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憲兵の帽子・7


 それから二日後、マーテーの遺体が発見された。



 その日、勤務に現れなかったマーテーを訝しく思った区間長が、巡回の部下に見に行かせた所、家の地面に倒れているマーテーを発見した。

 その時には、既に息絶えていた。



 彼に身寄りはない。葬儀は、ドナトと同僚である現区間長の二人が取り仕切った。

 葬式は、マーテーの家で行われた。

 告知を出し、やってきたのは二十一区の憲兵達の他には、広場に店を出している人や付近の住民が訪れていた。

 その中に、クロエの姿はなかった。



 簡単な葬式を行った後、マーテーの遺体は火葬された。

 マーテーの灰は、木の容れ物の中に入れられた。ドナトが両手で胸に抱えられるほどの大きさに、マーテーは収まっていた。

 その灰を持って、ドナトと一部の人々は近くの山へ馬車で登る。

 そこには、無数に広がるオール木があった。

 ここが、この街の人々との眠る墓所だ。


 この国の守護精霊は、オールの木を宿主としている。人々の魂は、このオールの木に導かれ、大いなる一へ還った後、再び現世にやってくるとされた。

 その為、灰をひと振り、この木々に巻くのだ。

 その役目は、ドナトが任された。



 撒く前に、やってきた人々に振り返る。二人を除いて、全員が憲兵の仲間だけだった。 

 その時、遠くから新たな馬車が現れた。見覚えのある馬車。

 降りてきたのは、クロエであった。


 彼女とドナトは目が合う。

 それから、ドナトは改めてオールの木々の方に向いた。

 ドナトは灰を掴むと、それを木々に向けて振り向いた。




 葬儀はそれで終わりであった。

 厳かに去っていく人々。ドナトは、未だこの木々を見渡していた。

 寒い中でも、オールの木は力強く大地に根を張っていた。

 ゆっくりと近づいてくる影。

 クロエ。



「あっという間だったね、マーテーさん」

「ああ、そうだな」

「お葬式には出れなくてゴメンなさい。告知が私たちの住む場所まで来なくて。葬式の後に、参加した人から聞かされたの」


「本当は行きたかったんだけど」寂しそうに呟いたクロエにドナトは言う。


「伝えなかった私も悪かったよ。準備に手を取られてね。頭が回らなかったんだ。てっきり知ってるとばかり思っていた」

「いいよ。灰を撒くのには間に合ったからさ」


 彼女は木々の方に目を向けていた。無表情だったのが急に歪み、眼に涙がたまる。


「ホント、こんな急に亡くなるなんて」


 嗚咽を漏らし、クロエは関を切ったように涙が溢れだした。


「少し前にね。マーテーさんに会ったんだ。あの時は、元気だったのに」



 それ以上、クロエは何も言えなくなった。クロエは、ドナトの胸に顔をうずめて、堪えるように泣きじゃくった。ドナトは彼女の頭を撫でながら、自分の頬に落ちる涙に気がついた。

 しばしの間、二人はそうして抱き合っていた。


―――

――


 

 誰かがいなくなったとしても、時間はゆっくりと流れていく。

 三ノ月。冬は過ぎ去り、もう間もなく春がやってこようとしていた。

 


 マーテーの補充は来ず、そのままドナトが区間長補佐に収まった。

 広場にも活気があふれはじめる。

 その中には、花屋の屋台。クロエの姿もあった。



 ドナトはその日。仕事場で日報を書いていた。向かいには区間長がおり、報告書をまとめていた。

 ドナトはいつしか手を止め、花屋の所にいる、クロエに目を向けていた。

 マーテーの葬式以来、またクロエとドナトは共に食事をしたり散歩に出掛けるようになった。



 だが、それも潮時だ。



 ドナトは、仕事場を見回す。小さな時計に、壁かけには、もう使わなくなった厚手の外套が並んでいた。

 長い間、ここがドナトの全てであった。



 ドナトは日報を書き終えると、帽子を脱いで立ち上がった。

 驚いた表情をしていた区間長に、ドナトは言う。



「少し用事があるんだが、いいかな」 



 何かを察した区間長は、小さく頷くと、笑いながら雑に手を振った。

 派出署を出て、ドナトははたと気がついた。

 いくら何でも、手ぶらで行くはいかがなものか。何か買っていった方がいいのではないか。

 ドナトは立ち止まって少し考えたが。



 結局、いつもの店で花を買う事にした。




 そしてドナトは花屋に向かった。

 花屋の娘に、渡す花を買う為に。

 




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