっと、まほうぞくが何なのかの答えを聞く前にさらに新たな造語が増えてしまった。
「急な申し出ですまないが、今日から君は私と寝食を共にし、この学園に一緒に住んでもらう」
そうか、一緒に住むのか、一緒に……。
「え?」
レイヴァの突然の問題発言に、俺の頭は今までの疑問を放棄し、真っ白になった……。
読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくおねがいいたします。