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8:ルルシィ・ズ・乙女ゲー

・ルルシィさんがヒナさんのゲームの他のテストプレイヤー(最速フルコンプ)だった、みたいなシュルツさんの一夜の夢でも…!


リクエストありがとうございました。


「というわけで、キミが乙女ゲーのモニターに選ばれたんです」

「ふむ」


 わたしは今、白い部屋の真ん中に立っていた。

 顎に手を当てるわたしの前には、黒猫のぬいぐるみがいた。

 未来からやってきた『シュルツ』と名乗る社会人らしい。


「乙女ゲー……って、あれでしょ? 恋愛ゲームでしょう? わたしそういうの、あんまりやらないからなあ」

「なんでも、結構ゲーマーな大学生みたいじゃない? だったらまた別目線からモニターしてくれるかな、って」

「うーん、まあ頼ってくれたらなら、わたしだって頑張りたいけど、でもそれっぽいことが言えるかな」


 乙女ゲー、乙女ゲーかあ。

 バーチャルゲームだったらそういうんじゃなくて、もうちょっと血沸き肉踊るようなものだったら、良かったんだけどなあ。

 アクションでもRPGでもいいのに、乙女ゲーかあ。


「いや、楽しそうだからやるけど、やるはやるけどさあ」


 すると黒猫は三本の指を立てた。


「無事クリアーしてくれたら、キミの時代のお金で三百万円払います」

「――やろう」


 わたしは拳を握り、明後日の方を見ながら、しっかりとうなずく。


「乙女ゲーね、任せて。わたし大得意なの。大好き。発表された乙女ゲーは全部やっているわ。わたし将来の夢は乙女ゲーを作る会社に就職することなの。乙女ゲーこそ我が人生」

「嘘は良くないです、嘘は」


 ごめんなさい。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 というわけで、わたしは校門の前に降り立った。

 いや、ていうかこれ……。


「あの、わたしもう大学二年生なんだけど」

「うん、知っているよ?」

「でもこれ、高校の制服だよね……」

「別に二年ぐらいの違いしかないじゃない」


 そう言われても、こっちの気持ちが、ね……。

 ひらひらのスカート、苦手なんだよなあ。


「ジャージに着替えてもいい?」

「乙女ゲーの主人公がジャージというのは、果たしてアリなのだろうかどうだろうか……」

「シュルツくん、もうちょっと柔軟な思考になろう。スカートは防御力が低い。そうだろう?」

「キミどんだけ効率厨なの」


 しょうがない、歩き出そう。

 すると、早速幼なじみと遭遇エンカウントした。


「おいおい、流々(ルル)。ひとりで勝手にいくなって」

「ん」


 やってきたのは、赤髪の青年。あらイケメン。

 三島優斗くん、というらしい。


「ふーん、幼馴染くんかあ」


 わたしは腕組みし、うなずく。

 なるほど。


「気に入った?」

「パスだね」

「ふぁっ!?」

「通常の乙女ゲーでは幼馴染キャラは難易度が高いんだろうけど、この子からはそういうのを感じないね。わたしのゲーマーの血がちっとも騒がないよ」

「やべえ、なんかこの人面倒くさい」

「もっともっと攻略レベルが高い男の子を連れておいで!」

「そ、そのうち出会えるよ」

「楽しみにしているよ」


 にっこりと笑うわたしに、シュルツくんは嫌そうな顔をしていた。

「とんでもねえやつを誘っちまった……」って言っていたけどね。

 それわたし、昔ネトゲの攻略パーティーでも言われたことあるよ。



 かくしてわたしは、三日目で攻略対象者キャラを全員登場させる。

 全員のフラグを管理しつつ、一日ごとに取れるイベントを完璧にこなしていった。

 ひとつでもイベントを取り逃したら、リセットです。

 シュルツくんは「そこまでしなくても……」とげんなりしてたけど。

 まあまあ、それぐらいはやらせてちょうだいよ。


「あ、ていうか虎次郎くんと生徒会長のイベントを同時に進めて、ふたりとも公園のフラグを立てたまま進行すると、こなしてないのに生徒会長のフラグが消化されたことになっちゃうね」

「デバッカーさんなの?」


 ゲーム開始から半年もした頃には、わたしは誰とのエンディングもよりどりみどりになっていたのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 というわけで、告白である。

 結局わたしは最終的に、椋くんを選んでみた。


 なんかちょっとメガネがカッコ良かったのと、理知的な雰囲気が気に入った。

 わたしと似たような効率厨の匂いを感じ取ったのかもしれない。


「……というわけで、僕と付き合ってくれ、流々」

「んー」


 わたしはカバンのキーホルダーについているシュルツくんにささやく。


「ねえねえ、シュルツくん」

「なんですかー?」

「ここで椋くんが突然悪に取り憑かれて変身して、第二形態になって、わたしが椋くんを倒さなければ元の姿に戻らないっていう展開にはならないの?」

「ならないよ」

「せっかく持ち物に、スタンロッドも持ってきたのに……」

「どうして鞄に突っ込んでいるんだろうなって思っていたら、そんなことのために……」


 そんなことってなんだよ、大事だよ。

 急に襲い掛かられたら、自衛の武器は必要じゃないか。


 そんなことを話している間に、椋くんの告白は終わってしまった。

 まったく聞いていなかった……。


「なんか悪いことをしちゃったな……」

「え、いまさらじゃないの。『会話シーンスキップできる機能ないんだ』ってかなり初期の方に言ったよね」

「だ、だってイケメンの会話、だらだらと長いんだもの」

「キミ完全に、乙女ゲーの対象層じゃないよね……」


 わたしも先に断りを入れておきましたもの……。


「しかしあれだね、シュルツくん」

「はい」

「ボスも倒さずに、イベントを見るだけでクリアーなんてこれ、ゲームをした気にならないね……」

「上層部はどうしてこの人を誘ったんだ!」


 その叫び声とともに、わたしは元の世界へと戻っていったのであった――。

 死亡回数:0回。

 攻略:九条椋。


 シュルツより一言:やりがいがねえなー!

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