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サウンドオブミュージカル・3


 その後、一気に形勢は逆転した。

 あれほどの音楽隊をレオンシオは準備は出来なかった。

仮にカウンターを仕掛けようとしても、音楽隊の力によってねじ伏せられてしまう。

強烈な音の圧がついたことによって、カウンターの威力も倍増。


何よりも、空気を作り出す力は、暴力的なまでに圧倒的。


 詩や軽快な動きでは勝てても、それを支えるバックミュージックは、情け容赦なく打ち砕いてしまった。

 困り果てたレオンシオ。

 そこで彼は、ある助っ人を呼んだのだった。


―――


 彼、アニー・トゥファーミはその日、レオンシオの自宅に呼び出された。

 アニーはレオンシオの幼馴染であった彼は、半年ほど前まで『シェルソン』に長期滞在をしていたのだ。

 しかし、彼自体はサロンに顔を出すことなく、勉学に励んでいた。


「それで、頼みってなんだい。レオンシオ」

「実は僕にミュージカルを教えてほしいんだ」

「君にミュージカルを?」

「ああ、今はサロンでミュージカルが流行っていてね。しかし……最近は向こうに負けっぱなしなんだ」

「負けっぱなし? どうしてミュージカルで勝ち負けがつくんだ?」

「確かに、シェルソンの人は勝ち負けを気にしないかもしれない。だが、今の僕にとっては極めて深刻な事なんだよ。そこで君にどうすればいいかアドバイスが欲しいんだ。シェルソンに行ったことのある君なら、きっと素晴らしいアドバイスをしてくれるはずだ」


 そもそもミュージカルで勝ち負けをという事が、さっぱり不明であった。

 しかし、アニー自身、ミュージカルは好きで通い詰めたことがあり、その事で頼られるのはまんざらではなかった。

 何より、思いつめた様子の幼馴染を放って置くわけにはいかない。

 アニーは彼の願いを聞き入れることにしたのだった。


「まあ、ボクに出来ることだったら、なんだってやってあげるよ」


 レオンシオは、まずはミュージカルを見てからの方がやりやすいだろう提案。

 二人は連れ添って、サロンにやってきた。

 この時点で、既にアニーの頭は? が浮かんでいた。

 ミュージカルを見るならば劇場に行くとばかり思っていたのだ。

 久しぶりにあった知り合い達に声を掛け合いながら、レオンシオとアニー並んで座った。


「なあ、レオンシオ。僕らはミュージカルを見るんじゃ」

「そう慌てないでくれ。きっとすぐさ」


(ああ、開演まで時間があるから、それを潰しにきたのかな?)

 などと呑気な事を思っていたアニーだが。


「そういえば、この前」


 と、妙にワザとらしい声。

 見ると、一人の女性(アンナの腰巾着A)が椅子から立ちあがっていた。


「お父様達と乗馬をしてきたの」

「まあ、貴方が」とはアンナ。


 なんで彼女達はあんな大きな声を出しているのだろうと疑問を浮かべていたアニーだが。


 次の瞬間。


 ぱ、と腕を広げた女性は。


「雲ひっとっつない素敵なぁ日に~♪

 馬にのぉって野をかけた~♪」


 突如歌い出した。


「それぇ!」


 言葉を合図に、扉かラッパ隊が軽快な音を鳴らしながらやってくる。

 ゆったりとしたテンポが急激に慌ただしくなった。


「それっパカラパカラパカッパ~♪」

「「「「馬に乗って走る走る野原走る~♪」」」」

「草の香巻き上げて小川を飛び越えて~♪」

「「「「走る走るどこまで~も走って回る~♪」」」」」


 音楽に乗せて、女性は馬に乗ったふりをして室内を回っていた。

 やがてそれも終わると、何事もなかったかのようにゆったりと椅子に座る。

 バンドメンバー&コーラス隊も扉の奥へ消えていった。


「とても、楽しかったわ」


 周りにいた者達は、彼女を見て感心したように唸っていた。

 その中でアニーは呆然としていた。

 横にいたレオンシオが真剣な声で言う。


「どうだい、アニー。彼女たちのミュージカルは」

「いや、確かにミュージカルだけど……ちょっと……はっ?」

「そこまで驚くって事は……かなり出来がいいんだね」

「確かに出来はいいんだけど、そう言う事じゃなくだね。僕の思ってたミュージカルと違うというか」

「違う? ならぜひそれを教えてくれ。そうすればあの音楽隊に対応できるはずだ!」

「だからそうじゃなくてだね、レオンシオ」


 頭の理解が完全に追いついていなかった。

 確かにミュージカルだ。

 だが、ミュージカルとはあくまで見るものであって、演じるものではない。

 ともかく、それを伝えなければ。

 だが、その前に、一体全体、なんでこんなミスが起きたのか。


「なあ、レオンシオ。一体、誰からこのミュージカルを教わったんだい?」

「それだね……彼女さ」


 顎で指した先にいた一人の少女がいた。

 ローナだ。

 彼女は優雅に椅子に坐りながら、先ほどのミュージカルの批評を、隣に座った少女としているようだった。

 時折浮かぶ彼女の微笑み。突如、レオンシオが息が詰まる思いがした。


「どうしたんだい、アニー」

「いや、それは……それより」

「それより?」

「その、あの……」


 アニーはゆっくりとかぶりを振った。


「駄目だ。僕は助言する事は出来ない」


 そう言うと、アニーは立ち上がり、サロンを後にしてしまった。


「おい、アニー? 一体どうしたっていうんだ……」


 レオンシオの疑問も尤もだ。アニーにも理解出来なかった。この愚かしい状況を止めなければと思ったのに、彼女、ローナを見たとたん何も言えなくなってしまった。

 


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