サウンドオブミュージカル・5
とうとうサロンの外に出たミュージカル。
それはすなわち、無差別な戦いの始まりであった。
かつては互いがサロンにいるときでしか決闘ミュージカル成立しなかったが、いまでは街の中のどこだろうとミュージカルを仕掛けれるようになったからだ。
家の前。夜のレストラン。演劇場。
人数も関係ない。
時にはたった一人の相手に、十三人がミュージカルを仕掛けた時さえあった。
外に出たの効果はそれだけでなかった。
かつてはサロンにいる人間だけが目にすることが出来たものだった。
しかし、それが市民の目に晒されるようになった。
新たな観客を得た彼らは、より受ける様に派手に過激になっていく。
当初のもくろみであった、音楽隊を封じるということも、結局は外で普通に演奏されるようになり無意味となった。
そして派手さはきらびやかな歌や踊りに加え、演出の面でもそうだ。
増える音楽隊。ミュージカルする人数。
また雰囲気を出すために、精霊師か駆り出されるようになった。
特に、アンナたち女性組には燃え盛る情熱の炎が、レオンシオたち男組では唸る閃光の雷がそれぞれ好まれた。
また、彼らが外に出た事によって、それが市民へと波及することへとなった。
すなわち、市民達もミュージカルを行うようになったのだ。
商人、職人、農夫に針子、憲兵フォルテや精霊達に至るまで。
彼らは様々な場所でミュージカルを行い街を彩った。
世はまさに大ミュージカル時代へと移っていったのだ。
――
―
そんな中、とうとうその本筋であるアンナとレオンシオ達は我慢の限界となった。
ここまで広がったのだ。
どちらがこの街のミュージカルの頂点にいるか。
そしてその日、とうとうミュージカルの決戦が、街の中央にある『レオーネ広場』で行われる事になったのだ。
――
―
そんな時になっても、アニーは我関せずを通していた。
レオンシオには本場経験のあるアニーの協力を強く求めたが、もはや彼の心はここにはなかったのだった。
彼は今、ある通りに立っていた。
それは、ローナの住む家のある新市街の通りだ。
もう数週間も、こうしてローナの家のある通りに立ち続けている。
彼女の姿を探してサロンにもよく顔を出すようになったが、まるでアニー避けているかのように、ローナはサロンに姿を現さなくなってしまった。
そんな彼女が気になって、彼女の家の近くまでやってきていた。
アニー自体も困惑していた。自分はなぜこんなことをしているのか。
それよりも、この馬鹿げたミュージカル騒ぎを止めるべきではないのか。
ミュージカルというのはあくまで劇であって、このように街中で行われるのはおかしいことであると。
しかし、そうと分かっても、アニーはこの通りを離れられなかった。
日が出始めた頃にこの通りにやってきて、真夜中の鐘がなるまでここに立ち続けている。
馬鹿な事をやった、もう二度としないと心に決めて、家に帰り眠りにつくというのに、朝になればまた足がここに向いてしまう。
そうしているうちに、曇り空からポツポツと雨が降り始めてしまった。
アニーは軒下に移動し、雨をしのぐ。
だが、視線は雨にぬれる街ではなく、あくまで一つ、ローナの家に向けられていた。
この気持ちは何なのか。
どうすれば、この気持ちを表に出すことができるのか。
そう、ミュージカルだ。
アニーは意を決し、歌い出した。
「僕はなぜ~ここにいるのか~♪
誰か教えてくれないか~♪
ただ君の事を思うと~胸に溢れるこの気持ち~♪
そう……♪
言葉に出来ないこの気持ち~♪
僕には何かわからない~♪」
やがて雨に濡れながら通りを進んでいく。
「ただ君がここにいるというだけで~♪
僕はいつまでもここにいられるんだ~♪
そう例え雨にぬれても~♪
心は晴れやかなんだ~♪
そして君の名を叫びたい~♪
ロ~ナ~♪
ロォ~~ナ~~~♪」
クルクルと回っていたアニー。
突如、近くで馬車が止まる。
乗っていたのは、なんとローナだった。
驚いているアニーの目の前に、ローナはゆっくりと降り立つ。
「私の名を呼んでいるようでしたけど、何か用がありまして?」
「それは……」
シドロモドロするアニー。
だが、まず何よりも言わなければならないことがあった。
「君の言ったミュージカルは、間違ってる」
ローナの顔に驚きが広がる、しかし、それから悲しそうにそっぽを向いた。
「それは……分かっていますわ」
実のところ、ローナもあの後に本(月刊・シェルソンの世界)を読み直し、自分の間違いに気がついたのだ。
だが、そうなってからはもう遅い。サロンではミュージカルが流行り出していたのだ。
「私、シェルソンに留学していた貴方がいつ言いだすか、恐ろしくて……」
「僕の事を知っていたのかい?」
「ええ勿論。私と同じシェルソンに留学していた人……でも私とは違う」
「違うって?」
「私……実はシェルソンに留学なんてしなかったんです。ただ一日滞在しただけ……だから嘘をつくために本を読んで勉強したの……周りは貴方と話すように言ったんですけど、私、自分の嘘がばれるのが怖くて出来なかったんです」
「じゃあ、僕の事を嫌っている訳じゃないんだね?」
「ええ。でも教えてください。貴方はミュージカルが分かっていながら、なぜ皆さまに教えなかったのですか。皆さんの事を笑ってたのですか?」
「違う、ただ……」
「ただ……?」
「……僕が本当の事を言って、君が馬鹿にされるのが嫌だったんだ」
ローナと話しながら、アニーは自分の心の中が嫌というほど澄み渡っていった。
「なぜ貴方は、私が馬鹿にされるのを嫌だったんですか。私と貴方は、まるで話した事もないのに」
「それはだね……ローナ……
僕は~ただ君のこと~を~~♪
愛し~~♪
た~~♪♪
からだ~~~♪♪♪
よ~~~~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪!!」
「!!」
「愛する君が傷つく姿を、見たくなかったんだ」
「……でしたら、もう全てを明かすべきです」
「なぜだい? 僕の気遣いは不愉快にさせてしまった?」
「逆ですわ……アニー……
私はどんな辛いことでも~♪
今なら耐えられ~~る~~♪
貴方の~~♪♪
愛が~~~~~♪♪♪♪♪
ある~か~~ら~~~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪!!!!」
「!!!」
「ああアニー♪
アニ~♪♪♪
アニ~~♪♪♪」
「おおローナ♪
ロ~ナ♪♪
ロ~~ナ~~~♪♪♪」
「この気持ちさえあれば~~♪」
「どんなことでも耐えられ~~る~~♪」
「「二人~~~~~~~♪♪♪♪♪
なぁ~~~♪♪♪♪♪♪
らぁ~~~~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」」
心が通じ合った今、二人の心にあるのは一つだった。
ローナはまっすぐとアニーを見つめる。
「止めましょう、アンナとレオンシオを」
「ああ」




