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龍の惑星  作者: ドラム缶
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龍の心を持つ戦士

 空戦を行う以上、広い視界と正確な距離感が必要になる。


 しかし眼球が二つである以上、この二つはトレードオフの関係にある。


 そして肉食獣の典型的な特徴がそうであるように、捕食者はより正確な距離感のために前方の狭い範囲に視界を集中せざるをえない。


 つまり視界を確保するためには、頭を素早く動かすことで狭い視野を上下左右へと振る必要があり、そのためには頭部をそれほど重くすることができない。


 また高度な知性を保有するためには相応に脳の容積を拡大する必要があり、

それはつまり頭蓋骨を一定以上厚くすることは難しい、ということだった。


「であれば、他はさておき頭部に限定するならば、

 百ミリの圧延装甲板を貫通する二十五ミリ徹甲弾を防ぐことは

 まず不可能だ……もう聞こえてはいないだろうがな」


 顔に付いた返り血を拭いながら視線を湖の対岸へと向ける。

 巻き上がる発砲煙の中心、伏射の体勢で巨大な銃を構えるリチャード伍長の

姿が見える。


 口径二十五ミリのアンチマテリアルライフル。それが今回の作戦に持ち込んでいたリチャード伍長の切り札だった。


 ぬかるみに足を取られながらドラゴンに歩み寄り、その状態を確認する。


 鼻から上が完全に吹き飛んでおり、呼吸をしている様子もない。

 生態がはっきりしない以上は油断は出来ないが、少なくとも目で見る限りでは生きているようには見えなかった。


「エネミーダウン、敵性生物は死亡したものと考えられる」


 大声で対岸の伍長に呼びかける。

 向うもこちらの無線が壊れていることに気付いたようで、同じく大声による

返事が返ってきた。


「ドラゴンは沈めて殺すんじゃ無かったのか?

 プラン変更するなら先に言ってくれよな」

「すまないな、無線をやられた……

 だが計画変更に気付いてくれて助かった。感謝する」

「あれだけデカいんだ、ドラゴンがどこに居るかは分かってた。

 予定の位置に誘導し損ねてることもな」


「だからシズキが予備のプランに切り替えていることはすぐに気付けたよ。

 後はお前が空に向かって拳銃を撃ったのを合図にドラゴンの頭を撃ち抜く

 だけ、打ち合わせ通りにな。どうだ、優秀な相棒だろ?」


 そう話すリチャード伍長の声は実に楽しげで、こちらもつられて笑って

しまう。


 だがそれは仕方ないことだろう。今我々は腹の底から笑いたかった。


「ああ優秀だ。人類初のドラゴンスレイヤー、

 『ライオンハート』のリチャード伍長」


 我々はドラゴンに勝ち、そしてこの局面を生き延びたのだ。






 我々が村に戻る頃には日の出が近づき、空には紫の光が差していた。


 酷く荒らされた村には初めにこの場所に来た時と同じように村人が寄り集まり、何をするでもなく立ち尽くしている。


 ただ一つ違うのは、こちらを見る目を彩るのは諦観と悲哀だけでなく、不安と

希望がない交ぜになっていることだった。


「あー、シズキ、俺はお前ほど上手く喋れないから任せるけどよ、

 一つリクエストがある」

「なんだ」


 リチャード伍長がニヤリと笑ってウインクをする。


「アメリカンコミックのヒーローみたいに、一発どかんとカッコよく頼むぜ」

「善処しよう」


 伍長に向けて浮かべた苦笑を落ち着かせ、ゆっくりと村人全員の顔に視線を巡らせる。


 彼らもまた真っ直ぐにこちらを見て、そして俺がその言葉を発するのを待っている。


 リチャード伍長はカッコよく頼むと言っていたが、残念ながら俺の限られた

語彙では詩的な表現で彼らに語り掛けることはできない。


 だから彼らにはたった一言だけ伝えよう。


 山影から差した朝日が村を照らし出し、俺は口を開く。



「勝利だ」



 村中を歓声が包み込んだ。





 それから日が高く上るまでの間、我々は村人の治療を手伝った。


 あるいはそんな必要も無かったのかもしれない。希望を取り戻した彼らは精力的に活動し、瞬く間に村人の治療は進んでいった。

 そのため村人の勧めもあり、昼過ぎには少し休む時間を取ることにした。


 治療中もそうだったが、こうして休んでいると彼らの態度が変化していることを強く感じる。

 彼らは俺に対して客人や恩人に対する以上の敬意を示しており、時には恭しく頭を垂れることさえあった。それこそ神に接する信者のように。


「それはあなたが人中の龍だからですよ、龍の心を持つ人」


 疑問に思い尋ねた俺に、同じように休んでいたクリタピはそう答えた。


「俺は人間だ。人中の龍とは何か?」


 そう片言で問う。


「あなたは人間の体に宿った龍なのです。

 肉を構成するものが人間でも、その中心に宿る心が龍なのです」


 そう言って目の前の少女は優しく微笑む。

 彼女らの価値観では俺は龍の心を持つらしい。


「だが俺は特別な心は持っていない。何があれば龍の心とみなされるのか?」


 そう問うと、彼女はとても驚いた様子を見せた。


「あなたは龍に勝ったではないですか。龍に勝てるのは龍だけです」


 まるでガツンと頭を殴られたような衝撃が走る。


 『龍に勝てるのは龍だけ』、確かにその言葉は彼女から聞いていた。

 だが俺はその意味を正しく理解していなかったらしい。


 それは『龍の天敵は龍しかいない』などという、ドラゴンの強さを称える意味では無かったのだ。


 『龍に勝った者は龍とみなされる』という意味なのだと、今ようやく正しく

理解した。


「だからあなたは龍なのです、龍の心を持つ戦士」


 傍らで聞いていたリチャード伍長が「ライオンハートとドラゴンハートでつり合いが取れて丁度良い」等と言って笑っているが、こちらは全く笑えない。


 とんでもない事をしてしまったらしい。

 今になって俺は現状を正しく認識し始めた。

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