第7話 冒険者ギルド
今月中にはプロローグは終わらせたい。
数分前、倞達の目の前に現れたのは狼――ベオウルフの群れだった。普通の狼と違い、尻尾が2つあり大きさも普通の狼より大きい。対面しているだけで自身より弱い相手の戦意を無くす事ができる魔眼を持っている。ベオウルフはその魔眼によって弱らせた獲物を仕留めるため恐れられている魔獣だ。
そんなベオウルフだが、現在一言で表すなら「蹂躙」と言う言葉が相応しい状況へと陥っていた。
「『バーニングランス』!」
倞が魔法を唱えると背後に複数の魔方陣が展開されその一つ一つから炎の槍が放たれる。かなりの速さでベオウルフに向かい飛んで行くが、流石は『未開の森』に生息しているだけあって難なく避ける。だが槍が着弾した瞬間、辺り一帯が爆ぜた。予想外な事態にベオウルフの動きが止まる。その哀れなベオウルフは次に飛んで来た槍によって貫かれ爆散する。
「うえっ……。流石にグロ過ぎるだろこれ……。」
口ではそう言いつつも攻撃の手は緩めない。暫くして倞が攻撃をやめ、舞い上がった土煙が消えると、そこにはかなりの数のクレーターと元はベオウルフだった物の肉片が散らばっていた。
「……。まさか此処までとは。」
リリスもこの惨事に驚いていた。
それもそうだ。『バーニングランス』は『バーニングボール』を発展させた魔法で構成に「火」「槍」「爆発」を必要とし、今回の様な時は「火」「槍」「爆発」「多数」「拡散」を書き込まなければいけない。
倞は実戦で、しかもまだ見た事すら無い魔法を即座に構築し発動まで持って行ける技量と、爆発の被害をリリスに届かない様に配置された魔方陣。倞は既に戦闘に関する才能を開花させ始めている。
――道を踏み外さなければ良いのだが……
リリスは未だに初めに立った位置から動かない倞を見て不安に駆られた。
*
「――着いたぞ。此処がエードだ。」
あれから4日、倞達はラツア王国の都市の一つであるエードの町に来ていた。
江戸時代の頃の街並みそっくりなその場所は倞に懐かしい物を感じさせていた。
「へぇ、想像していた所とちょっと違うな。」
どちらかと言うと中世のヨーロッパの様な街並みを想像していた倞は意外そうに言った。
「この様な街並みはこの大陸でも此処だけだ。後は一般的な街並み――っと、お前は知らないか。普通は石造りの建物が立ち並んでいるんだ。」
と、リリスが軽く建築物について語る。
そんな風に歩いていると、周りの建物より大きな建物が目に入った。
「取敢えず此処で身分を証明するものを作っておこう。その方が何かと便利だ。」
*
建物の中は中々広く正面にはカウンターが、右側には畳が敷かれており、その上で何人かの人が飯を食べている。左側には掲示板があり、所狭しに「首都アウラまでの護衛」「ベオウルフ撃退」「子供を探してください」「誰でも良いから付き合ってください」など書かれた紙が貼られていた。
リリスはそれらを見る事無く真っ直ぐ進む。
「すまん。登録をしたいのだが……。」
「はい、登録ですね。少々お待ちください。」
リリスとカウンターにいた受付嬢が話し合い、受付嬢が何かをやりに一旦離れる。
「なぁ、此処って何の施設?」
「あぁ、言って無かったな。此処は冒険者ギルドエード支部だ。」
「……へ?」
「む、まず冒険者ギルドから説明しないといけなかったか。……冒険者ギルドとはこの大陸の至る所に存在し、簡単なお使いから討伐依頼まで幅広く取り扱っている――要は『何でも屋』とでも言えるか。その冒険者ギルドに属するものは皆『冒険者』と呼ばれる。一部の者は『傭兵』などと呼ばれたりするがな。」
「お待たせしました。ではこちらの用紙に必要事項をご記入ください。」
リリスが言い終えたと同時に受付嬢が来た。手に持ってきたのはA4用紙ほどの大きさの紙でびっしりと日本語で表記されていた。
(此処って異世界だよな……。なんで日本語が?)
倞が疑問に思っている横でリリスが用紙に記入を済ませていた。
受付嬢が用紙を受け取り書かれた内容を確認する。
「登録されるお方の名前がリョウ・タカハシ。性別は男。種族は人族。以上でお間違い無いですか?」
「大丈夫だ。」
「ではもう少々お待ちください。」
受付嬢は紙を持ちまたカウンターから離れる。倞はリリスの横に並び何をしていたのか尋ねると、
「お前の冒険者登録を済ませていた。此方の文字が分からないと思ったから勝手に記入させてもらった。必要最低限の事だけは書いておいた。」
と返事が返ってきた。
「いやいや、身分証明作るのに冒険者登録しなくても良いんじゃ無いか?」
「冒険者カードがあればそれだけで身分を証明する事が出来るし、ギルド直営の宿などで安く泊まる事が出来たりと何かと便利だからな。必要になれば金を稼ぐ事も出来る。」
それに、とリリスが続きを言おうとした所で受付嬢が今度はカードを持ってやってくる。
「それでは此方が冒険者カードとなります。紛失した際は最寄りの冒険者ギルドへと連絡ください。再発行をする事が出来ますが、初回は銀貨1枚、二回目からは銀貨10枚となります。何か質問はございますか?」
リリスが首を振ると受付嬢は「ようこそ冒険者ギルドへ。歓迎いたしますタカハシ様。」と深くお辞儀をした。
倞はどうも、と軽く会釈をし先に出てしまったリリスの後ろを追いかけた。