12:幼女とサタンさん
・サンタを待つ無邪気で奔放な少女に振り回されるサタンさんのお話を!
リクエストありがとうございました。
「サンタさん! 来てくれた!」
「いやワガハイは……」
両手をぱちぱちと打ち鳴らし、はしゃぐ幼女の前。
真っ黒な肌を持つ怪物は、なんだかいたたまれないような顔をしていた。
「ワガハイはサンタなどという軟弱なものではない」
「えっ、でも似たような名前だよね?」
「名前は確かに似ている、似ているが……」
薄暗い地下室である。
怪物の足元には、大量の血で描かれた魔法陣があった。
そこには召喚する者の名が刻まれている、刻まれてるのだが。
「クリスマスにより確実にサンタさんと会いたかったから! だから召喚することにしたの! 血の盟約を持ってわれにしたがうがいいぞサンター」
「間違っておるぞ!」
魔法陣の刻印は、『サタン』とあった。
幼女は書き間違えていたのだ。
「呼び出された以上、汝の命を叶えなければならぬ」
「プレゼントー?」
「汝が望むのなら、この世の富と名声、あらゆるものを差し出そう。無論、代償はいただくがな」
それはまさしく悪魔の誘いだ。
サタンと契約した幼女がなにかを望めば、彼女は決してただでは済まない。
このような無知なる娘を生贄にするのはサタンとて気が進まないが、しかしうっかりと呼び出した彼女が悪いのだ。
さて、彼女はその命で一体なにを望むのか。
復讐か、あるいは永遠の命か。それとも、絶大なる力か。
なんだって叶う、なんでも叶う。それだけの能力が、サタンにはあるから。
「さあ汝、一体なにを望むのか」
「別に?」
「……は?」
こともなく答えた幼女に、サタンは目を丸くした。
「……欲しい物ぐらい、あるだろう」
「ないよー」
「クリスマスの時期だぞ」
「なにもかも持っているしー」
「膨大な富とか、莫大な名声とか」
「お父さんは石油王で、お母さんはハリウッド女優だよ」
「……妖怪ウォッチメダルとか」
「全種類三枚ずつ持っているよ」
なんということだ。
あの、ビックカメラですら、全種類揃っていない妖怪ウォッチメダルが……。
今どき、どこのショッピングモールでも、クリスマス用のラッピング用紙が置いてある妖怪ウォッチの関連商品の中でも、特に人気の高いものなのに……!
「嫌いなやつとか、いないのか?」
「いないよー、みんなだいすきー!」
「永遠の命とか、ほしくない?」
「えいえんってなーにー?」
「えと……その、すっごい長いやつ」
「ほどほどでいいよ! 欲張り過ぎたら怒られちゃう!」
「妖怪ウォッチメダルを全三種類ずつ持っている汝がそれを言うか……?」
一種類も手に入らない家庭もあるというのに。
ならばそのメダル、世界中の恵まれない子に渡してやればいいのに!
「ならば、なぜサンタに会いたがったのだ……望むものがあったのだろう……」
「えっと」
「こんな大層な魔法陣まで作って、なぜワガハイを召喚したのだ! ワガハイはサタンだが!」
「うーんと」
「さあ! さあ望め! ありとあらゆることを、望むがいい! さすれば、ワガハイはすべてを与えよう! 闇の力を求めよ! さあ! さあ!」
「あ、わかった! じゃあ、一個だけあったよ!」
「よし来た! さあ来い!」
「あのね、あのね……」
――その日、幼女の願いによって、世界中のサンタに休みが与えられた。
12月25日、子供たちの枕元にプレゼントが行なわれることはなくなった。
これによって、世間のお父さんお母さんたちには休みが与えられた。
しかし、玩具業界は大きく衰退し、代わりにバカ売れしている妖怪ウォッチのメダル工場が数を増してゆくこととなる。
多種多様な玩具が姿を消し、妖怪ウォッチで溢れたその棚は、果たして幼女の望んだ世界であったのだろうか。
幼女は魂と引き換えに、そんな世界を作ったのだった。
と――。
本来はそういったことをやりたかったのだろうが。
幼女が望んだのは、『世界中のサタンの休日』だった。
またもや幼女は間違ったのだ。
その瞬間、休日となったサタンは幼女の魂を奪うことはできず、「うあわああああ」と叫びながら悶えていた。
休みの日だが自宅にも帰れない。しょうがないから幼女の家で妖怪ウォッチ真打を始めたサタンがすっかりハマってしまって、その後、仲間になった黒鬼の強さに思わず度肝を抜かれ、幼女とふたりで妖怪ウォッチ大会へ出場するまでの熱血ストーリーが繰り広げられるのだが――。
それはまた別の話であった。