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龍の惑星  作者: ドラム缶
3/6

この空の支配者

 日が落ちて、辺りが闇に包まれる中、我々はライトで地図を照らしながら打ち合わせを続けていた。


「とりあえずこの辺りの地理は頭に入れたけどさ……

 ドラゴン対策はどうする?」


 糧食のパック入りチキンステーキをかじりながらリチャード伍長が尋ねる。


「断片的とはいえある程度の情報はある。

 そこから有効だと思われる方策を一つずつ試して行く他ない。

 上手く行けば我々は生き残るだろう」


 こちらは不味いと評判の米軍式粉末コーヒーに湯を注ぎながら返事を返す。


「ドラゴンについて分かっている情報を確認しよう。

 まず、奴らは全長二十メートルを超える巨体を持ち、全身を固い鱗に

 覆われている。この鱗は三十口径のライフル弾を完全に防御し、

 五十口径の重機関銃であってもまず有効打とはならない」

「装甲の厚さは戦車並、ってわけか。

 目玉や口を狙えばライフルでもやれるかもしれねぇけど、

 それを狙えるほど近距離で対峙するのは御免だな」


 伍長が我々のライフルに視線を向ける。

 この地での任務に際し、我々にはできるだけ口径が大きく威力の高い銃が優先的に配備されているものの、そのサイズは三十口径に留まる。


 軍が出し惜しみしたわけではない。

 これが生身の人間に無理なく撃てる上限なのだ。

 しかしこれではドラゴンの鱗を抜いて傷を負わせることはできそうにない。


「とはいえ銃を使わない殺し方はいくらでもある。溺死、焼死、墜落死……」

「なんだったら俺のコイツを使っても良いしな」


 ポン、と伍長が自分のバッグを手で叩く。


「もっとも、これが効くかどうかも分からねぇから、

 できれば頼りたくは無いけどな」

「そうだな、この辺りは後で詳しく詰めるとしよう」


「さて、ドラゴンの武器はまだある。飛行能力もその一つだ。

 村の少女が言うには巨大な怪鳥を空中で仕留めるだけの空戦能力がある。

 それがどれほどのものなのかは正直ピンとこないが、注意が必要だろう」


 全長二十メートルの巨体が空を飛ぶというだけでも想像しがたく、

その速度や機動性については全く予想がつかない。

 ただその能力を過小評価するのは危険だろう。


「一回おっぱじめちまったら逃げ切れそうにねぇな。

 いや、森に隠れりゃ行けるか……?」

「それも難しいだろうな。ドラゴンは五感に優れるようで、

 森の闇の中に隠れてもその目と鼻と耳で獲物を器用に探し当てるらしい。

 それらを掻い潜ったとしても炎で広範囲を焼かれる危険性がある」


 ドラゴンの代名詞とも言えるファイアブレス。

 果たしてその威力と射程がどれほどのものかは分からない。


 だがそれを武器として扱う以上、体格に比して弱すぎたり短すぎることはないだろう。

 進化の過程で残った特徴(ぶき)とは、つまりそういうことだ。


「はっはっは、悪い話が重なりすぎてなんかもう笑うしかねぇな。

 まだ良いニュースは始まらないのかよ?」

「もう少し我慢してくれ、次で悪い話は最後だ。

 ドラゴンの主な武器は鋭い爪と牙だ。おそらくその威力は自身の同種、

 つまりドラゴンの鱗を貫けるものだろう。

 つまり戦車装甲を貫く威力だと考えて良い」


 もちろんその爪と牙が主に振るわれる相手はドラゴンの餌となる生き物であり、ドラゴンではない。

 しかし地球の多くの肉食動物に関しては自身を殺せるだけの攻撃力を持つ。

 この星がそうでないとは限らない。


「まともに食らったら原型が残りそうにねぇな。

 良かった良かった、どうやら生きたまま貪り食われることはなくて、

 その前に十分ショック死できそうだ」


 伍長が大げさな仕草で肩をすくめてみせる。


「さてシズキ、悪い話はもう十分に堪能したぜ。

 そこから導き出される逆転の一手というやつを俺に見せてくれよ、

 できれば俺が退屈して寝ちまう前に」


 子供のように急かすリチャードに対し、俺はコーヒーを一口すすり、落ち着きをもって話を続ける。


「そうだな、こちらにとって有利な点は二つある。

 一つは今挙げたドラゴンの長所、その多くは比較的対策が立てやすく、

 我々でも対処が可能であるということだ」

「対処、と言うと?」

「硬い鱗に関しては先ほど述べた通り銃以外の殺し方を試す。

 五感についても悪臭のする煙を炊けばおそらくかなり無力化できる。

 また翼は鱗に覆われていないか、もしくは鱗が薄いと考えられるため、

 翼を攻撃すれば飛行能力を大きく奪えるだろう」


 もちろん全ては希望的観測だ。

 しかし最初に述べた通り、一つずつ試して行く他ない。


「なるほどね……それでシズキ、炎のブレスとか爪とかはどう対処するんだ?」

「攻撃を食らえば死ぬなんて今更な話だろう。

 それを相手に使わせた己の無力を嘆く他ない」

「いつも通りの綱渡り(タイトロープ)、ホントにクレイジーだなお前は」


 嫌だ嫌だと呟きながらリチャード伍長は首を振る。


 とはいえ今の我々にそこまで行き届いた準備などできるはずもない。

 どこかでリスクを負わなければならないなどということは、戦うと決めた時から分かっていたことだ。

 だからここで止まるつもりは無い。


 泥の方がマシなコーヒーを飲み干すと、伍長の目を見て鮫のように笑った。


「そこで二つ目だ。ドラゴンは昼行性だと聞いている。

 すなわち次の襲撃は早くとも明日の朝以降であり、我々にはあと九時間の

 猶予が残されているというわけだ


「さて、死なないようにせいぜい足掻くとしようじゃないか」






 しかしその期待は耳をつんざく咆哮の前に裏切られることとなった。

 まだ深夜と呼ぶべき時間に、漆黒の闇に瞬く星の明かりを背に負って、それは姿を現した。


 暗視鏡越しに覗いた緑色の視界の中で翼を持った巨体が踊る。


「夜襲かよ、話が違うじゃねぇか!」


 叫ぶ伍長。

 その叫びさえも掻き消しそうなドラゴンの咆哮、そして悲鳴、悲鳴、悲鳴。


 かがり火の小さな光の中でいくつもの人影が逃げ惑う。


「始まったからには仕方ない、少し早いが作戦行動を開始する。

 伍長、プランBだ」

「了解、一発派手に戦争ぶちかましますかっと」


 リチャード伍長は獰猛に笑うと荷物を担いで森の中へと走り去った。

 同時に俺も走り出す。こちらは村の中央、ドラゴンの眼前へ。


 木で造られた家を尾の一撃でなぎ倒してドラゴンが進む。


 逃げ惑う村人の背に爪を突き立て肉を食い千切らんと迫るその巨体の鼻先に、狙いを付けて引き金を引く。


 銃声、銃声、銃声。


 三十口径のライフル弾が正確に叩き込まれる。

 人間相手ならば一撃で戦闘不能に追い込めるそれは、しかしながら火花を散らすだけでドラゴンの鱗を貫くことはできない。


 視界を焼くマズルフラッシュの輝きと轟く銃声にドラゴンが動きを止めて、警戒の色を露わにする。

 しかしその攻撃に自分の身を裂くだけの力が無いと知るやすぐに、餌の儚い抵抗を打ち砕かんと考えたのか無造作にこちらへと向き直った。


 不愉快そうにその巨体を震わせて、のそりのそりと歩き始める。


「そうだ、それでいい。そのまま付いて来い」


 銃弾をばら撒きながら呟く。


 ライフルの弾が通用しない等ということは十分承知している。

 もっと上等な武器も用意はしてあるが、それをこの村のど真ん中で使用するわけにはいかない。

 我々の目的は人々の保護であり、そのためにはまずドラゴンをこの場から引き離さなくてはならない。お前を殺すのはその後だ。


 十分にドラゴンの注意を引けたと判断すると、すぐに背中を向けて走りだす。

 ドラゴンが通りやすいよう家を避けて開けた場所を通り、時折射撃しては注意を引く。

 走る、撃つ、走る。


 おちょくるようなその動きは相当にドラゴンの怒りを買ったらしく、村の中から抜け出して森の中を通る道へと駆け出た頃には、背後からは地を揺るがすような足音といきり立った咆哮が響いていた。


 村人が家畜も通れるよう整備したと思われるその道は、ドラゴンにとってはやや窮屈であったようだが、しかしそれでも十分にこちらを追撃できるだけの幅を備えている。


 森の中、けたたましい足音が迫る。星の光に照らされて薄く浮かび上がる巨大なシルエット。


 背中のすぐ後ろ、手を伸ばせば届きそうな距離にまで至ったソレに対し、俺は安全レバーを外してきっかり三秒を数えた手榴弾を投げ込んだ。

 そのまま素早く地面に伏せる。


 弧を描きドラゴンの背後へと飛んだ手榴弾はそのまま空中で炸裂し、多数の金属片を撒き散らす。

 対大型生物用に調整された特別製だ、火力も破片密度も遥かに大きい。

 飛散する破片は鱗に覆われていない飛膜を引き裂き、皮膚を焦げ付かせる。


 ドラゴンの巨体を盾にしたとはいえ、身体のすぐ傍を無数の金属片が通り過ぎるというのはあまり心地の良いものではない。

 できればしばらくは遠慮願いたい経験だと思いながら身体を起こし、再び走る。

 苦痛に身悶えするドラゴンが、俺が一瞬前まで伏せていた地面をその尾で叩き潰した。


 順調だ。予定通りドラゴンを村から引き離し、その翼を破壊した。

 これでドラゴンが急な気まぐれを起こして村へと飛んで行ってしまうことも、短気を起こして空から襲いかかってくることもなくなった。


 時間が夜なのも良い。

 ドラゴンがどれほど夜目の利く生き物であったとしても、銃口から放たれる閃光やグレネードの爆炎を何度も直視していてはその感覚も麻痺するはずだ。

 一度も炎を吐いていないのもそれを嫌ってのことだろう、おそらく奴にはこちらがよく見えていないに違いない。


 「目標の翼部破壊を確認、予定通り次の作戦行動へと移る」


 誰に言うでもなくそう呟いて、走りながら次の攻撃の準備を始めた。


 ポーチから取り出したプラスチック爆薬に素早く電気信管を捻じ込む。

 自己鍛造弾に加工することはおろか、爆薬をこねて形を整える時間も、信管の誤作動を恐れて静電気を放電している余裕も無い。

 もし誤って起爆するなら俺の悪運もそこまでだったということだろう。


 しかし幸いにして信管が誤作動することはなく、無事に起爆準備を整えた。

 怒り狂ったドラゴンは引き続きこちらを追撃しているが、翼を焼かれて地面の上を転げまわっていたために少し距離が空いている。


 順調だ。次はこのまま可能な限り距離を保ち、水辺まで敵を誘導する。

 そこで爆薬を用いて脚に怪我を負わせ、その後にありったけの火力を用いてドラゴンを水中へと追い落とす。


 どれほど泳ぎが上手いかは分からないが、翼や脚を失えばおそらく沈む。そうでなくとも動きは鈍る。そうなれば――




 次の瞬間、俺は背中に強い衝撃を受け、横殴りに吹き飛ばされて地面を転がった。

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