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星と灯火

作者: 夏目洋介

自分の「死」というものを考えるとき

人は何を思うのだろう


####


夜・・・


私は今ビルの屋上に立っている

一歩、また一歩私は知らない世界へと近づく

この世界とバイバイする為に・・・


####


私があなたと出会ったあの日

私は今も覚えている。


あなたは私に言ってくれたね

「一目ぼれしました。付き合ってください。」

って。


私は今も覚えているよ。

あの時のあなたの

少し照れた顔を、

緊張気味の言葉を、

そして・・・

熱い思いを。



私は嬉しかった。



だって今まで人に必要にされたことがないから。

だって私の生きる意味もよく分からなかったから。


でもあなたが変えてくれた。

私を必要としてくれた、

好きだって言ってくれた、

そして・・・

ようやくこの世界に生まれることができた気がした。



でも・・・


あなたは逝ってしまった。


私もあなたも知らない子供を助けるために

あなたはトラックの前に飛び出した。



覚えてる?

ずっと・・・ずっとそばにいるって言ったんだよ?

死ぬまで愛してるって言ったんだよ?

死んじゃったら・・・死んじゃったら私を愛してくれないの・・・?


私をこの世界に認めてくれる人は・・・

もう・・・

いない。


####


この町で一番高いビルの屋上からは

たくさんの星とたくさんの町の明かりが見える


上に見える星の明かりは遠い世界からの贈り物

下に見える町の明かりは現実の世界の命の灯火


私は上を選ぶ


あなたがいない世界ならば

いつかは消えて無くなる灯火ではなく

ずっと輝く星になりたい



足を半分外側に出す

ミュールを履いている裸の足に

下から冷たい風を感じる


上体を前に倒す

下にたくさんの灯火が見えた



すると・・・

そこに去年の私とあなたの姿が見えた


####


夏に二人は一緒に花火を見に行った。

あなたは屋台でたくさんの食べ物買って嬉しそうに食べていたね。

花火を見てよって私はふくれてるね。

でも、

最後の特大花火のとき、

あなたは私の肩を抱いてくれたね。

少し照れくさそうにしながらだけど、

緊張してたの伝わったよ。

だって手が震えてたんだもん。



私、

とっても嬉しそう・・・。


あなたの愛が伝わって

とってもとっても嬉しそう。


####


倒れかけた上体がふっと元に戻った


拍子に履いていたミュールが真っ暗な世界に落ちていく

カツーンと間抜けな音が静寂な夜に響く



死にたくない

死にたくない


だって

私を愛してくれたあなたのことが好きだったから


だって

あなたを愛した私が好きだったから


そんな自分と離れたくないよ

そんな自分を殺したくないよ


死にたくないよ

死にたくないよ



涙が・・・止まらなかった



私の泣き声を

たくさんの星と

たくさんの灯火が


やさしく、やさしく包んでくれた・・・



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― 新着の感想 ―
[一言] よかったです!! 女の人のその場その場の場面がすぅっと頭に浮かんできました・・
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