7:ルルシィ・ズ・クリスマス
・ルルシィの番外編が読みたいです!!クリスマス編!!
リクエストありがとうございました。
さて。
わたしはポキポキと首を鳴らす。
この日がやってきた。
きょうはクリスマス、すなわち12月24日。
世間では、まあね、恋人同士がイチャイチャする日って言われているけど。
でもわたしにはまるで関係がありません。
わたしの前には、三台のPCがあります。
デスクトップが二台、ラップトップが一台。
そのすべてに、別々のネトゲの画面が開かれています。
そう、クリスマスといったら、イベントの時期。
カップル? 独り身? 関係ないね。
いや独り身だけど。別に独り身だからってなに? だからなに!?
ネトゲの中でもわたしは独り身だよ! だからなに!?
いや、うん、変なところで体力を使っちゃダメね。
わたしはこれからクリスマス限定のモブを倒すために、張り込みするんだから。
わたしは口元に笑みを貼りつけながら、目の前に並んだ3つのコントローラーのうちのひとつを手に取る。
「わたしの戦いは、今始まったばかり!」
ノリノリで叫ぶわたし。
これこそがゲーマーのクリスマスだね!
「せんぱぁい……」
部屋の入り口で、ケーキを抱えた瑞穂が、わたしを哀れんだような目で見つめていた。
その目はやめて。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あの、先輩、本気ですか?」
「え、いやなにが?」
「それ、ですケド……」
指差すのは、並んだPCの数々。
メルキオール、バルタザール、カスパーと名づけた子たちだ。
わたしの人生を支えてくれている、可愛らしい子たち。
もし一台しかなかったら、PCが壊れたら数日間、ログインができなくなっちゃうからね。
三台持ちはオトナのたしなみよね。
と、そんなことを口に出すと、やはり瑞穂ちゃんは悲しそうな目をしている……。
「先輩、あのぉ、どこかディナーを食べに行ったり、しません?」
「え? しないよ。今月PC買ってバイト代使い切っちゃったし」
「うううう……」
うなりながらベッドでクッションを殴りつける瑞穂。
やめなさい、ホコリが舞い上がっちゃうよ、PCが悪くなっちゃうよ。
「ていうかむしろ先輩、きょうがなんの日か知っていますか?」
「知っているよ。ありとあらゆるネトゲで、サンタ服が配られるイベントが開催される日でしょう」
「クリスマスです! 街がイルミネーションで飾られる日ですよぉ!」
「電気代の無駄だよね。なんでやるんだろうね」
「皆が先輩みたいなことを考えているとしたら、ドン引きですぅ!」
「ネトゲの知り合いも、みんな同じようなことを言っているよ」
「なんで先輩みたいなのばっかりなんですかぁ!」
ぜえぜえと息を切らせる瑞穂ちゃん。
わたしは三台のディスプレイに目を走らせながら、ふと振り返って。
「そういえば瑞穂、きょうはずいぶんとおめかししているね。なにかあったの?」
「えっ? そ、そうですかぁ?」
「うん、デート帰りかなにか?」
「………………」
お、モブ発見。
ああっ、発見が遅かった! 取られた!
「ちぇっ、だめだなあ、もうちょっと気を配らないと」
「……先輩」
「ん?」
押し殺した声が届いたその時、瑞穂がパソコンの電源が刺さったマルチタップを、引き抜いた。
当然、PCさんたちは全滅である。
ああああああ。
「ちょ、ちょっとなにすんの! 瑞穂! これがウルティマオンラインだったらまず確実に殺されちゃっているよ! わたしの秘薬が入ったバックパック返してよ!」
「先輩、そこに座ってください」
「あ、はい」
え、なに、こわい。
瑞穂の目が据わっています。
わたしも思わず椅子に正座してしまいます。
瑞穂ちゃん、これは怒り新党ですよ。
なにか悪いことしてしまったかしら……。
「先輩」
「えと……なんでしょう」
「先輩がゲーム廃人なのは、知っています」
「は、はい」
「鬼のようにゲームをして、浴びるように楽しんで、なにもかも食らい尽くす餓鬼のようなゲーマーだということは、知っています」
「お、おう。なんか言い方ひどくありませんか」
「ですので! 多くは望みません!」
バンバンと机を叩く瑞穂。
その衝撃でケーキが飛び跳ねちゃっているよ。空飛ぶケーキかな?
「せめて! きょうはあたしと! 一緒にケーキを食べてください! ほら、ケンタッキーもありますから!」
「いやでもわたし、カロリーメイトめっちゃ買ってきたし。あとPC買ったからお金ないし」
「全部あたしのおごりですから! 先輩は黙ってついばんでいてください!」
「は、はい」
どうしよう、瑞穂のヒステリーが炸裂してしまっている。
え、でも、こうしている間に、モブがまたポップしているんじゃないかな……?
今から電源をさして電源を入れてログインするまで、5分少々……。ギリギリ間に合う、かしら……?
ばんっ!とテーブルを叩かれた。
「よそ見しないでください! ほら! 先輩こっち見て! こっちですぅ!」
「え? あ、はい」
綺麗なワンピースに身を包んだ瑞穂をじっと見つめて、しかしわたしはすぐに首を傾げる。
「え、なんで? なんで瑞穂を見るの?」
「……な、なんでもです!」
わからない。
いやまあ、食べよう、早く食べよう。
と、わたしたちは向かい合いながら、もぐもぐとケーキやらチキンやらを食べることにします。
じーっと瑞穂を見つめていると。
「……あんまり見なくていいので」
「瑞穂わがまま!」
「だってあたしが一緒にケーキ食べましょうて言っているのに、三台のPCでネトゲしているとかありえなくないですかぁ!?」
「あれ、約束したっけ」
「――!? しましたよ! でもインスタンスダンジョン行っていたから、ロクに聞いてなかったじゃないですかぁ!」
「そうだっけ……」
あ、やばいこれ、わたしが悪いパターンじゃない?
完全にむくれている瑞穂を前に、わたしはどうしようかと考えて。
えっと。
……よし、これだ。
わたしは瑞穂にそっとコントローラーを差し出す。
「わかった、瑞穂。一緒に、モブ狩りにいこうじゃないか。わたしのキャラを使っていいから」
「……このケーキがワンホール六千円の良いものじゃなかったら、顔面に叩きつけてやりますのに……」
瑞穂がまるで恨み事のように言った。
この子の考えることは相変わらず、さっぱりわからない……。