星と灯火
自分の「死」というものを考えるとき
人は何を思うのだろう
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夜・・・
私は今ビルの屋上に立っている
一歩、また一歩私は知らない世界へと近づく
この世界とバイバイする為に・・・
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私があなたと出会ったあの日
私は今も覚えている。
あなたは私に言ってくれたね
「一目ぼれしました。付き合ってください。」
って。
私は今も覚えているよ。
あの時のあなたの
少し照れた顔を、
緊張気味の言葉を、
そして・・・
熱い思いを。
私は嬉しかった。
だって今まで人に必要にされたことがないから。
だって私の生きる意味もよく分からなかったから。
でもあなたが変えてくれた。
私を必要としてくれた、
好きだって言ってくれた、
そして・・・
ようやくこの世界に生まれることができた気がした。
でも・・・
あなたは逝ってしまった。
私もあなたも知らない子供を助けるために
あなたはトラックの前に飛び出した。
覚えてる?
ずっと・・・ずっとそばにいるって言ったんだよ?
死ぬまで愛してるって言ったんだよ?
死んじゃったら・・・死んじゃったら私を愛してくれないの・・・?
私をこの世界に認めてくれる人は・・・
もう・・・
いない。
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この町で一番高いビルの屋上からは
たくさんの星とたくさんの町の明かりが見える
上に見える星の明かりは遠い世界からの贈り物
下に見える町の明かりは現実の世界の命の灯火
私は上を選ぶ
あなたがいない世界ならば
いつかは消えて無くなる灯火ではなく
ずっと輝く星になりたい
足を半分外側に出す
ミュールを履いている裸の足に
下から冷たい風を感じる
上体を前に倒す
下にたくさんの灯火が見えた
すると・・・
そこに去年の私とあなたの姿が見えた
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夏に二人は一緒に花火を見に行った。
あなたは屋台でたくさんの食べ物買って嬉しそうに食べていたね。
花火を見てよって私はふくれてるね。
でも、
最後の特大花火のとき、
あなたは私の肩を抱いてくれたね。
少し照れくさそうにしながらだけど、
緊張してたの伝わったよ。
だって手が震えてたんだもん。
私、
とっても嬉しそう・・・。
あなたの愛が伝わって
とってもとっても嬉しそう。
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倒れかけた上体がふっと元に戻った
拍子に履いていたミュールが真っ暗な世界に落ちていく
カツーンと間抜けな音が静寂な夜に響く
私
死にたくない
死にたくない
だって
私を愛してくれたあなたのことが好きだったから
だって
あなたを愛した私が好きだったから
そんな自分と離れたくないよ
そんな自分を殺したくないよ
死にたくないよ
死にたくないよ
涙が・・・止まらなかった
私の泣き声を
たくさんの星と
たくさんの灯火が
やさしく、やさしく包んでくれた・・・