プロローグ『冒険者のための職業大事典 44ページ』
赤魔道士とは
中級職のひとつ。初級職である赤魔術師の派生からのみ転職可能。現在では派生先は無いとされる。
外見は上から下まで赤づくめの服に赤いマントを羽織り、頭にはトレードマークである真っ赤な羽根つき帽子を被っている。これが格好いい。
使える武器は、魔道士系ならお馴染みの杖やロッド、短剣に加えて、なんと軽いものならば剣や槍さえ装備できる。いざとなれば前衛も賄えるのだ。
防具に関しても、魔道士系では珍しい盾を装備できるというのが大きな利点だろう。
体力に自信がない魔道士系にとって、防御力が高いというのはアドバンテージだ。
しかし、なんと言っても赤魔道士の一番の特徴と言えば赤魔道士の固有特殊能力、『まほう3』に尽きる。
この能力はその名の通り、位階3までならばこの世のあらゆる魔法を使用することができる万能な能力だ。
魔法の位階は5まで存在しているため、全魔法の60パーセントが使用できるとなれば、非常に大きい。
この世界では、攻撃を司る黒魔法、防御や回復を司る白魔法がポピュラーであり、この二つを覚える赤魔道士が多い。
これで皆様も、「是非とも私も赤魔道士になってみたい!」と思っただろう。
ふう……
では赤魔道士の"欠点"について話を進めることにしよう。
まず魔道士の中でも剣や槍が使える、ということだが、魔道士系の一番の宿命である"戦闘力の低さ"には抗えなかった。
どんなに良い武器を装備したところで、攻撃力には限りがあり、どうしても戦士や武闘家と比べると見劣ってしまう。
扱いにしても戦闘職に比べて武器を持つ時間が短いため、慣れていない。
盾にしても、前述の理由からあまり前衛に出る機会が無いため、使いどころがない。
『まほう3』についてだが、ある程度察しはついているだろう。
位階3と4の間には、天と地ほどのさがある、といえば終わってしまう。
黒魔法、白魔法を例にとって説明しよう。
位階3までで覚えられる黒魔法と言えば、位階1で覚えられる属性攻撃魔法の一段階上の攻撃魔法だ。
しかし位階1の魔法といえば着火や水生成といった生活に使われる魔法である。
そのため、その一段階上と言えば直径30センチほどのファイヤーボールや少し強い水鉄砲程度の威力のスプラッシュガン等になってしまう。攻撃範囲が狭く、対象は一体が限界だ。
レベルが低い魔物程度ならばこの程度でも討伐は可能だが、少し強くなってくると敵に完全属性耐性が付き、属性魔法は何であっても敵に傷一つすらつけることが出来ない。
その他は状態異常系の魔法、最早言うまでもないが対象は単体のみである。更には知能を持った魔物ならば大体は状態回復系の魔法や特技を身に付けているので、打っても無駄である。
その他付け加えるとすれば敵への能力弱体化だろうか、単体の。
白魔法に関してもそうだ。
位階3までの回復呪文では切り傷を治すのが精一杯で、骨折や切断部分の再生などもってのほか。
他には状態回復魔法もあるにはあるが、毒の治療に関しても麻痺毒なのか、致死性の毒なのか判別しそれに適した回復魔法が必要であり、決して万能とは言い難い。
能力強化もあるが、上昇率は低く言わずもがな単体なので使い勝手が悪い。
そもそも、位階3までの魔法というのはこの世界にある学院で魔法クラスならば卒業までに完全に習得できるものであり、必要性をまるで感じない。最も、職業によっては両方使えるとは限らないが。
職業自体に関しても、派生先が無いためもし他の中級職になりたい場合初級職からやり直さなければならない。
もし黒白両方の魔法が使いたいのであれば、上級職ではあるが上位互換の固有特殊能力の『まほう5』が覚えられる賢者が存在するため、この職業を選ぶ意味がない。
加えて赤魔術師の派生先に、『くろまほう3』や『まほうけん5』が使え攻撃力の高い魔法剣士や、『しろまほう4』や有用な固有特殊能力『結界』がある聖剣士があり、比べるとどうしても見劣りしてしまうのだ。
あと挙げるならばその格好。
以前には、その真っ赤なヒラヒラとしたマントを目掛けて、興奮した牛の魔物が猛スピードで突撃してきたという事件もあった。
総評としては、魔道士として見れば魔法の威力や効果がイマイチなので頼りない。
かといって魔法戦士として見れば
以上の事より、赤魔道士には『器用貧乏』という大変不名誉な称号がついてしまったのである。
果たして、このような職業を好き好んで使う人間が居るのだろうか……
『出典:冒険者のための職業大事典』